医薬品ネット販売規制事件 最判平成25年1月11日

医薬品ネット販売規制事件 最判平成25年1月11日

平成24年(行ヒ)第279号 医薬品ネット販売の権利確認等請求事件
平成25年1月11日 第二小法廷判決

 平成25年の始めに出た医薬品のネット販売規制についての重要判例ですね。非常に有名なもので報道も多くされていました。命令が法律の委任を逸脱しているのかという論点としても重要です。

第1 判旨

厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。



しかるところ,新施行規則による規制は,前記2(1)のとおり一般用医薬品の過半を占める第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する内容のものである。これに対し,新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。


また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。


なお,検討部会における議論及びその成果である検討部会報告書並びにこれらを踏まえた新薬事法に係る法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたのは上記事実関係等のとおりであるが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は上記のように不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む上記事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。


そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。


したがって,新施行規則のうち,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について,① 当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならない(159条の14第1項,2項本文)ものとし,② 当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならない(159条の15第1項1号,159条の17第1号,2号)ものとし,③郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとした各規定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。


第2 全文(■は別)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理 由
上告代理人青野洋士ほかの上告受理申立て理由について

■事案の概要

1 本件は,平成18年法律第69号1条の規定による改正後の薬事法(以下「新薬事法」という。)の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則(以下「新施行規則」という。)において,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(以下「郵便等販売」という。)は一定の医薬品に限って行うことができる旨の規定及びそれ以外の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも店舗において薬剤師等の専門家との対面により行わなければならない旨の規定が設けられたことについて,インターネットを通じた郵便等販売を行う事業者である被上告人らが,新施行規則の上記各規定は郵便等販売を広範に禁止するものであり,新薬事法の委任の範囲外の規制を定める違法なものであって無効であるなどと主張して,上告人を相手に,新施行規則の規定にかかわらず郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める事案である。

2(1) 新薬事法の関係規定

一般用医薬品(医薬品のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの。25条1号)は,

第一類医薬品(その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品のうちその使用に関し特に注意が必要なものとして厚生労働大臣が指定するもの等。36条の3第1項1号),

第二類医薬品(その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品(第一類医薬品を除く。)であって厚生労働大臣が指定するもの。同項2号)及び

それ以外の第三類医薬品(同項3号)に区分される。

なお,原審の認定によれば,平成19年当時における一般用医薬品の販売高に占める構成比は,第一類医薬品が約4%,第二類医薬品が約63%,第三類医薬品が約33%となっていた。

27条に規定する店舗販売業者は,厚生労働省令で定めるところにより,第一類医薬品については薬剤師,第二類医薬品及び第三類医薬品については薬剤師又は登録販売者(一般用医薬品の販売又は授与に従事するのに必要な資質を有することを確認するために都道府県知事が行う試験に合格するなどして36条の4第2項の登録を受けた者)に販売させ,又は授与させなければならない(36条の5)。

店舗販売業者は,
① その店舗において第一類医薬品を販売し,又は授与する場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師をして,所定の事項を記載した書面を用いて,その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならず(36条の6第1項),

② その店舗において第二類医薬品を販売し,又は授与する場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならず(同条2項),

③ その店舗において一般用医薬品を購入し,若しくは譲り受けようとする者又はその店舗において一般用医薬品を購入し,若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によって購入され,若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者から相談があった場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない(同条3項)。

ただし,同条1項の規定は,医薬品を購入し,又は譲り受ける者から説明を要しない旨の意思の表明があった場合には,適用しない(同条4項)。

(2) 新施行規則の関係規定

店舗販売業者は,当該店舗において,

① 第一類医薬品については,薬剤師に,自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして,対面で販売させ,又は授与させなければならず(159条の14第1項),

② 第二類医薬品又は第三類医薬品については,薬剤師又は登録販売者に,自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして,対面で販売させ,又は授与させなければならないが
(同条2項本文),

第三類医薬品を販売し,又は授与する場合であって,郵便等販売を行う場合は,この限りでない(同項ただし書)。

店舗販売業者は,当該店舗内の情報提供を行う場所において,

① 新薬事法36条の6第1項の規定による第一類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師に対面で行わせなければならず(159条の15第1項1号),

② 新薬事法36条の6第2項の規定による第二類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師又は登録販売者に対面で行わせるよう努めなければならず(159条の16第1号),

③ 新薬事法36条の6第3項の規定による第一類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師に対面で行わせなければならず(159条の17第1号),

