最判平成18年9月28日 株式会社の株主が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)294条1項に基づき検査役選任の申請をした時点で総株主の議決権の100分の3以上を有していたが新株発行により総株主の議決権の100分の3未満しか有しないものとなった場合における上記申請の適否

最判平成18年9月28日 株式会社の株主が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)294条1項に基づき検査役選任の申請をした時点で総株主の議決権の100分の3以上を有していたが新株発行により総株主の議決権の100分の3未満しか有しないものとなった場合における上記申請の適否


*従来は、学説では、株主が検査役選任の申請をした後に自ら株式を譲渡することにより株式保有要件を欠くに至った場合には、申請人としての適格を失い、その申請は却下を免れないが、会社の新株発行によつて株式保有要件を欠くに至った場合には、申請時に株式保有要件を有している以上、実体上の権利を有するに至っているというべきであるとして、その申請は却下を免れるとする説が通説であった。

*本判決は、従来の考え方ではなく、原則として申請時点で持ち株要件を充足しているだけでは足りず、選任決定の裁判が確定するまで充足している必要があると判断している。

*この根拠としては、①文理上、株式保有要件については、裁判時に満たされていることを要する申請人の適格と解するのが素直であること、②新株発行は会社の財務行為の一つとして制度上予定されているものであり、これにより株主の持株割合が変動することは、株主において予期すべき事情であり、新株発行によって株式保有要件を欠くに至る株主が発生するとしても、のことが当然に権利の濫用や信義則違反に当たるなどとは評価し難いことが考えられる。

*もっとも、例外的に、少数株主の申請を妨害する目的で、あえて会社が新株を発行したなどの特段の事情がある場合には、当該少数株主は当事者適格を有し、不適法却下とはならない。

事件番号
 平成18(許)12
事件名
 検査役選任決定申請却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
裁判年月日
 平成18年09月28日
法廷名
最高裁判所第一小法廷
裁判種別
 決定
結果
 破棄差戻し
判例集等巻・号・頁
民集 第60巻7号2634頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 平成17(ラ)1612
原審裁判年月日
 平成18年02月02日
判示事項

 株式会社の株主が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)294条1項に基づき検査役選任の申請をした時点で総株主の議決権の100分の3以上を有していたが新株発行により総株主の議決権の100分の3未満しか有しないものとなった場合における上記申請の適否

裁判要旨
 株式会社の株主が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)294条1項に基づき裁判所に当該会社の検査役選任の申請をした時点で,当該株主が当該会社の総株主の議決権の100分の3以上を有していたとしても,その後,当該会社が新株を発行したことにより,当該株主が当該会社の総株主の議決権の100分の3未満しか有しないものとなった場合には,当該会社が当該株主の上記申請を妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情のない限り,上記申請は,申請人の適格を欠くものとして不適法である。
参照法条
 商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)294条1項


主文
原決定を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
抗告代理人佐藤孝幸の抗告理由について

1 本件は,抗告人の株主である相手方らが,抗告人の業務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うべき事由があるとして,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)294条1項に基づき抗告人の検査役選任の申請をする事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。抗告人の株主である相手方らが商法294条1項に基づき原々審に抗告人の検査役選任の申請をした平成17年7月29日の時点では,相手方らは合計して抗告人の総株主の議決権の約3.2%を有していたが,平成12年に抗告人が発行した新株引受権付社債を有していた者の新株引受権の行使を受けて,抗告人が新株を発行したことにより,平成17年8月17日以降は,相手方らは合計しても抗告人の総株主の議決権の約2.97%しか有しないものとなった。


3 上記事実関係の下において,原審は,相手方らが原々審に抗告人の検査役選任の申請をした時点では,相手方らは合計して抗告人の総株主の議決権の100分の3以上を有していたのであるから,その後,抗告人が新株を発行したことにより,相手方らが合計しても抗告人の総株主の議決権の100分の3未満しか有しないものとなったとしても,相手方らの検査役選任の請求権は消滅しないと判示して,相手方らが上記新株発行により上記請求権を失っているとして上記申請を却下した原々決定を取り消し,検査役選任の要否等につき更に審理を尽くさせるために,本件を原々審に差し戻す旨の決定をした。



4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。

その理由は,次のとおりである。

株式会社の株主が商法294条1項に基づき裁判所に当該会社の検査役選任の申請をした時点で,当該株主が当該会社の総株主の議決権の100分の3以上を有していたとしても,その後,当該会社が新株を発行したことにより,当該株主が当該会社の総株主の議決権の100分の3未満しか有しないものとなった場合には,当該会社が当該株主の上記申請を妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情のない限り,上記申請は,申請人の適格を欠くものとして不適法であり却下を免れないと解するのが相当である。

前記事実関係によれば,抗告人の株主である相手方らは,原々審に抗告人の検査役選任の申請をした時点では,合計して総株主の議決権の約3.2%を有していたが,その後,抗告人が新株引受権付社債を有していた者の新株引受権の行使を受けて新株を発行したことにより,合計しても総株主の議決権の約2.97%しか有しないものとなったというのであるから,抗告人が相手方らの上記申請を妨害する目的で上記新株を発行したなどの特段の事情のない限り,上記申請は,申請人の適格を欠くものとして不適法であり却下を免れないというべきである。



以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,上記特段の事情の有無等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。


(裁判長裁判官島田仁郎裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官才口千晴)