神戸地裁平成23年3月10日 兵庫県明石市砂浜陥没事故  業務上過失致死被告事件

平成22年(わ)第25号
判 決
主 文
被告人3名をそれぞれ禁錮1年に処する。
被告人3名に対し,この裁判が確定した日から3年間それぞれその刑の執行を猶予する。


(罪となるべき事実)
被告人A1は,国土交通省近畿地方整備局D1工事事務所E1出張所(以下「E1出張所」という。)所長として,同整備局長が海岸管理者の権限を行使する,各々国所有でF1市に対し使用目的を公園としてその占用を許可した同市G1a丁目b番先の,国土交通大臣の直轄工事区域内の土地である砂浜及び同区域内の海岸保全施設である突堤の管理を行い,公衆の海岸の適正な利用を図り,同砂浜利用者等の安全を確保すべき業務に従事していた。また,被告人B1は,F1市土木部海岸・治水担当参事として,被告人C1は,同部海岸・治水課(以下「市海岸・治水課」という。)課長として,それぞれ,同市が上記整備局長から占用の許可を受けて公園として整備した地域内にある上記砂浜及び同突堤の維持及び管理を行い,公園利用者等の安全を確保すべき業務に従事していた。

ところで,上記砂浜は,北側で階段護岸に接し,東側及び南側はかぎ形の突堤(以下「かぎ形突堤」といい,その東側部分を「東側突堤」,南側部分を「南側突堤」という。また,かぎ形突堤に接した付近一帯の砂浜を「本件砂浜」という。)に接して厚さ約2.5mの砂層を形成し,かぎ形突堤は,ケーソンを並べるなどして築造され,ケーソン間の目地部にはゴム製防砂板が取り付けられ,同防砂板によって同目地部のすき間から砂層の砂が海中に吸い出されるのを防止する構造になっていたが,本来耐用年数が少なくとも約30年とされていた同防砂板が数年で破損し,遅くとも平成11年ころから,その破損部分から砂層の砂が海中に吸い出されることによって砂層内に空洞が発生して成長し,同空洞がその上部の重みに耐えられなくなると崩壊し,その部分に上部の砂が落ち込むことにより,本件砂浜表面に陥没が生じていたため,F1市は,平成13年1月から同年4月までの間に,南側突堤沿いの砂浜に繰り返し発生していた陥没の対策として,3回にわたって補修工事を行ったものの,その後も南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜において陥没の発生が続き,また,同南端付近の砂浜より北寄りの場所においても複数の陥没様の異常な状態が生じており,抜本的な砂の吸出防止工事を実施しなければ,本件砂浜において,砂層内で成長した空洞がその上部に乗った公園利用者等の重みによって崩壊して陥没し,公園利用者等の生命,身体に危害が加わるおそれがある状態に至っていた。
そのような状況の下,被告人A1は,同年5月から同年6月にかけ,被告人C1ら市海岸・治水課職員から,上記防砂板が破損し砂層の砂が海中に吸い出されて南側突堤沿いの砂浜の陥没を食い止めることができないことや東側突堤沿い南端付近の砂浜においても陥没が発生していることなどの説明を受け,かつ,国土交通省による抜本的な砂の吸出防止工事の実施方の要望を受けた。そして,被告人B1及び同C1は,同年1月から同年6月にかけ,いずれも同防砂板が破損し砂層の砂が海中に吸い出されて南側突堤沿いの砂浜の陥没を食い止めることができないことや東側突堤沿い南端付近の砂浜においても陥没が発生しているのを自ら確認したり,市海岸・治水課職員から,その旨報告を受けたりし,被告人C1においては,同年5月から同年6月にかけ,国土交通省近畿地方整備局D1工事事務所(以下「D1工事事務所」という。)側に対して国土交通省による同工事の実施方を要望し,被告人B1においては,被告人C1ら市海岸・治水課職員から,その旨報告を受けるなどしていた。しかし,D1工事事務所側は,予算上の都合等から直ちに同工事に着工するのは難しいとの見方であった。なお,上記のようなかぎ形突堤の構造は,被告人3名とも,現に認識していたか,あるいはF1市による上記補修工事等を通じて認識することが可能なものであった。