④ 新薬事法36条の6第3項の規定による第二類医薬品又は第三類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師又は登録販売者に対面で行わせなければならない(159条の17第2号)。


店舗販売業者は,郵便等販売を行う場合には,第三類医薬品以外の医薬品を販売し,又は授与してはならない(142条,15条の4第1項1号)。

■事実関係の概要

3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人らは,平成18年法律第69号1条の規定による改正前の薬事法(以下「旧薬事法」という。)の下で店舗を開設してインターネットを通じた郵便等販売を行っていた事業者である。

なお,旧薬事法の下においても,厚生省ないし厚生労働省は,各地方自治体に対し,医薬品については対面販売を実施するよう指導することや,郵便等販売は対面販売の趣旨が確保されないおそれがあるからその範囲を一定の薬効群のものに限るよう指導することを求める通知等を度々発出していたが,旧薬事法に郵便等販売を禁止する規定がなかったこともあり,平成18年頃までには多くの事業者がインターネットを通じた郵便等販売を行っており,その対象品目には新薬事法の下における第一類医薬品や第二類医薬品に相当するものが多数含まれていた。

(2) 内閣府設置法37条2項に基づく合議制の機関として内閣府に設置されていた総合規制改革会議は,平成15年12月,コンビニエンスストアで解熱鎮痛剤等が販売可能となれば消費者の利便性は大幅に向上すること,薬局等において対面で服薬指導をしている実態は乏しい上,薬剤師が不在である例も多いにもかかわらず薬剤師が配置されていない事実に直接起因する副作用等による事故は報告されていないことなどからすれば,人体に対する作用が比較的緩やかな医薬品群については一般小売店でも早急に販売できるようにすべきであるなどとする旨の答申をした。


(3) 厚生労働大臣の諮問機関である厚生科学審議会は,平成16年4月,医学,薬学,経営学法律学,消費者保護の分野等関係各界の専門家・有識者等の委員による医薬品販売制度改正検討部会(以下「検討部会」という。)を設置した(なお,郵便等販売を行う事業者やその関係者は委員に加わっておらず,検討部会における意見陳述等の機会もなかった。)。

検討部会は,平成17年12月,
①旧薬事法は医薬品の販売に際し薬剤師等を店舗に配置することにより情報提供を行うことを求めているが,現実には薬剤師等が不在であったり情報提供が必ずしも十分に行われていない実態があるなどとした上,

セルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち,軽度な身体の不調は自分で手当てをすること)を支援する観点から,安全性の確保を前提とし,利便性にも配慮しつつ,国民による医薬品の適切な選択,適正な使用に資するよう,薬局等において専門家によるリスクの程度に応じた情報提供等が行われる体制を整備することを薬事法改正の理念として掲げ,

③ 同改正の内容として,一般用医薬品のリスクの程度に応じた情報提供等の確実な実施を担保するために購入者と専門家がその場で直接やり取りを行い得る対面販売を医薬品販売に当たっての原則とし,他方で情報通信技術の活用には慎重を期すべきであるが,第三類医薬品については一定の要件の下で郵便等販売を認めるなどとする報告書(以下「検討部会報告書」という。)を公表した。

(4) 厚生労働省は,検討部会報告書の内容等を踏まえて旧薬事法を改正する法案を作成し,上記法案は平成18年3月に内閣から国会に提出された。

上記法案の審議において,政府参考人である厚生労働省医薬食品局長は,医薬品については対面販売が重要であり,インターネット技術の進歩はめざましいものの,現時点では検討部会報告書を踏まえて医薬品販売におけるその利用には慎重な対応が必要である旨答弁した。また,参考人として出席した検討部会の部会長は,検討部会の審議の経緯及び検討部会報告書の内容を説明した上,上記法案はこれらを十分に踏まえたものであり,医薬品はその本質として副作用等のリスクを併せ持つから,適切な情報提供が伴ってこそ真に安全で有効なものとなるが,これを対面販売で行っていこうというのが今回の議論の出発点であるなどと述べた。こうした審議を経て,上記法案は,衆参両院で賛成多数により可決成立した。

(5) 厚生労働省は,平成20年2月,新薬事法に規定された販売の体制や環境の整備を図るために必要な省令等の制定に当たって必要な事項を検討するため,薬学等の学識を有する者,都道府県の関係者及び一般用医薬品に関係する団体の代表を委員とする,医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会(以下「第一次検討会」という。)を設置した。

