知財高裁平成17年10月6日 ヨミウリオンライン事件

4 創作性 記事見出し

知財高裁平成17年10月6日
著作権侵害差止等請求事件
ミウリオンライン事件(著作権法判例百選〔第4版〕10-11頁参照)。

争点
インターネット上でライントピックスサービスの中で、ヨミウリオンラインの記事見出しを提供することは著作権法上、①複製権、②公衆送信権侵害となるか、また、③一般不法行為が成立するか。
①、②では、記事見出し著作物性が、③では、著作権侵害が成立しない場合の救済方法として、一般不法行為が成立するかが問題となる。

結論
記事見出しの著作物性については、地裁、高裁ともに否定。
しかし、高裁では、一般不法行為の成立が認められた。


不法行為の判断について
東京地裁(東京地判平成16年3月24日)
「2 不法行為の成否について
 原告は,YOL見出しが著作物と認められないとしても,YOL見出しを複製する等の被告の行為は,不法行為を構成する旨主張する。
 しかし,YOL見出しは,原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり,前記のとおり,著作権法等によって,原告に排他的な権利が認められない以上,第三者がこれらを利用することは,本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り,インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして,本件全証拠によるも,被告の行為が,このような不正な利益を図ったり,損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって,被告の行為は,不法行為を構成しない。原告のこの点についての主張は理由がない。」

知財高裁(知財高裁平成17年10月6日)
不法行為民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。

 インターネットにおいては,大量の情報が高速度で伝達され,これにアクセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし,価値のある情報は,何らの労力を要することなく当然のようにインターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであって,情報を収集・処理し,これをインターネット上に開示する者がいるからこそ,インターネット上に大量の情報が存在し得るのである。そして,ニュース報道における情報は,控訴人ら報道機関による多大の労力,費用をかけた取材,原稿作成,編集,見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ,インターネット上の有用な情報となり得るものである。

 そこで,検討するに,前認定の事実,とりわけ,本件YOL見出しは,控訴人の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。
 一方,前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。

 そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。」



*著作物性の判断について
 見出しは、ありふれたもので、創作性が認められず(思想又は感情を「創作的」に表現したものに当たらない)、記事で記載された事実を抜き出して記述したものであり、著作権法10条2項所定の「事実の伝達にすがいない雑報及び時事の報道」に該当するとして、著作物性が否定された。

第1審(東京地判平成16年3月24日)
著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(法2条1項1号)。
 「思想又は感情を表現した」とは,事実をそのまま記述したようなものはこれに当たらないが,事実を基礎とした場合であっても,筆者の事実に対する評価,意見等を,創作的に表現しているものであれば足りる。
 そして,「創作的に表現したもの」というためには,筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって,厳密な意味で,独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。
 他方,言語から構成される作品において,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が現れていないものとして,創作的な表現であると解することはできない。

(2) 上記の観点から,YOL見出しの著作物性の有無について判断する。

ア 原告は,YOL見出しは,YOL記事の内容が理解できるように創意工夫されたものであり,事項の選択,展開の仕方,表現の方法等に創作性がある旨主張する。そこで,まず,原告において挙げた具体例に基づいて,YOL見出しに著作物性があるか否かを検討することとする。

(ア) 中学生が飛び降り自殺した事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は,次のとおりである。

YOL見出し
「いじめ苦?都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」

YOL記事
「東京都板橋区内のマンションで今月11日夜,東京学芸大付属竹早中学校(文京区)に通う3年の男子生徒(15)が飛び降り自殺していたことが分かった。男子生徒は両親に,学校でいじめに遭っていることを打ち明けていたといい,警視庁板橋署は,男子生徒がいじめを苦に自殺したとみている。
 調べによると,男子生徒は同日午後9時ごろ,板橋区内のマンション下の通路に倒れているところを発見された。14階の非常階段踊り場に男子生徒の手提げカバンが残されていたが,遺書はなかった。男子生徒はこの日,学校へ行くと言い残して自宅を出たまま,登校していなかった。」

b YOL見出しの「都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」の部分は,東京都内のマンションで中学3年生の男子が飛び降り自殺をしたとの事実を,ごく普通の表現方法で記述したものである。また,「いじめ苦?」の部分は,YOL記事中の「警視庁板橋署は,男子生徒がいじめを苦に自殺したとみている。」と記述された部分を前提として,自殺原因が「いじめ苦」であるか否か断定できないことを示すため「?」を付記したものであって,慣用的な用法であるといえる。上記YOL見出しは,ありふれた表現であるから,創作性を認めることはできない。