したがって,被告人3名は,いずれも,陥没が繰り返し発生していた南側突堤沿いの砂浜においてはもとより,ケーソン目地部に上記防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造が同一である東側突堤沿いの砂浜においても,同防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見することができたのであるから,被告人A1においては,遅くとも同年6月以降,国土交通省による上記工事が終了するまでの間,E1出張所自ら,本件砂浜に人が立ち入ることがないよう,別紙図1記載のとおり,かぎ形突堤が上記階段護岸に接合する地点からその西方の水面を結ぶ線上にバリケード等を設置し,本件砂浜陥没の事実及びその危険性を表示するなどの安全措置を講じ,あるいはF1市に要請して同安全措置を講じさせ,被告人B1においては,遅くとも同年6月以降,国土交通省による同工事が着工されるまでの間,被告人C1ら市海岸・治水課職員を指導して同安全措置を講じ,被告人C1においては,同じ期間,市海岸・治水課自ら,あるいは本件砂浜等の日常管理を同市が委託していた財団法人F1市X2協会に指示して同安全措置を講じさせ,もって陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がそれぞれあった。

しかるに,被告人3名は,これらの各注意義務を怠り,同年11月以降も本件砂浜において陥没発生が継続していたことを知っていたにもかかわらず,別紙図2記載のとおり,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜の表面に現出した陥没の周囲のみにA型バリケード(長さ数mの鉄管2本とこれを支える枠を連続して架設する柵で,鉄管を支える枠が側方から見て「A」の字形をしたもの。Aの字の頂点部分及びAの字の横棒の中ほど部分に鉄管を取り付ける器具が設置されている。)等を設置する措置を講ずることで事足りると軽信し,いずれも漫然と上記安全措置を講じることなく放置した各過失の競合により,同年12月30日午後0時50分ころ,別紙図1,2記載のとおりの東側突堤沿いの北寄り中央付近のケーソンの内側の砂浜において,H1(当時4歳)が,同ケーソン間の目地部に取り付けられていた防砂板の破損により砂が海中に吸い出され,砂層内に発生し成長していた深さ約2m,直径約1mの空洞の上を小走りに移動中,同児を,その重みによる同空洞の崩壊のため生じた陥没孔に転落させて崩れ落ちた砂によって埋没させ,よって,そのころ,同所において,同児に窒息による低酸素性・虚血性脳障害の傷害を負わせ,平成14年5月26日午後7時3分,兵庫県明石市I1町c番d号のY2病院において,同児を同傷害によって死亡するに至らしめたものである。