第一次検討会は,同年7月,一般用医薬品に係る郵便等販売は,購入者の利便性やこれまでの経緯に照らして一定の範囲で認めざるを得ないが,販売時に情報提供を専門家が対面で行うことが困難であるから,販売時の情報提供に関する規定のない第三類医薬品を販売する限度で認めるのが適当であるなどとする趣旨の報告書を公表した。

(6) 厚生労働省は,第一次検討会による上記(5)のような報告書の内容を踏まえ,薬事法施行規則等の一部を改正する省令案(以下「改正省令案」という。

うち郵便等販売の規制に係る部分は,下記(7)のとおり新施行規則と基本的に同一である。)の立案作業を行った。他方,総合規制改革会議の後身として内閣府に設置されていた規制改革会議は,平成20年11月,改正省令案につき,新薬事法には郵便等販売を禁止する明示的な規定はなく,郵便等販売が店頭での販売よりも安全性に劣ることも実証されておらず,消費者の利便性を阻害することになるなどの理由から,郵便等販売の規制に係る部分を全て撤回すべきである旨の見解を示した。

なお,厚生労働省が改正省令案につき行政手続法39条1項の規定による意見公募手続を実施したところ,郵便等販売に関する意見2353件のうち2303件は,郵便等販売を第三類医薬品以外の医薬品についても認めるべきであるという趣旨のものであった。


(7) 改正省令案に基づき,薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)が平成21年2月6日に制定・公布され,一部の規定を除き同年6月1日から施行するとされた。他方,厚生労働大臣の指示により,同年2月13日,新制度の下で国民が医薬品を適切に選択し,かつ,適正に使用することができる環境作りのために国民的議論を行うことを目的として,被上告人X1の代表者を含む関係各界の専門家・有識者等を構成員とする,医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会の設置が決定された。

同検討会における検討は同年5月まで続けられたが,上記省令の維持を主張する趣旨の意見と上記省令中の郵便等販売に係る規制の緩和を求める趣旨の意見とが対立し,議論は収束しなかった。

厚生労働省は,同月,上記省令の附則部分に離島居住者に対する第二類医薬品に係る郵便等販売を一定期間に限り認めるなどの経過措置を追加する等の省令案の作成作業を行い,同年6月1日,同経過措置等に係る部分(平成21年厚生労働省令第114号)を含む新施行規則が施行された。

薬事法が医薬品の製造,販売等について各種の規制を設けているのは,医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためである(最高裁平成元年(オ)第1260号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照)。

このような規制の具体化に当たっては,医薬品の安全性や有用性に関する厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要があるところである。

なお,上記事実関係等からは,新薬事法の立案に当たった厚生労働省内では,医薬品の販売及び授与を対面によって行うべきであり,郵便等販売については慎重な対応が必要であるとの意見で一致していたことがうかがわれる。


そこで検討するに,上記事実関係等によれば,新薬事法成立の前後を通じてインターネットを通じた郵便等販売に対する需要は現実に相当程度存在していた上,郵便等販売を広範に制限することに反対する意見は一般の消費者のみならず専門家・有識者等の間にも少なからず見られ,また,政府部内においてすら,一般用医薬品の販売又は授与の方法として安全面で郵便等販売が対面販売より劣るとの知見は確立されておらず,薬剤師が配置されていない事実に直接起因する一般用医薬品の副作用等による事故も報告されていないとの認識を前提に,消費者の利便性の見地からも,一般用医薬品の販売又は授与の方法を店舗における対面によるものに限定すべき理由には乏しいとの趣旨の見解が根強く存在していたものといえる。

しかも,憲法22条1項による保障は,狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照),旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。

これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。

しかるところ,新施行規則による規制は,前記2(1)のとおり一般用医薬品の過半を占める第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する内容のものである。これに対し,新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。

また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。

なお,検討部会における議論及びその成果である検討部会報告書並びにこれらを踏まえた新薬事法に係る法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたのは上記事実関係等のとおりであるが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は上記のように不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む上記事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有
していたとはいい難い。

そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。


したがって,新施行規則のうち,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について,① 当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならない(159条の14第1項,2項本文)ものとし,② 当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならない(159条の15第1項1号,159条の17第1号,2号)ものとし,③郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとした各規定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。


5 以上によれば,新施行規則の上記各規定にかかわらず第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認を求める被上告人らの請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美 裁判官