(イ) 喫煙に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は,次のとおりである。

YOL見出し
「「喫煙死」1時間に560人」

YOL記事
世界保健機関(WHO)は15日,世界で年間490万人が,喫煙が原因で死亡しているとの推計を発表した。世界で1時間に560人,1日で1万3400人がたばこを原因とする肺ガンや結核などのため死んでいる計算になる。以下略」

b YOL見出しの「喫煙死」の部分は,喫煙が原因で死亡した事実や人数を指す表現であり,このような表現は「過労死」「事故死」などと同様にありふれたものである。YOL見出しの「1時間に560人」の部分は,YOL記事中の「1時間に560人の人が喫煙が原因で死亡している」と推計されるとの事実を記述したものにすぎない。以上のとおり,上記YOL見出しは,ありふれた表現であるから,創作性を認めることはできない。

(ウ) マナー本の海賊版を書いた医大教授に関する記事見出しについて

a YOL見出し及びYOL記事は,次のとおりである。

YOL見出し
「マナー知らず大学教授,マナー本海賊版作り販売」

YOL記事
「高知医科大(高知県南国市)の基礎医学系教授(63)が,出版元や編集者の許可を得ずに医師のマナー本を複製し,学生に販売したとして,同医科大は16日,この教授を戒告処分にした。以下略」

b YOL見出しの「大学教授,マナー本の海賊版作り販売」の部分は,YOL記事中の「大学教授がマナー本の海賊版を作って販売した」という事実を,ごく普通の表現方法で記述したものである。また,YOL見出しの「マナー知らず」の部分は,マナーという語句を,語句の先頭に配し,「マナー本・・・」と対句のように用いた表現方法であるが,このような対句的表現は,一般にしばしば使われる方法であって,格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは,全体として,ありふれた表現であるから,創作性を認めることはできない。

(エ) ホームレスの男性が銃撃された事件に関する記事見出しについて

a YOL見出し及びYOL記事は,次のとおりである。

YOL見出し
「ホームレスがアベックと口論?銃撃で重傷」

YOL記事
「22日午前3時ごろ,東京都品川区大崎1の店舗兼ホテルの2階テラスにあるベンチで,ホームレスの男性(43)が右肩を短銃で撃たれ,座り込んでいるのを巡回中の警備員が見つけた。銃弾は貫通しており,男性は重傷。現場には薬きょうと弾丸1発が落ちていた。目撃者などの話によると,同日午前3時前,現場近くの路上で男女がどなり合う声が聞こえた。男性は男女2人組と言い争いになった末に撃たれたと見られる。以下略」

b YOL見出しの「ホームレスが・・・銃撃で重傷」の部分は,「ホームレスが銃撃で重傷を負った」との事実を,ごく普通の表現方法で記述したものである。また,「アベックと口論?」の部分は,YOL記事中の「男性は男女2人組と言い争いになった末に撃たれたと見られる。」との部分を前提として,銃撃の原因が「口論」であるか否か断定することを避けるため「?」を付記したものであり,慣用的な用法であるといえる。上記YOL見出しは,ありふれた表現であるから,創作性を認めることはできない。

(オ) 公務員の男性を拉致して現金を奪った男女3人が逮捕された事件に関する見出しについて

a YOL見出し及びYOL記事は,次のとおりである。

YOL見出し
「男女3人でトンネルに「弱そうな」男性拉致」

YOL記事
「東京都新宿区の路上で今年7月,横浜市の公務員男性(28)が連れ去られ,現金などが奪われ,山梨県内のトンネルで解放される事件があり,警視庁捜査一課と四谷署は22日までに,山梨県石和町,職業不詳B容疑者(30)とアルバイト店員の女(19)ら男女3人を強盗傷害と逮捕監禁などの疑いで逮捕した。調べに対し3人は,「弱そうに見えたので襲った」などと供述。余罪をほのめかしており,同課で追及している。」

b YOL見出しの「男女3人でトンネルに・・・男性拉致」の部分は,「男女3人がトンネルに男性を拉致したという事実」を,ごく普通の表現方法で記述したものである。また,YOL見出しの「弱そうな」の部分は,YOL記事中の「調べに対し3人は『弱そうに見えたので襲った』などと供述」との記述から,被疑者が警察で供述した言葉をそのまま使用したものであって,格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは,全体として,ありふれた表現であるから,創作性を認めることはできない。

