プロダクト・バイ・プロセス・クレーム解釈 知財高裁平成24年1月27日

知財高裁平成24年1月27日
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム解釈

物の発明において、特許請求の範囲をその物の製造方法の記載によってなすものをプロダクト・バイ・プロセス・クレームといいます。

 製造工程α・β・γにより生産される物質Dのようなものです。これは、その物質そのものでは特許請求の範囲を特定することが困難なもの(化学製品)などで用いられます。

 では、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合に、「特許請求の範囲」をどのように判断すべきなのか。

 本判決は、「物の特定を直接的にその構造または特性によることが出願時に知ること不可能または困難であるという事情が存在するため、製造方法によりこれを行っている場合には(真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと)には、特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく」同一の物に及ぶことを示した知財高裁の大合議判例であるといわれています(特許法判例百選[第4版]130~131頁参照)。
 真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに分け、その立証責任の分配にも言及がなされおり、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許請求の範囲を解する上で非常に重要な判例ですね。なかなか長いので、結論をおさえておくだけでも意味があるかと思います。



■ 結論

1 プロダクト・バイ・プロセス・クレームでの「特許請求の範囲」の判断

① 真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム


真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈される



② 不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
 
不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈される。



2 立証について

物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,


もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である。

知財高裁平成24年1月27日

■ 判旨


(2) 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について
■ 「特許請求の範囲」の記載について

特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について,法70条は,その第1項で「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とし,その第2項で「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」などと定めている。
したがって,特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。

特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。

そうすると,本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。

もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,法36条6項2号にも反しないと解される。

そして,そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。

イ ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもある。前記アで述べた観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになるから,これを区別して検討を加えることとする。

そして,前記アによれば,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。

また,特許権侵害訴訟における立証責任の分配という観点からいうと,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である。


ウ そこで,本件発明1において,上記「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情」が存在するか否かについて検討する。

(イ) 特許法104条の類推適用につき

控訴人は,プロダクト・バイ・プロセス・クレーム特許の対象が当該製造方法によって得られた物に限定されるという見解をとるのであれば,特許法104条の類推適用を認めるべきであると主張する。

しかし,特許法104条は,物を生産する方法の発明について,その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは,その物と同一の物につきその方法により生産したと推定する規定であるところ,前記のとおり被告製法は本件発明1の工程a)の「プラバスタチンの濃縮有機溶液」を形成せず,その技術的範囲に属しないものと認められる以上,同一の製造方法により生産されたとの推定を及ぼす余地はないから,被控訴人の上記主張は採用することができない。

(1) 発明の要旨の認定について

法104条の3は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定するが,法104条の3に係る抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨は,上記特許無効審判請求手続において特許庁(審判体)が把握すべき請求項の具体的内容と同様に認定されるべきである。

すなわち,本件のように,「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている前記プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合の発明の要旨の認定については,前述した特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定方法の場合と同様の理由により,① 発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときは,その発明の要旨は,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと認定されるべきであるが(真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム),② 上記①のような事情が存在するといえないときは,その発明の要旨は,記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである(不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)。

この場合において,上記①のような事情が存在することを認めるに足りないときは,これを上記②の不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うべきものと解するのが相当である。

上記の観点から本件を検討するに,本件特許には,上記①にいう不可能又は困難であるとの事情の存在が認められないことは前述のとおりであるから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定に際しても,特許請求の範囲に記載されたとおりの製造方法により製造された物として,その手続を進めるべきものと解され,法104条の3に係る抗弁においても同様に解すべきである。


知的財産高等裁判所 特別部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 塩 月 秀 平
裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 東海林 保