株式会社を設立する新設分割・詐害行為取消権 最判平成24年10月12日

最判平成24年10月12日
株式会社を設立する新設分割・詐害行為取消権

会社法810条で新設分割に異議を出せる債権者は、新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として新設分割設立会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない新設分割株式会社の債権者に限られている。
そこで、濫用的な新設分割の場合に、異議を出せない債権者が詐害行為取消権によって対応をすることができるかについて示した有名な事例です。

第1 条文・判例
(詐害行為取消権)
第424条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。


会社法810条(債権者の異議)

次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、新設合併等について異議を述べることができる。
一 新設合併をする場合 新設合併消滅株式会社の債権者
二 新設分割をする場合 新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として新設分割設立会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない新設分割株式会社の債権者(第763条第12号又は第765条第1項第8号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、新設分割株式会社の債権者)
三 株式移転計画新株予約権新株予約権社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権社債についての社債権者

2 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第4号の期間は、1箇月を下ることができない。

一 新設合併等をする旨
二 他の消滅会社等及び設立会社の商号及び住所
三 消滅株式会社等の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

3 前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第939条第1項の規定による定款の定めに従い、同項第2号又は第3号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(新設分割をする場合における不法行為によって生じた新設分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。

4 債権者が第2項第4号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該新設合併等について承認をしたものとみなす。

5 債権者が第2項第4号の期間内に異議を述べたときは、消滅株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該新設合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。

2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

第2 判旨

新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有するものであるということができるが,他方で,新たな会社の設立をその内容に含む会社の組織に関する行為でもある。



財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上,会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが(大審院大正7年(オ)第464号同年10月28日判決・民録24輯2195頁参照),このような新設分割の性質からすれば,当然に新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することもできず,新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては,新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するというべきである。



そこで検討すると,まず,会社法その他の法令において,新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。



また,会社法上,新設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条),一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず,新設分割により新たに設立する株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については,詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存するところである。



ところで,会社法上,新設分割の無効を主張する方法として,法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴えが規定されているが(同法828条1項10号),詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。




そうすると,株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。



したがって,上記のように債権者保護の必要性がある場合において,会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって,新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。


第3 全文(■は筆者)
平成22年(受)第622号 詐害行為取消請求事件
平成24年10月12日 第二小法廷判決


主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人蠔薫の上告受理申立て理由について

■ 事案の概要

1 本件は,Aに対する債権の管理及び回収を委託された被上告人が,Aが第1審判決別紙物件目録及び記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を新設分割により上告人に承継させたことが詐害行為に当たるとして,上告人に対し,詐害行為取消権に基づき,その取消し及び本件不動産についてされた会社分割を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案である。

■ 事実関係

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 被上告人は,債権管理回収業に関する特別措置法2条3項に規定する債権回収会社である。
 Bは,平成12年12月13日,Cに対し,5億6000万円を貸し付け(以下,同貸付けに係る債権を「本件貸金債権」という。),Dは,同日,Bに対し,本件貸金債権に係る債務を連帯保証した(以下,同連帯保証に係る保証債務を「本件保証債務」という。)。
・Bは,平成14年5月10日,Eに対し,本件貸金債権を譲渡した。Eは,平成17年9月16日,Fに対し,本件貸金債権を譲渡し,同社は,同日,被上告人に対し,本件貸金債権の管理及び回収を委託した。同日時点における本件貸金債権の元本の残高は約4億5500万円であり,その後,これが弁済されたことはうかがわれない。
・Aは,平成16年8月6日,Dを吸収合併し,本件保証債務を承継した。
 Aは,平成19年9月1日,株式会社である上告人を新たに設立すること,Aは上告人に本件不動産を含む第1審判決別紙承継権利義務明細表①記載の権利義務を承継すること,上告人がAに上告人の発行する株式の全部を割り当てることなどを内容とする新設分割計画を作成し(以下,同新設分割計画に基づく新設分割を「本件新設分割」という。),同年10月1日,上告人の設立の登記がされ,本件新設分割の効力が生じた。

・本件新設分割により,上告人はAから一部の債務を承継し,Aは上記承継に係る債務について重畳的債務引受けをしたが,本件保証債務は上告人に承継されなかった。

・Aは,平成19年10月12日,本件不動産について,同月1日会社分割を原因として,上告人に対する所有権移転登記手続をした。

 Aが本件新設分割をした当時,本件不動産には約3300万円の担保余力があった。しかし,Aは,その当時,本件不動産以外には債務の引当てとなるような特段の資産を有しておらず,本件新設分割及びその直後に行われたGを新たに設立する新設分割により,上告人及びGの株式以外には全く資産を保有しない状態となった。