(カ) スポーツ飲料を盗んだ7人組が逮捕された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は,次のとおりである。

YOL見出し
「スポーツ飲料,トラックごと盗む…被害1億円7人逮捕」

YOL記事
「スポーツドリンクなどを積んだ大型トラックを車両ごと盗んだとして,埼玉県警捜査3課と春日部署などの合同捜査班は23日までに,同県岩槻市徳力,不動産業手伝いC被告(27)(窃盗罪で公判中)ら6人を窃盗容疑で逮捕,1人を同容疑で指名手配した。また,同県川口市西青木,会社役員D容疑者(65)を盗品等有償譲り受け容疑で逮捕した。以下略」

b YOL見出しの「スポーツ飲料,トラックごと盗む」の部分も「被害1億円7人逮捕」の部分も,いずれも事実を,ごく普通の表現方法で記述したものである。上記YOL見出しは,全体として,ありふれた表現であるといえるから,創作性を認めることはできない。

(キ) 拉致事件関連の記事見出しについて

a YOL見出し及びYOL記事は,次のとおりである。

YOL見出し
「E・Fさん,赤倉温泉でアツアツの足湯体験」

YOL記事
「一時帰国して新潟県妙高高原に滞在中の北朝鮮拉致被害者,Eさん(45)とFさん(46)の夫婦は23日午前,足だけを湯に浸す赤倉温泉の「足湯公園」を訪れ,高原の秋を満喫しながら旅の疲れをいやした。スーツ姿の2人は,靴下を脱ぎ,ズボンをたくし上げて,足首のあたりまで湯につかり,敷き詰められた小石を踏みしめて,「気持ちいい」と声を上げていた。午後には,Eさんが,幼いころから家族でたびたび遊んだ「池の平温泉スキー場」などを巡る。」

b YOL見出しの「E・Fさんが赤倉温泉で・・・足湯体験」の部分は,事実をごく普通の表現方法で記述したものである。また,「アツアツの」の部分は,「お湯が熱い」と「二人の仲が熱い」ということを掛けた修飾語であるが,格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは,全体として,ありふれた表現であるから,創作性を認めることはできない。

 前記ア(ア)ないし(キ)で検討したとおり,原告が創作的表現の具体例として挙げたYOL見出しは,いずれも客観的な事実を記述したものであるか,又はこれにごく短い修飾語等を付加したにすぎないものであって,創作的表現とは認められない。

イ 以上の検討を踏まえた上で,YOL見出し一般について判断する。
 証拠(甲1(枝番号の表記は省略する。),乙29)及び弁論の全趣旨によれば,①YOL見出しは,その性質上,簡潔な表現により,報道の対象となるニュース記事の内容を読者に伝えるために表記されるものであり,表現の選択の幅は広いとはいえないこと,②YOL見出しは25字という字数の制限の中で作成され,多くは20字未満の字数で構成されており,この点からも選択の幅は広いとはいえないこと,③YOL見出しは,YOL記事中の言葉をそのまま用いたり,これを短縮した表現やごく短い修飾語を付加したものにすぎないことが認められ,これらの事実に照らすならば,YOL見出しは,YOL記事で記載された事実を抜きだして記述したものと解
すべきであり,著作権法10条2項所定の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)に該当するものと認められる。

 以上を総合すると,原告の挙げる具体的なYOL見出しはいずれも創作的表現とは認められないこと,また,本件全証拠によるもYOL見出しが,YOL記事で記載された事実と離れて格別の工夫が凝らされた表現が用いられていると認めることはできないから,YOL見出しは著作物であるとはいえない。