第4 被告人らに対する業務上過失致死罪の成否について
以上の事実関係に基づき,被告人らに対する業務上過失致死罪の成否について判断する。

1 被告人らの業務性等
(1) 被告人A1について
前記第3の5(2)ア,イ,エ,オ,同(3)ア,第3の6(1)のとおり,
① 本件事故発生当時,K1にある本件砂浜及びかぎ形突堤は,いずれも,国の所有であり,かつ,国土交通省近畿地方整備局長が海岸管理者の権限を代行する直轄工事区域内に存在していたもので,同局長がF1市に対しこれらを含む地域につき使用目的を公園としてその占用を許可していたこと,
② K1を含むE1の海岸保全施設に関する工事等を主な業務としていたのは,D1工事事務所であり(地方整備局組織規則別表4),F1市との間で,「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」を締結していたように,D1工事事務所が海岸管理者の代行権限を実際上行使していたと認められること,
③ D1工事事務所においては,工務第一課が海岸の工事,管理に関する事務をつかさどるとされ(近畿地方建設局組織細則44条1項3号ないし7号,9号,20号の2,21号の2),E1出張所が海岸保全施設の管理(巡視,100万円以下の補修工事等)等を行っていたこと,
④ 新海岸法の目的には,従来の「海岸の防護」とともに,近年,海岸が様々なレクリエーションの場として盛んに利用されるようになったという実情にかんがみ,「海岸環境の整備と保全」及び「公衆の海岸の適正な利用」が新たに加えられたことなどに照らすと,本件事故発生当時,海岸の管理に当たっては,個別の海岸の状況等を踏まえ,防護のみならず,海岸利用者のために環境及び利用の調和のとれた総合的な管理がなされるよう,適切に行うことが必要とされていたのであるから,海岸の管理業務に当たる者には,海岸利用者の安全確保にも留意しながらその職務を遂行することが責務として要求されていたと解されること,
⑤ F1市側は,平成13年1月から同年4月までの間,3回にわたり,本件砂浜における陥没の補修工事を行ったものの,陥没の発生を食い止めることができなかったため,同年5月から同年6月にかけ,国側に対し,陥没の発生状況及び上記の補修工事の内容や防砂板の破損が陥没の原因であることなどを説明するなどし,国も陥没対策に取り組むよう要請していたが,国側は,これに応じる姿勢を示したものの,予算上の都合等から直ちに着工するのは難しいとの見方であったため,国側が陥没対策工事に着工するまでの間の本件砂浜の安全管理が問題となるが,これについては,同年6月15日の事前打合せの場において,J1が「海水浴期間中の安全管理に関しては市でお願いする。」旨の発言をしたことを除くと,国側とF1市側との間で明確な取決め等はなされていなかったこと(なお,D1工事事務所とF1市との間で締結されていた「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」3条2項の「海岸保全施設に関する工事を施工するとき,甲(D1工事事務所)は公園の利用者に危険を生じさせないよう必要な措置を講ずるものとし,工事が完了したときは速やかに乙(F1市)に報告し原状回復を行うものとする。」との規定等にかんがみると,国側が陥没対策工事に着工した後の本件砂浜の安全管理は,国側の責任において行うことになると認められる。),
⑥ 被告人A1の職務遂行の実態,すなわち,E1出張所長である被告人A1は,平成13年5月から同年6月にかけ,とりわけ,同被告人も出席した事前打合せの席上で,F1市側から,市での対応には限界があるとして,D1工事事務所側に抜本的な陥没対策工事をとるよう求められるなどしていたもので,同年5月には,砂の吸い出しが続けば砂浜の保全機能に影響するおそれがあると考え,市海岸・治水課のL1らに対し,緊急性や必要性があるなどと言って陥没対策に積極的に取り組む姿勢を見せ,K1の視察等を基に,陥没の発生状況や原因,これまでのF1市側の対応等を文書にまとめ,E1出張所内で回覧したほか,J1らD1工事事務所工務第一課職員に対し,上記文書に基づいて説明するとともに,F1市がD1工事事務所側に抜本的な対策を講じてほしい旨要望していることなどを伝え,同年7月には,K1を視察し,その後も,F1市側や部下職員から,本件砂浜の陥没発生状況やF1市側による立入防止策の実施状況等の報告を受け,同年10月ころには,J1から,コンサルタント会社に対して陥没対策の調査を依頼する意向である旨を聞くと,それをL1に伝えていたこと,


