最判平成25年10月25日 収用委員会の裁決の判断内客が損失補償に関する事項に限られている場合でも,損失補償に関する訴えではなく,裁決の取消訴訟を提起することができるとした事例

最判平成25年10月25日 収用委員会の裁決の判断内客が損失補償に関する事項に限られている場合でも,損失補償に関する訴えではなく,裁決の取消訴訟を提起することができるとした事例


事件番号
 平成24(行ヒ)187
事件名
徳島県収用委員会裁決取消請求事件
裁判年月日
 平成25年10月25日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
 判決
結果
 破棄自判
判例集等巻・号・頁
 集民 第244号67頁
原審裁判所名
高松高等裁判所
原審事件番号
 平成23(行コ)24
原審裁判年月日
平成24年2月23日
判示事項
土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合にその名宛人が上記裁決の取消訴訟を提起することの可否
裁判要旨
土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合であっても,その名宛人は,上記裁決の取消訴訟を提起することができる。
参照法条
土地収用法94条7項,土地収用法94条8項,土地収用法133条


判旨
平成24年(行ヒ)第187号 徳島県収用委員会裁決取消請求事件
平成25年10月25日 第二小法廷判決


主 文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
本件を徳島地方裁判所に差し戻す。


理 由

上告人の上告受理申立て理由について

1 本件は,被上告人が実施した里道の拡幅工事に伴い,当該工事により新設された道路に接する土地の所有者である上告人が,当該道路を管理する阿南市による損失の補償について道路法70条4項に基づく土地収用法94条の規定による裁決の申請をしたところ,徳島県収用委員会からその申請を却下する旨の裁決を受けたため,同委員会の所属する被上告人を相手に,裁決手続の違法等を主張して,上記裁決の取消しを求める事案である。



2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 上告人は,徳島県阿南市○○所在の土地(以下「本件土地」という。)ほか2筆の土地を所有し,これらの土地を自宅の敷地として一体として使用している。


(2) 被上告人は,平成19年9月11日から同20年3月7日までを工期として,県道××線改良工事の附帯工事として,本件土地に接する里道を拡幅して市道となる道路を新設する工事(以下「本件工事」という。)を実施した。阿南市は,道路法所定の道路管理者として,本件工事により新設された道路(以下「本件道路」という。)を市道として管理している。

(3) 上告人は,平成20年12月25日付けで,阿南市長に対し,本件工事により上告人の自宅の敷地への出入りに支障が生じているとして,道路法70条1項に基づく通路の新築を請求した。これに対し,阿南市は,平成21年1月26日付け及び同年2月4日付けで,上告人に対し,上記請求には応じられない旨の回答をした。


(4) 上告人は,平成21年3月4日付けで,徳島県収用委員会に対し,阿南市との間で道路法70条1項の規定による通路の新築に係る損失の補償についての協議が成立しなかったとして,同条4項に基づき,土地収用法94条の規定による裁決の申請をした。これに対し,徳島県収用委員会は,本件道路から本件土地への出入りは可能であり,本件工事による損失は生じていないなどとして,上告人の上記申請を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。


3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の本件訴えを却下すべきものとした。


本件裁決は,上告人に本件工事による損失が生じておらず損失の補償は不要であるとしたもので,道路法70条4項に基づく土地収用法94条8項の規定による裁決であって,損失の補償に関する事項についてしか判断していないところ,損失の補償に関する事項については損失の補償に関する訴え(同法133条2項)によるべきであるから,本件裁決の取消訴訟は不適法である。


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。


土地収用法に基づく収用委員会の裁決は,行政事件訴訟法3条2項の「処分」に該当するものであるから,上記裁決の名宛人は,土地収用法133条1項又は行政事件訴訟法14条3項所定の出訴期間内に,収用委員会の所属する都道府県を被告として(同法11条1項),収用委員会の裁決の取消訴訟を提起することができる。


また,土地収用法133条2項及び3項は,収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えに係る出訴期間及び被告とすべき者を定めているところ,上記各項が収用委員会の裁決の取消訴訟とは別個に損失の補償に関する訴えを規定していることからすれば,同法において,収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する事項については損失の補償に関する訴えによって争うべきものとされているのであって,上記裁決の取消訴訟において主張し得る違法事由は損失の補償に関する事項以外の違法事由に限られるものと解される(同法132条2項参照)。もっとも,これは収用委員会の裁決の取消訴訟において主張し得る違法事由の範囲が制限されるにとどまり,上記裁決の名宛人としては,裁決手続の違法を含む損失の補償に関する事項以外の違法事由を主張して上記裁決の取消しを求め得るのであるから,同法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合であっても,上記裁決の取消訴訟を提起することが制限されるものではない。


そうすると,土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合であっても,その名宛人は,上記裁決の取消訴訟を提起することができるものというべきである。そして,以上の理は,道路法70条4項に基づく土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決についても同様に当てはまるものである。


したがって,本件裁決についてその名宛人である上告人が提起した取消訴訟である本件訴えは,本件裁決が同条7項又は8項のいずれの規定によるものであるかにかかわらず,適法である(なお,本件裁決は,道路法70条1項所定の要件を満たさない旨の判断に基づいて申請を却下したものであり,同条4項に基づく土地収用法94条7項の規定による裁決であると解される。)。


5 以上と異なる見解の下に,本件訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消し,上告人の主張に係る裁決手続の違法事由の存否につき審理させるため,本件を第1審に差し戻すべきである。


よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信)