ウ 原告は,YOL見出しは,YOL記事と一体のものとして,著作物性を肯定すべきであると主張する。
 仮に,原告が,YOL見出しを含むYOL記事全体について,著作権法上の保護を求めるのであれば,YOL見出しを含むYOL記事全体につき,著作物であるか否かを判断すべきであるといえる。そして,この点を肯定できる場合は多いといえよう。しかし,そのような主張を下にした場合,YOL記事全体と被告リンク見出しとの間には,実質的な同一性は認められないので,結局保護は図られないことになる。
 本件においては,原告は,著作権法上の保護を求めている対象につきYOL見出しであると主張する以上,YOL見出しについて,著作物性の有無を判断すべきであるから,著作物性の有無について,YOL記事と一体で判断すべきであるとする。

原告の主張は採用できない(なお,YOL見出しは,タイトル,表題,インデックス,案内として作成されたもので,その利用目的が異なること,見出し部分と記事部分とは明確に区別がつくこと等の理由から,YOL見出しの著作物性の有無を判断に当たり,YOL記事全体を基準とする原告の主張は,相当であるとはいえない。)

(3) 以上に認定判断したとおり,YOL見出しは著作物であるとは認められないから,被告がライントピックスの被告リンク見出しとしてYOL見出しを掲出させることが原告の著作権侵害となるとの原告の主張は理由がない。」


知財高裁(知財高裁平成17年10月6日)

第5 当裁判所の判断
 1 著作権侵害を理由とする請求に関する主張のうち,YOL見出しの著作権侵害(複製権侵害,公衆送信権侵害)をいう主張について

 (1) 控訴人は,被控訴人によるYOL見出しの著作権侵害行為があった期間につき,平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間を主張するものであるところ,平成14年12月8日から平成16年9月30日までの間については当審で追加されたものである。

 そして,原判決別紙4「記事見出し対照表」に記載のとおり,平成14年10月8日から同年12月7日までの期間における365個のYOL見出しについては,具体的に主張立証されているものの,上記追加された期間のものについては,具体的なYOL見出しについての主張立証はなく,YOL見出し一般に著作物性がある
とする主張に含まれているものと解される。

 (2) 一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。

 しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか
否かを判断すべきものである。

 そして,甲1(各枝番号のものを含む)によれば,上記365個のYOL見出しは,いずれも事件,事故等の社会的出来事,あるいは政治的・経済的出来事等を報道するニュース記事に付されたインターネットウェブサイト上の記事見出しであり,後記のような若干の特殊性はあるものの,以上説示の点は,本件YOL見出しにも基本的に当てはまるものである。

 そこで,まず,原審以来争われている平成14年10月8日から同年12月7日までの期間における365個のYOL見出しの著作物性の有無について,個別具体的に検討していくこととする。

 (2-1) 当裁判所も,控訴人が主張する具体的なYOL見出しについては,いずれも創作性を認めることができないものと判断する。その理由は,次の(2-2),(2-3)の説示を付加するほか,原判決22頁3行から27頁21行までのとおりであるから,これを引用する。

 (2-2) 控訴人が当審で個別具体的に取り上げて著作物性があることを主張した6個のYOL見出しの創作性について,判断する(原判決が具体的に判断を示している①,②については,判断を付加するものである。)。

 ① 「マナー知らず大学教授,マナー本海賊版作り販売」(平成15年10月16日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて

 上記YOL見出しの創作性については,原判決が検討し,創作性を否定しているところ,その認定判断(上記引用に係る部分のうち23頁23行〜24頁14行)は,相当として是認し得るものである。

 控訴人は,事実をただ記載するのではなく,「マナー」という言葉をキーワードとして,「マナー知らず」と「マナー本」という言葉を並記して対比させ,リズミカルな表現にすることで,当該大学教授の行動を端的,かつ,印象的に読者に伝えようとしたものであるとして,この点に編集記者の個性が発揮されていると主張する。

 しかしながら,上記のような対句的な表現は一般に用いられる表現であって,上記YOL見出しは,ありふれた表現の域を出ないのであり,著作物として保護されるような創作性があるとは到底いうことができない。なお,同じ話題について,時事通信社が「マナー」という表現をしなかったからといって,直ちに,上記YOL見出しの表現が創作性を有するものと断ずることはできない。

 控訴人の主張は,採用することができない。

 ② 「A・Bさん,赤倉温泉でアツアツの足湯体験」(平成15年10月23日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて

 上記YOL見出しの創作性についても,原判決が検討し,創作性を否定している

ところ,その認定判断(上記引用に係る部分のうち26頁24行〜27頁17行)は,相当として是認し得るものである。

 控訴人は,夫婦の仲睦まじい様子と,足湯の様子を同時に連想させるために,記事本文中にはない「アツアツ」という言葉を用いて,A夫妻の心情を端的に,かつ,写実的に,読者に印象付け,また,リズミカルな表現に仕上げて印象度を高めているなどとして,作成した記者の個性が表れていると主張する。

 しかしながら,上記YOL見出しの「A・Bさん,赤倉温泉で足湯体験」という部分は,客観的な事実関係をそのまま記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない上,「アツアツ」との表現も普通に用いられる極めて凡俗な表現にすぎない。そして,「アツアツ」という一つの言葉から,仲睦まじい様子と湯に足を浸している様子の双方が連想されるとしても,そのような表現も通常用いられるありふれたものであるといわざるを得ない。YOL見出しを書いた記者に控訴人主張のような意図ないし狙いがあったとしても,見出しの表現として表れたものが上記のように判断される以上,上記YOL見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。なお,同じ話題について,毎日新聞社産経新聞社,NHKが「アツアツ」という言葉を使用しなかったのは,その言葉を選択しなかっただけのことであり,上記YOL見出しの表現が創作性を有すると評価すべき根拠とはならない。

 ③ 「道東サンマ漁,小型漁船こっそり大型化」(平成15年10月9日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて

 上記YOL見出しに対応するYOL記事は,甲1の9の2に記載されたとおりであり,北海道東沖の太平洋上に出漁する道内の小型サンマ漁船60隻の大半が,漁船登録している総トン数よりも大型に違法改造されている疑いが強まり,北海道庁は近く,60隻すべてに対し漁船法に基づく立ち入り検査を行う方針を固めたなど
という事実を報じるものである。

 上記YOL見出しの「道東サンマ漁,小型漁船大型化」という部分は,客観的な事実関係をそのまま記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない上,「こっそり」との表現も普通に用いられる表現にすぎない。「こっそり」との表現がYOL記事本文中にないとしても,公的機関に届けずに(登録変更せずに)改造したことのニュアンスを一言で表そうとしたものでそれなりの工夫の跡はうかがえるが,通常想起される程度のものにすぎない。

 控訴人は,前掲のとおり,記事本文に登場しない「こっそり」という言葉を用いて,「ずるさ」のニュアンスを表現し,また,「気づかれない程度にわずかに大型化した」という点をも表現しているのであり,記事の背後にある社会的事象に対する記者自身の印象を伝え,また,ユーモアのある端的な表現を用いることによって読者にインパクトを与え,小型漁船の「ずるさ」を読者に印象付けようとした意図が認められるので,この点に,記者の個性が表現されていると評価できるなどと主張する。

 しかし,記者が上記の印象を抱き,それを記事見出しを通じて読者に伝えようと意図したものであるとしても,そのこと自体は,アイデアの域を出ないものであって,見出しの表現として表れたものが「こっそり」というもので,上記のように判断される以上,上記YOL見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。なお,同じ話題について,釧根地方ニュースダイジェストが「こっそり」という言葉を使用しなかったからといって,直ちに,上記YOL見出しの表現が創作性を有するものと判断すべきことにはならない。

 ④ 「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突,1人死亡」(平成15年10月16日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて

 上記YOL見出しに対応するYOL記事は,甲1の27の2に記載されたとおりであり,中央自動車道の走行車線に停車していた乗用車に大型トラック2台が追突し,その後方に止まった大型トラックにも別のトラックが次々に追突するなど計14台が関係する多重衝突事故となり,1人が死亡,8人がけがをしたなどという事
実を報じるものである。

 上記YOL見出しの「中央道走行車線に停車」,「追突など14台衝突,1人死亡」という部分は,客観的な事実関係をそのまま羅列して記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない。そして,見出し前半部分と後半部分との間に「→」と矢印の記号が用いられているが,インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては,上記YOL見出しの以前から,記事見出しの中に「=」,「−」,「…」などの各種記号を用いてする表現は,広く多用されているものと認められ(甲1の1の2,同2の2,3の2,5の2など多数の実例がある。なお,控訴人の記事見出しではあるが,甲1の21の2でも「→」が使用されている。),「→」という記号を用いたことも,上記各種記号を用いることの域を出ないのであって(控訴人のメディア戦略局編集部の担当者も「→」,「−」,「…」の記号を同列に認識している(甲15)。),特段の創作性が認められるわけではない。