以上の諸事情を総合考慮すると,F1市が本件砂浜等につき国から許可を受けて占用を開始し出してからは,第一次的にはF1市が本件砂浜等の安全管理の責任を負うに至ったといえるが,他方で,被告人A1もまた,海岸保全施設の管理等を行うD1工事事務所E1出張所の長として,国が所有し,直轄工事区域内に存在する本件砂浜及びかぎ形突堤の管理を行い,本件砂浜利用者等の安全を確保すべき業務に従事していたもので,とりわけ,遅くとも,平成13年6月15日の事前打合せにおいて,F1市から市での対応には限界があるとして,D1工事事務所側に抜本的な陥没対策工事の実施を求められた時点では,D1工事事務所側は,予算上の都合等から直ちに同工事に着工するのは難しいとの見方であり,かつ,国側が陥没対策工事に着工するまでの間の本件砂浜の安全管理についても,国側とF1市側との間で明確な取決め等はなされていなかったのであるから,その時点以降,国による陥没対策工事が終了するまでの間は,被告人A1においても,主体的に,必要があればF1市と協議を遂げるなどして本件砂浜の安全管理に当たることが求められていたというべきであって,ここに,被告人A1には,陥没等の発生により本件砂浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務が具体化,顕在化したものと認めるのが相当である。
これに対し,被告人A1の弁護人は,本件砂浜等F1市が占用する区域については,国の安全管理責任は消失している旨主張する。
しかし,上記のとおり,本件砂浜及びかぎ形突堤は,いずれも,国の所有であり,かつ,国土交通省近畿地方整備局長が海岸管理者の権限を代行する直轄工事区域内に存在していたものであった上,そもそも,海岸は,本来的に国が公物管理を行うべきものであることなどから,国は,F1市に対し,同市が本件砂浜を含む地域につき使用目的を公園ということで占用を許可していても,同市の本件砂浜やかぎ形突堤の管理等につき不十分,あるいは不適切な点等があれば,海岸法12条1項又は2項の規定に基づき,許可の取消等の監督処分を行い得る立場にあった以上,その権限を適切に行使するため,同市から報告を求めたり,自ら本件砂浜等の状況を確認したりする責務があると解される(なお,【当審弁31・189頁】によれば,海岸管理者は,海岸保全区域を管理する責任を有していることから,海岸管理者以外の者が管理している海岸保全施設が如何なる状態にあるかを常に把握していなければならず,したがって,海岸法20条の規定により,海岸管理者は,その職務の執行に関し必要があると認めるときは,海岸管理者以外の者に対し,海岸保全施設の管理状況等に関する報告若しくは資料の提出を求め,又は海岸管理者の命じた職員に海岸保全施設に立ち入って検査を行わせるなど,海岸保全区域の管理上必要があると認められる場合に海岸管理者以外の者に対して指導し,監督することができるともされているのである。)。したがって,国から占用を許可されたF1市に第一次的に本件砂浜を管理する責任があるとしても,本件砂浜の所有者たる国にも管理責任があり,それらは併存的に存在していると見るのが妥当である。このことは,上記の「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」中に,この覚書は「海岸管理担当者であるD1工事事務所長」と「公園の管理者であるF1市長」との間で締結するとの記載があることや,同覚書6条に,「この覚書に定めのない事項又は疑義を生じた事項については,その都度,甲(D1工事事務所長)乙(F1市長)が協議して定めるものとする。」と記載されているように,同覚書が,本件砂浜の占用者として管理責任を負うに至ったF1市と所有者としての管理責任のある国との管理権限の調整を図っていると見られることからも裏付けられているといえる。以上の諸点に照らすと,本件砂浜等につきF1市が占用し管理することになったとしても,そのことにより国の安全管理責任が消失することにはならないというべきで,弁護人上記主張は採用できない。
(2) 被告人B1及び同C1について
前記第3の5(2)イないしエ,同(3)イ,ウ,第3の6(1)のとおり,
① 本件事故発生当時,F1市は,国土交通省近畿地方整備局長から許可を得て本件砂浜及びかぎ形突堤を含む地域を公園として占用し,一般開放していたもので,海岸管理者の権限を実際上代行していたD1工事事務所との間で,「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」を締結するとともに,X2協会に対して同所の日常管理業務を委託し,異状があれば,適宜,その報告を受けていたこと,
② F1市においては,土木部海岸・治水課が,海岸整備に係る施設の維持管理に関する事務や海岸及び港湾の整備に関する事務等を所掌するものとされていたこと(F1市事務分掌規則12条),
③ F1市決裁規程等によると,参事は,決裁権限を有する者と有さない者がいるものの,職階上は,次長級とされており,部長の命を受け,部内事務に係る重要事項又は高度な専門的事項の調査,研究,企画及び調整を行うことを職務とするとされていたところ,土木部海岸・治水担当参事である被告人B1は,土木部での決裁権限や人事権はなかったものの,海岸整備関係事業に係る総合調整に関することなどが定められており,土木部長は,技術系の職員であった被告人B1が豊富な技術的知識を有していることを見込んで,事務系の職員であった海岸・治水課長被告人C1の技術面に関する知識を補うことを期待し,被告人C1に対し,日ごろから,海岸・治水課の業務遂行について,被告人B1に相談するよう指示していたこと,④ 被告人B1及び同C1の職務遂行の実態,すなわち,被告人B1及び同C1は,平成13年1月から同年6月にかけ,南側突堤沿いの砂浜において繰り返し発生していた陥没を自ら確認し,あるいは,部下職員らからパトロール記録等を通じて報告を受け,対策を協議し(例えば,平成13年1月ころの対策協議においては,被告人B1が,「国とか市とか言っている場合ではない。海岸利用者が陥没にはまったら危ない。早く対処しないといけない。」旨の発言をし,陥没の補修工法を発案していた。),その間,F1市側で3回にわたって陥没の補修工事を行ったものの,陥没の発生を食い止めることができなかったため,被告人C1らにおいて,D1工事事務所側に対し,本件砂浜の陥没発生状況や防砂板の破損状況等を説明するとともに,国による抜本的な対策工事を要請し,その後も,被告人B1及び同C1は,部下職員による定期パトロールやX2協会から,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜において発生していた陥没の状況や立入防止策の実施状況等についての報告を受け,同年12月25日には,市海岸・治水課において,陥没のあった場所にA型バリケードを設置する保安措置をとっていたこと,