■ 第2審 大阪高裁平成21年12月22日

3 原審は,新設分割は財産権を目的とする法律行為であり,会社法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者については詐害行為取消権の行使が否定されるべき理由はなく,その効果も訴訟当事者間において相対的に取り消されるにとどまり会社の設立自体の効力を対世的に失わせるものではないとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象になり得ると判断した上で,上記2の事実関係の下において,本件新設分割は詐害行為に当たるなどとし,被上告人の請求を認容すべきものとした。

■ 上告理由

4 所論は,会社の組織に関する行為である新設分割は民法424条2項にいう財産権を目的としない法律行為であり,また,新設分割を詐害行為取消権行使の対象とすると,新設分割の効力を否定するための制度として新設分割無効の訴えのみを認めた会社法の趣旨に反するほか,同法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者に同手続の対象とされている債権者以上の保護を与えることになるなどとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象にならないというのである。

■ 判旨
5 新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有するものであるということができるが,他方で,新たな会社の設立をその内容に含む会社の組織に関する行為でもある。

財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上,会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが(大審院大正7年(オ)第464号同年10月28日判決・民録24輯2195頁参照),このような新設分割の性質からすれば,当然に新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することもできず,新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては,新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するというべきである。

そこで検討すると,まず,会社法その他の法令において,新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。

また,会社法上,新設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条),一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず,新設分割により新たに設立する株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については,詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存するところである。

ところで,会社法上,新設分割の無効を主張する方法として,法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴えが規定されているが(同法828条1項10号),詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。

したがって,上記のように債権者保護の必要性がある場合において,会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって,新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。

そうすると,株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。

この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。

6 以上によれば,本件新設分割が詐害行為取消権行使の対象になるものとして,被上告人の請求を認容した原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦の補足意見がある。

■ 補足意見 須藤正彦

裁判官須藤正彦の補足意見は,次のとおりである。

私は法廷意見に賛同するものであるが,本件新設分割によって債権者が害されることについて,以下の私見をもって補足しておきたい。

本件新設分割によって,その直前の時点でのAに対する一般債権のうち,上告人によって承継されない本件保証債務(約4億5500万円)を含む債務に係る一般債権(以下「本件残存債権」という。)と,承継された債務に係る一般債権(以下「本件承継債権」という。)とは,その引当てとなる財産(責任財産)が異なることになる。

すなわち,原審の確定した事実によれば,本件新設分割の直前の時点では,一般債権総体(本件保証債務に係る債権及びその余の債権)を構成していた本件残存債権及び本件承継債権のいずれにとっても,責任財産は,本件新設分割直前にAが有していた一般財産の総体,つまり,本件不動産(担保余力分約3300万円)及びその余の資産であって,共通のものであった。ところが,本件新設分割によって,本件残存債権の責任財産は,本件不動産(担保余力分)が失われ,上告人に承継されない一般財産及び上告人の株式のみとなったのに対し,本件承継債権の責任財産は,本件不動産(担保余力分)を含む承継された一般財産となった。

本件新設分割直前,Aは,本件保証債務を除いても債務超過の状態で,責任財産として見るべきものは本件不動産程度で大幅な実質的債務超過状態であったこと,及び本件残存債権の額の方が本件承継債権の額に比して相当に多額であることもうかがわれる。

本件残存債権の責任財産として新たに加わる上告人の株式は本件新設分割の対価であるが,その対価が相当なものであるとしても,本件新設分割により承継させる権利義務,つまり第1審判決別紙承継権利義務明細表①記載の資産と負債の差額や,上告人の資本金が100万円であることから見ると,その株式の価値は,100万円からさほど隔たるところはないといえる。そうすると,上記の本件事情のもとでは,説明の便宜上極く比喩的に言うならば,本件新設分割によって,多額である本件残存債権の責任財産は,約3300万円のものが100万円程度のものとなってしまったのに対し,少額である本件承継債権のそれは約3300万円のものが引き続き維持されることになったのである。要するに,本件新設分割における対価が相当であるとしても,Aの純資産(株式価値)は変動しないが,本件残存債権の責任財産は大幅に変動するなどの事態が生じ,かつ,本件残存債権の債権者と本件承継債権の債権者との間で著しい不平等が生ずるに至ったということである。


(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官小貫芳信)