 控訴人は,記者が読者に事件の実際の場面を瞬時に想像させ,追突事故の無惨さを強く印象付けようと考えたというが,仮にそうであるとしても,そのこと自体は,アイデアの範囲内のものにすぎず,また,「→」という記号を用いて印象的に表現したとも主張するが,必ずしも首肯し得るものではない。

 よって,上記YOL見出しを分析的にみても,全体としてみても,著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。なお,同じ話題について,JapanNews Networkが「→」の記号を使用しなかったからといって,直ちに,上記YOL見出しの表現が創作性を有するものと判断すべきことにはならない。

 ⑤ 「国の史跡傷だらけ,ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」(平成15年10月30日付けYahoo!ニュース掲載)

 上記YOL見出しに対応するYOL記事は,甲1の117の2に記載されたとおりであり,貝塚や城跡など国指定の史跡のうち,少なくとも全国30数か所でずさんな管理が行われ,ゴミ捨て場やミニゴルフ場になっていたり,フェンスや児童遊具が設置されていたケースもあったことが,会計検査院の調べで分かったことなど
の事実を報じるものである。

 上記YOL見出しの「国の史跡」,「ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」という部分は,記事中に存在する名詞を羅列しただけのもので,表現上,特段の工夫もみられない。また,「傷だらけ」との表現も,それ自体が一般的に用いられる表現である上,上記記事が伝えようとする事実からそれほどの困難もなく想起し得るものであって,格別の創作性を見いだすことはできない。

 控訴人は,記者が,「傷だらけ」という言葉を用いて,その悪質性を端的に,印象的に読者に伝えようとしており,「国の史跡」に「傷だらけ」という言葉が似つかわしくないだけに,読む側にとってはインパクトがあり,「傷だらけ」という言葉が記事本文中では使われていないことにかんがみると,記者の個性の表れと評価できると主張する。

 しかし,記者の上記意図はアイデアの域を出ないものであり,「国の史跡」に対して「傷だらけ」との言葉を用いることも,格別に創作性のある表現であるとまでいうことはできず,記事が伝えようとする事実からそれほどの困難もなく想起し得るものであることも上記のとおりである。よって,上記YOL見出しの表現が著作
物として保護されるための創作性を有するとはいえない。

 ⑥ 「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」(平成15年11月6日付けYahoo!ニュース掲載)

 上記YOL見出しに対応するYOL記事は,甲1の146の2に記載されたとおりであり,世界貿易機関WTO)の新ラウンド(多角的貿易交渉)で,欧州連合(EU)が,世界各地で販売される各種商品の名前に生産地を使う際のルールを厳しくするよう提案したこと,これが実現すれば,インドで実際に作ったカレーでなければインドカレーといった商品名を付けられなくなることなどの事実を報じるものである。

 上記YOL見出しの「日本製インドカレー」,「EUが原産地ルール提案」という部分は,客観的な事実関係をそのまま羅列して記載したもので,表現上,特段の工夫もみられない。そして,「『日本製インドカレー』は×」というように「×」という記号が用いられているが,一般に「ダメ」であることを表すのに「×」の記号を用いることは極めてありふれている上,インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては,種々の記号を用いてする表現は,広く多用されているものと認められることは既に判示したとおりであり,「×」という記号を用いたことも,上記各種記号を用いることの域を出ないものというべきである。したがって,この点において上記YOL見出しに特段の創作性が認められるわけではない。

 控訴人は,記者が,「×」という記号を用いることによって,「インドカレー」という商品名がもはや使えなくなるという事実を,端的に,インパクトをもって読者に印象付けようとしたのであり,「×」という記号が通常新聞記事の見出しには使われない記号であり,記事本文中には一切使われていないことにかんがみると,記者の個性の表れと評価できるなどと主張する。

 しかし,記者の上記意図はアイデアの域を出ないものであり,「×」の使用についての控訴人の主張を考慮しても,上記YOL見出しにおける「×」に関する前判示の点に照らせば,同見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。

 (2-3) 平成14年10月8日から同年12月7日までの365個のYOL見出しのうち,控訴人が具体的に主張しこれに検討を加えた上記各YOL見出しを除く,その余のYOL見出しについてみても,いずれも著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。

