遺言による相続分の指定が遺留分を侵害した場合における遺留分減殺請求の効果 最判平成24年1月26日

遺言による相続分の指定が遺留分を侵害した場合における遺留分減殺請求の効果
最判平成24年1月26日

第1 条文
(遺言による相続分の指定)
第902条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。

第903条3項
被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

(遺贈又は贈与の減殺請求)
第1031条
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。



第2 判旨
(1) 前記事実関係によれば,本件遺言による相続分の指定が抗告人らの遺留分を侵害することは明らかであるから,本件遺留分減殺請求により,上記相続分の指定が減殺されることになる。
相続分の指定が,特定の財産を処分する行為ではなく,相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること,及び,遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し,相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣旨とするものであることに鑑みれば,遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である(最高裁平成9年(オ)第802号同10年2月26日第一小法廷判決・民集52巻1号274頁参照)。

(2) ところで,遺留分権利者の遺留分の額は,被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに遺留分割合を乗ずるなどして算定すべきところ(民法1028条ないし1030条,1044条),上記の遺留分制度の趣旨等に鑑みれば,被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。

したがって,前記事実関係の下においては,上記(1)のとおり本件遺言による相続分の指定が減殺されても,抗告人らの遺留分を確保するには足りないことになる。

本件遺留分減殺請求は,本件遺言により相続分を零とする指定を受けた共同相続人である抗告人らから,相続分全部の指定を受けた他の共同相続人である相手方らに対して行われたものであることからすれば,Aの遺産分割において抗告人らの遺留分を確保するのに必要な限度で相手方らに対するAの生前の財産処分行為を減殺することを,その趣旨とするものと解される。

そうすると,本件遺留分減殺請求により,抗告人らの遺留分を侵害する本件持戻し免除の意思表示が減殺されることになるが,遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。

持戻し免除の意思表示が上記の限度で失効した場合に,その限度で当該贈与に係る財産の価額を相続財産とみなして各共同相続人の具体的相続分を算定すると,上記価額が共同相続人全員に配分され,遺留分権利者において遺留分相当額の財産を確保し得ないこととなり,上記の遺留分制度の趣旨に反する結果となることは明らかである。


第3 全文(■は筆者)

主 文
原決定を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。


理 由

抗告代理人山田俊介,同関根良平の抗告理由について

■ 事案の概要

1 本件は,Aの共同相続人である抗告人らと相手方らとの間におけるAの遺産
の分割申立て事件である。

■ 事実関係
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 相手方Y1はAの妻であり,相手方Y2及び同Y3はAと同Y1との間の子であり,抗告人ら3名はAと先妻との間の子である。

(2) Aは,平成17年12月23日に死亡した。Aの法定相続人は,相手方ら及び抗告人らである。

(3) 本件において遺産分割の対象となるAの遺産(以下「本件遺産」という。)は,現金3020万円並びに原々審判別紙遺産目録記載の株式及び宝飾品である。

(4) Aは,平成16年10月から平成17年12月にかけて,相手方Y2に対し,生計の資本として,株式,現金,預貯金等の贈与(以下「本件贈与」という。)をするとともに,Aの相続開始時において本件贈与に係る財産の価額をその相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「本件持戻し免除の意思表示」という。)をした。

(5) Aは,平成17年5月26日,相手方Y1の相続分を2分の1,その余の相手方らの相続分を各4分の1,抗告人らの相続分を零と指定する旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

(6) 抗告人らは,平成18年7月から9月までの間に,相手方らに対し,遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示(以下「本件遺留分減殺請求」という。)をした。

■ 第2審 大阪高裁決定平成23年2月21日
3 原審は,上記事実関係の下において,本件遺留分減殺請求により,

① 本件遺言による相続分の指定が減殺され,法定相続分を超える相続分を指定された相続
人の指定相続分が,その法定相続分の割合に応じて修正される結果,相手方Y1の相続分が2分の1,その余の相手方らの相続分が各40分の7,抗告人らの相続分が各20分の1となり,

② 本件持戻し免除の意思表示は,抗告人らの遺留分を侵害する合計20分の3の限度で失効するとした上,民法903条1項の規定により,本件贈与に係る財産の価額を上記の限度で本件遺産の価額に加算したものを相続財産とみなし,これに上記①のとおり修正された相続分の割合を乗じ,相手方Y2の相続分から上記のとおり本件遺産の価額に加算した本件贈与に係る財産の価額を控除して,抗告人ら及び相手方らの各具体的相続分を算定し,本件遺産を分割した。


■ 最高裁

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。

その理由は,次のとおりである。

(1) 前記事実関係によれば,本件遺言による相続分の指定が抗告人らの遺留分を侵害することは明らかであるから,本件遺留分減殺請求により,上記相続分の指定が減殺されることになる。
相続分の指定が,特定の財産を処分する行為ではなく,相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること,及び,遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し,相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣旨とするものであることに鑑みれば,遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である(最高裁平成9年(オ)第802号同10年2月26日第一小法廷判決・民集52巻1号274頁参照)。

(2) ところで,遺留分権利者の遺留分の額は,被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに遺留分割合を乗ずるなどして算定すべきところ(民法1028条ないし1030条,1044条),上記の遺留分制度の趣旨等に鑑みれば,被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。

したがって,前記事実関係の下においては,上記(1)のとおり本件遺言による相続分の指定が減殺されても,抗告人らの遺留分を確保するには足りないことになる。

本件遺留分減殺請求は,本件遺言により相続分を零とする指定を受けた共同相続人である抗告人らから,相続分全部の指定を受けた他の共同相続人である相手方らに対して行われたものであることからすれば,Aの遺産分割において抗告人らの遺留分を確保するのに必要な限度で相手方らに対するAの生前の財産処分行為を減殺することを,その趣旨とするものと解される。

そうすると,本件遺留分減殺請求により,抗告人らの遺留分を侵害する本件持戻し免除の意思表示が減殺されることになるが,遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。

持戻し免除の意思表示が上記の限度で失効した場合に,その限度で当該贈与に係る財産の価額を相続財産とみなして各共同相続人の具体的相続分を算定すると,上記価額が共同相続人全員に配分され,遺留分権利者において遺留分相当額の財産を確保し得ないこととなり,上記の遺留分制度の趣旨に反する結果となることは明らかである。


(3) これを本件についてみるに,本件遺留分減殺請求により本件遺言による相続分の指定が減殺され,相手方らの指定相続分がそれぞれの遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される結果,相手方Y1の指定相続分が52分の23,その余の相手方らの指定相続分が各260分の53,抗告人らの指定相続分が各20分の1となり,本件遺産の価額に上記の修正された指定相続分の割合を乗じたものがそれぞれの相続分となる。


次いで,本件遺留分減殺請求により本件持戻し免除の意思表示が抗告人らの遺留分を侵害する限度で失効し,本件贈与に係る財産の価額を,上記の限度で,遺留分権利者である抗告人らの上記相続分に加算する一方,本件贈与を受けた相手方Y2の上記相続分から控除して,それぞれの具体的相続分を算定することになる。

(4) 以上と異なる原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところに従い,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 白木 勇 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官金築誠志 裁判官 横田尤孝)