原告が提供するウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を説明するための資料について、表現上の創作性が認められた事例 平成25年09月12日 東京地方裁判所 

原告が提供するウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を説明するための資料について、表現上の創作性が認められた事例
平成25年09月12日 東京地方裁判所 


平成25年9月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成24年(ワ)第36678号 著作権侵害差止等請求事件
口頭弁論の終結の日 平成25年7月23日


判旨

原告各資料は,いずれも,ウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を効率的に顧客に伝えて購買意欲を喚起することを目的として,「ナビキャスト」の具体的な画面やその機能を説明するために相関図等の図や文章の内容を要領よく選択し,これを顧客に分かりやすいように配置したものであって,この点において表現上の創意工夫がされていると認められる。

そうであるから,原告各資料は,全体として筆者の個性が発揮されたもので,創作的な表現を含むから,著作物に当たると認められる。


判 決

東京都港区<以下略>
原告 株式会社ショーケース・ティービー

同訴訟代理人弁護士 鮫島正洋
和田祐造
柳下彰彦

東京都渋谷区<以下略>
被告 株式会社コミクス
同訴訟代理人弁護士 熊澤 誠


主 文
1 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成25年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の,その余を被告の負担とする。

4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。


事実及び理由

第1 請求

1 被告は,下記の資料を複製,頒布,上映してはならない。


名 称 EFO CUBEによる入力フォーム改善・最適化 〜入力フォームでの離脱を改善します〜

種 別 営業資料
頁 数 18
著作名義 COMIX Inc.

2 被告は,前項の資料を記録した電磁的記録媒体から当該記録を抹消し,又は同資料を印刷したパンフレット,レジメ等の印刷物を廃棄せよ。

3 被告は,原告に対し,1680万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

■ 事案の概要
第2 事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,(1) 被告による資料の作成,頒布等が原告の著作物の著作権及び著作者人格権を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき,上記資料の複製,頒布等の差止め及びその廃棄等を求め,(2) 上記著作権等の侵害とともに,被告による資料の作成,頒布等が原告に対する不法行為を構成すると主張して,民法709条に基づき,損害金1680万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

■ 前提事実

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

(1) 原告取締役のAは,原告の発意に基づき,その業務に従事する中で,原告が提供するウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を説明するために,平成20年4月に全16頁の資料(甲1。以下「原告資料1」という。)を,平成21年3月に全15頁の資料(甲2。以下「原告資料2」という。原告資料1と併せて,以下「原告各資料」という。)を職務上作成し,原告は,自己の著作の名義の下
にこれらを公表した。
(甲1,2)



(2) 被告は,エントリーフォーム最適化システムである「EFO CUBE」の営業に当たり,その内容を説明するために,全18頁の資料(甲3。以下「被告資料」という。)を作成し,顧客に対しこれを頒布,上映した。(甲3)

■ 争点

2 争点及びこれについての当事者の主張

争点は,

①原告の著作権の侵害の成否,
②原告の著作者人格権の侵害の成否,
③差止め及び廃棄等の請求の可否,
④原告の著作権侵害が成立しない場合における不法行為の成否,
⑤被告の故意又は過失の有無,
⑥原告が受けた損害の額

である。

(1) 争点①(原告の著作権の侵害の成否)について

ア 原告各資料が著作物に当たるか否か。

(ア) 原告

原告各資料は,表現上の創意工夫に富み,全体として著作者の個性が発揮されているから,著作者の思想を創作的に表現したものであり,文芸及び学術の範囲に属する言語及び美術の著作物に当たる。

(イ) 被告

原告各資料は,システムを説明する機能的な営業用資料であって,特徴的な言い回しはなく,表現は平凡かつありふれたもので,創作的な表現ではないから,著作権法の保護の対象となる著作物ではない。

イ 被告資料の4頁,7ないし11頁,15頁の記載(以下「被告各記載」という。)が原告資料2の3頁並びに原告資料1の5ないし9頁及び15頁の記載(以下「原告各記載」という。)を複製又は翻案したものであるか否か。


(ア) 原告

被告各記載は,原告各記載の表現をほぼそのまま引き写し,あるいは一部を引き写したものであって,別紙「原告資料と被告資料との対比に関する原告の主張」記載のとおり,原告各記載の表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,被告各記載に接する者がこれを直接感得することのできるものである。