 前判示のとおり,上記365個のYOL見出しは,その性質上,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところである上,個別にみても,例えば,控訴人が著作権侵害があったとして主張するYOL見出しには,「Cさん母娘ら4人を拉致被害者と認定」,「ノーベル物理学賞にD・東大名誉教授ら3人」,「拉致の5人,15日帰国へ」,「ノーベル化学賞にE氏…43歳会社員」,「北朝鮮,米に核開発認める」(同38の2),「NY円,4か月ぶりに1ドル125円台」,「東海村の原子炉が地震で自動停止」,「内閣支持率横ばい…読売調査」,「拉致解明専門チーム設置へ」,「雇用保険料率1.6%に引き上げへ」,「東証大幅続落,終値8690円77銭」,「イラク安保理決議を受諾」,「査察先遣隊バグダッド入り」,「Fさまご逝去,47歳」,「G氏きょうにも辞任表明」,「来年度予算,83兆円前後で調整」,「H・前幹事長,代表選に出馬を表明」などというものも含まれているが,いずれも事実関係を客観的にありふれた表現で構成したものであり,見出しに対応するYOL記事本文との関係をも考慮しつつ検討するとしても,これらのYOL見出しの表現に創作性があるとは到底いえない。

 その余のYOL見出しについて精査しても,その表現が著作物として保護されるための創作性を有するとは認められない。

 なお,控訴人が行ったアンケートの結果は,YOL見出しの著作物性に関する以上の認定判断を覆し得るものではない。

 (3) 控訴人は,当審において,平成14年12月8日から平成16年9月30日までのYOL見出しの著作権侵害についても追加して主張する。

 (3-1) 検討するに,著作権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求をするためには,請求する側において,侵害された著作物を特定した上,著作物として保護されるための創作性の要件を具備することを主張立証することが必要であり,特に,本件では,被控訴人が上記期間におけるYOL見出しの著作物性を否認しているのであるから,控訴人としては,上記期間における個々のYOL見出しについて,YOL見出しの表現を具体的に特定し,それに創作性があることを主張立証すべきである。

 しかし,控訴人は,上記期間のYOL見出しについては,どのような表現,内容のものであったのかさえ明らかにせず,上記主張立証をしていない。したがって,上記期間におけるYOL見出しの著作権侵害をいう控訴人の主張は,主張自体失当であるというべきである(著作権侵害を裏付ける事実を認めるに足りる証拠もない。)。
 (3-2) ところで,控訴人は,前掲のとおり,YOL見出しにはすべてにおいて創意工夫が施されており,そこに作成者の個性が表現されているのであるから,YOL見出し一般に著作物性が認められるべきであると主張する。したがって,控訴人は,この点を前提に,上記期間のYOL見出しの著作権侵害を主張するものとも解される。

 しかし,前判示のとおり,ニュース報道における記事見出しは,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのではあるが,一般には,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられるのであり,結局は,個々の記事見出しの表現を検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものであって,およそYOL見出し一般に著作物性が認められるべきであるとの控訴人の主張は,直ちに採用し難いというほかない。

 そこで,YOL見出しを個別具体的に検討すると,既に前記(2)で判示したように,控訴人が特に強調したYOL見出し①〜⑥を含め,平成14年10月8日から同年12月7日までの365個のYOL見出しのすべてについて,その表現が著作物として保護されるための創作性を有するとは認められない。特に,「Fさまご逝去,47歳」とのYOL見出しは,いわゆる死亡記事として誰が書いても同じような見出しの表現にならざるを得ないものである。このように,控訴人の主張するYOL見出しには,現に上記のような創作性を認め得ない多くの見出しを含むものである。

 そうすると,YOL見出しの性質や作成過程等について控訴人が種々主張するところを考慮しても,控訴人作成のYOL見出しについて一般的に著作物性が認められると断ずることはできない(後に判示するように,控訴人が多大の労力,費用をかけて取材し,記事を作成し,YOL見出しの作成に至っているからといって,そのことゆえに,当然にすべてのYOL見出しに創作性があるというべきことにはならない。)。

 よって,この観点からしても,平成14年12月8日から平成16年9月30日までのYOL見出しの著作権侵害をいう控訴人の主張は,理由がないというべきである。