最判昭和49年9月26日  詐欺におえる善意の第三者の登記の必要

最判昭和49年9月26日  詐欺におえる善意の第三者の登記の必要性

善意の第三者とは、詐欺による意思表示を前提として新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。
三者は取消しの遡求効により影響を受けるべき者であるので、取り消し前に利害関係に至ったことを要する。
善意には、無過失までは要求されていない
登記は不要

【判示事項】 民法96条3項にいう第三者にあたる場合
【判決要旨】 甲を欺罔してその農地を買い受けた乙が、農地法5条の許可を条件とする所有権移転仮登記を得たうえ、右売買契約上の権利を丙に譲渡して右仮登記移転の附記登記をした場合には、丙は民法96条3項にいう第三者にあたる。

判旨
 おもうに、民法九六条一項、三項は、詐欺による意思表示をした者に対し、その意思表示の取消権を与えることによつて詐欺被害者の救済をはかるとともに、他方その取消の効果を「善意の第三者」との関係において制限することにより、当該意思表示の有効なことを信頼して新たに利害関係を有するに至つた者の地位を保護しようとする趣旨の規定であるから、右の第三者の範囲は、同条のかような立法趣旨に照らして合理的に画定されるべきであつて、必ずしも、所有権その他の物権の転得者で、かつ、これにつき対抗要件を備えた者に限定しなければならない理由は、見出し難い。
 ところで、本件農地については、知事の許可がないかぎり所有権移転の効力を生じないが、さりとて本件売買契約はなんらの効力を有しないものではなく、特段の事情のないかぎり、売主である被上告人は、買主である大起建設のため、知事に対し所定の許可申請手続をなすべき義務を負い、もしその許可があつたときには所有権移転登記手続をなすべき義務を負うに至るのであり、これに対応して、買主は売主に対し、かような条件付の権利を取得し、かつ、この権利を所有権移転請求権保全の仮登記によつて保全できると解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和三〇年(オ)第九九五号同三三年六月五日第一小法廷判決・民集一二巻九号一三五九頁、同三三年(オ)第八三六号同三五年一〇月一一日第三小法廷判決・民集一四巻一二号二四六五頁、同三九年(オ)第一三九七号同四一年二月二四日第一小法廷判決・裁判集民事八二号五五九頁、同四二年(オ)第三〇号同四三年四月四日第一小法廷判決・裁判集民事九〇号八八七頁、同四六年(オ)第二一三号同四六年六月一一日第二小法廷判決・裁判集民事一〇三号一一七頁参照)。そうして、本件売渡担保契約により、被控訴会社は、大起建設が本件農地について取得した右の権利を譲り受け、仮登記移転の附記登記を経由したというのであり、これにつき被上告人が承諾を与えた事実が確定されていない以上は、被控訴会社が被上告人に対し、直接、本件農地の買主としての権利主張をすることは許されないにしても(最高裁昭和二九年(オ)第九七一号同三〇年九月二九日第一小法廷判決・民集九巻一〇号一四七二頁、同三七年(オ)第二九一号同三八年九月三日第三小法廷判決・民集一七巻八号八八五頁、同四六年(オ)第二一三号同四六年六月一一日第二小法廷判決・裁判集民事一〇三号一一七頁参照)、本件売渡担保契約は当事者間においては有効と解しうるのであつて、これにより、被控訴会社は、もし本件売買契約について農地法五条の許可があり大起建設が本件農地の所有権を取得した場合には、その所有権を正当に転得することのできる地位を得たものということができる。
 そうすると、被控訴会社は、以上の意味において、本件売買契約から発生した法律関係について新たに利害関係を有するに至つた者というべきであつて、民法九六条三項の第三者にあたると解するのが相当である。