そして,被告各記載は,具体的表現において些細な違いがあるのを除き原告各記載と酷似しているから,原告各記載に依拠して作成された。

したがって,被告各記載は,原告各記載を複製又は翻案したものである。


(イ) 被告

被告は,原告各記載に依拠して被告各記載を作成していない。したがって,被告各記載は,原告各記載を複製又は翻案したものではない。

(2) 争点②(原告の著作者人格権の侵害の成否)について

ア 原告

被告は,被告各記載を含む被告資料の顧客への頒布,上映に際し,被告資料各頁下欄に「Copyright(c)2012 COMIX Inc.All rights reserved.」と記載して原告の名称を著作者として表示しなかった。


(3) 争点③(差止め及び廃棄等の請求の可否)について

ア 原告

被告は,被告各記載を含む被告資料を作成し,顧客に対しこれを頒布,上映して原告の著作権を侵害し,また,被告資料の顧客への頒布,上映に際し,原告の名称を著作者名として表示しないで原告の著作者人格権を侵害している。

イ 被告

被告は,平成25年1月中旬に被告資料の作成を中止し,以降は,顧客に対しこれを頒布,上映していない。

(4) 争点④(原告の著作権侵害が成立しない場合における不法行為の成否)について

ア 原告

原告は,作成した原告各資料の頒布,上映により法的保護に値する経済的利益を受けることができるところ,被告は,原告各記載に依拠して被告各記載を作成し,顧客に対しこれを含む被告資料を頒布,上映して,原告の上記利益を侵害しているのであって,被告の行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものであるから,原告に対する不法行為が成立する。


イ 被告

原告の主張は争う。

(5) 争点⑤(被告の故意又は過失の有無)について

ア 原告

被告は,原告資料に原告各記載があることを知りながら,被告各記載を含む被告資料を作成したのであって,被告には著作権侵害につき故意があるし,仮にそうでないとしても,被告は原告資料に原告各記載があることを知ることができたから,少なくとも過失がある。

イ 被告

被告は,被告資料を作成する際に依拠した資料に原告各記載と同一の表現があることを認識していなかったから,被告に故意はない。また,被告が被告資料を作成する際に依拠した資料は営業用の資料で特異な表現もないから,通常,著作物であるとは考えないし,これらの資料に原告との関連を覚知させるような記載はなく,また,被告が未公刊の営業用の資料の著作権者を調査することは不可能であるから,被告には過失もない。

(6) 争点⑥(原告が受けた損害の額)について

ア 原告

原告と被告とは,事業及び顧客層が競合するところ,被告は,平成21年秋から顧客に対する被告資料の頒布,上映等による「EFO CUBE」の営業を行い,本来原告が獲得すべき顧客を奪ったのであって,その結果,原告は著しい損害を受けた。

被告が上記営業により獲得した顧客に対する「EFO CUBE」の提供数は140であり,その月額利用料は5万円であるから,2年間の売上げは1億6800万円になる。原告が著作権の行使により受けるべき金銭の額は売上げの10%を下らないから,1680万円が原告が受けた損害の額である。

イ 被告

被告が獲得した顧客に対する「EFO CUBE」の提供数は140であるが,このうちの約95%は,平成21年8月ころからの被告独自の資料による営業の結果であり,被告資料によるものは,平成24年6月から行った20社で,このうち成約に至ったのは2社のみである。

第3 当裁判所の判断

1 差止め及び廃棄等の請求について

まず,争点③(差止め及び廃棄等の請求の可否)について,判断する。


(1) 前記前提事実に,証拠(甲3,乙3ないし7)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,平成21年8月ころから,「EFO CUBE」のサービスを開始し,その営業に当たり,サービスの内容を説明するために,「EFOCUBEによる入力フォーム改善」と題する全11頁の資料(乙3)を作成し,顧客に対しこれを頒布等していたこと,被告は,平成24年5月下旬,被告資料を作成し,同年6月から顧客に対しこれを頒布,上映したこと,被告は,平成25年1月15日に本件訴状の送達を受けて,被告資料の使用を中止し,以後は顧客に対してこれを頒布,上映していないこと,以上の事実が認められる。そして,被告が被告資料を記録した電磁的記録媒体や被告資料を印刷した印刷物を保有していることを認めるに足りる証拠はない。


そうであれば,被告が,現在,被告資料を作成して顧客に対して頒布,上映しているということはできないし,また,将来,被告資料を作成して頒布,上映することがあるということもできない。

(2) したがって,原告の差止め及び廃棄等の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

2 損害賠償の請求について

(1) 争点①(原告の著作権の侵害の成否)について,判断する。

ア 原告各資料が著作物に当たるか否かについて

証拠(甲1,2)及び弁論の全趣旨によれば,原告各資料は,いずれも,ウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を効率的に顧客に伝えて購買意欲を喚起することを目的として,「ナビキャスト」の具体的な画面やその機能を説明するために相関図等の図や文章の内容を要領よく選択し,これを顧客に分かりやすいように配置したものであって,この点において表現上の創意工夫がされていると認められる。

そうであるから,原告各資料は,全体として筆者の個性が発揮されたもので,創作的な表現を含むから,著作物に当たると認められる。

被告は,原告各資料に特徴的な言い回しはなく,表現は平凡かつありふれたものであると主張するが,証拠(乙1の1ないし12,10)によれば,原告以外の会社からも「ナビキャスト」と類似のサービスが提供されているが,各企業によるそれぞれのサービスを説明するための図や文書の内容,その配置等は異なっていることが認められるのであって,このことに照らすと,原告各資料に特徴的な言い回しがないとか,表現が平凡かつありふれたものであるとまではいうことができない。被告の上記主張は,採用することができない。

イ 被告各記載が原告各記載を複製又は翻案したものであるか否かについて

(ア) 証拠(甲1ないし3)によれば,原告各記載と被告各記載とを対比すると,別紙「原告資料と被告資料との対比に関する原告の主張」のとおりであることが認められ,この事実によれば,被告各記載は,原告各記載と同一であるか,又は,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が原告各記載の表現上の本質的な特徴を直接感得す
ることができるものであると認められる。


(イ) 証拠(甲3,12,13,乙4ないし7)によれば,原告は,平成20年8月1日,インターネット広告代理店事業を営む株式会社フルスピード(以下「フルスピード」という。)に対し,ナビキャストフォームアシストの供給の委託等をしたこと,被告は,平成24年5月下旬,フルスピードとの間で,被告がフルスピードに対し「EFO CUBE」
のサービスの提供等に関する業務をOEM提供することを合意して,フルスピードから,「<入力フォーム最適化ツール>フルスピードEFOご提案資料」と題する全20頁の資料(乙6)の送付を受け,被告従業員のBがこれを修正して「<入力フォーム最適化ツール>フルスピードEFOご提案資料」と題する全20頁の資料(乙7)を作成し,さらに,
被告資料を作成したことが認められ,このことに前記(ア)認定の事実を併せ考えれば,被告各記載は,原告各記載に依拠して作成されたものであると認められる。


(ウ) そうであれば,被告が被告各記載を作成したことは原告の原告各記載の著作権(複製権又は翻案権)を侵害し,顧客に対し被告各記載を頒布,上映することは原告の原告各記載の著作権(上映権又は著作権法28条に基づく上映権及び譲渡権又は著作権法28条に基づく譲渡権)を侵害する。


(2) 争点⑤(被告の故意又は過失の有無)について,判断する。

証拠(甲8ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,被告代表者は,平成21年4月1日,原告に対し,原告のEFOツールを提案したいクライアントがいることを理由に,ナビキャスト担当者の訪問を希望する旨の電子メールを送付し,同月10日,担当者の訪問を受けて,サービス内容の説明を受けるとともに,原告資料2を入手したことが認められるから,被告代表者は,作成した被告資料の記載の中に原告資料2の記載と同一のものがあることを知ることができたと認められる。

しかるに,被告は,被告資料の記載の確認をしなかったのであるから,被告には過失がある。

(3) そこで,争点⑥(原告が受けた損害の額)について,判断する。

前記1(1)認定の事実に弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,平成24年6月から平成25年1月中旬まで,約20社に対し,被告資料を用いて「EFO CUBE」の営業を行い,そのうちの2社と「EFO CUBE」の提供に関する契約を締結して,平成24年11月及び12月に各月15万6500円,平成25年1月から3月までに各月14万3500円の合計74万3500円の売上げを計上したが認められる。この事実によれば,被告は,
上記2社との契約が終了するまでの間,毎月14万3500円の売上げを計上することができ,仮に上記2社との契約が2年間継続するとすれば,この間に合計347万円の売上げを計上することができることになると認められるが,被告資料は,「EFO CUBE」の営業において補助的な役割を有するにとどまる上,被告各記載は7頁で,全18頁の被告資料の約38.8%に相当するにすぎないから,これらの事情を併せ考えると,原告が受けた損害の額は10万円と認めるのが相当である。


原告は,被告の売上げ1億6800万円に10%を乗じた額が原告が受けた損害の額であると主張するが,上記被告の売上げは,「EFO CUBE」を2年間提供することによる売上げであって,被告資料を用いたことによるものではなく,また,原告の原告各記載の著作権の行使について売上げの10%を下らない額を受けることができることを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,採用することができない。

(4) したがって,原告の損害賠償の請求は,10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成25年1月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。


3 以上のとおりであって,原告の請求は,10万円及びこれに対する平成25年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。


よって,上記の限度で原告の請求を認容し,その余は失当としてこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官 三井大有
裁判官 藤田 壮