以上の諸事情を総合考慮すると,被告人B1は,海岸整備関係事業に係る総合調整に関する事務等を担当するF1市土木部海岸・治水担当参事として,被告人C1は,海岸整備に係る施設の維持管理に関する事務や海岸及び港湾の整備に関する事務等を所掌する市海岸・治水課の長として,それぞれ,F1市が国から許可を得て公園として占用し,一般開放していた地域内の本件砂浜及びかぎ形突堤の維持管理を行い,公園利用者等の安全を確保すべき業務に従事し,陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を負っていたものと認められる。

2 本件事故発生の予見可能性
(1) 前記認定のとおり,被告人らは,本件砂浜の管理等の業務に従事していたものであるが,本件砂浜は,東側及び南側がかぎ形の突堤に接して厚さ約2.5mの砂層を形成しており,全長約157mの東側突堤及び全長約100mの南側突堤は,いずれもコンクリート製のケーソンを並べて築造され,ケーソン間のすき間の目地に取り付けられたゴム製防砂板により,砂層の砂が海中に吸い出されるのを防止する構造になっていた(前記第3の1)。そして,本件事故は,東側突堤17−18番ケーソン目地部の防砂板が破損して砂が海中に吸い出されることによって砂層内に発生し成長していた深さ約2m,直径約1mの空洞の上を,被害者が小走りに移動中,その重みによる同空洞の崩壊のため生じた陥没孔に転落し,埋没したことによって,被害者に窒息による低酸素性・虚血性脳障害の傷害を負わせ,同傷害によって死亡するに至らしめたという因果経過をたどったものである(前記第3の2,4)。
(2) 本件事故発生の予見可能性について,被告人A1の弁護人は,本件砂浜のくぼみや陥没は,K1の砂浜全体からすればごく一部にすぎない南側突堤及び東側突堤の南側の一定区域に集中しており,砂浜表面に何の異常もない本件事故現場付近において結果発生についての予見可能性が認められるためには,当該区域において砂層内に大規模な空洞が保持されていることが予見可能でなければならないところ,被告人A1にはそのような現象の知見はなく,本件事故発生当時には,土木工学研究者らの間でも,砂浜表面に何らの異常がない状況で,本件のような人の生命に対する危険を招来する程度の大規模な陥没を形成するような空洞が発生する例に関する知見はなかったというのであるから,被告人A1には,業務上過失致死罪の予見可能性は認められない旨主張する。また,被告人B1及び同C1の弁護人も,本件事故発生の予見可能性の判断に関しては,同被告人両名の砂層内の空洞発生についての知見が極めて重要であるとし,同被告人両名は,12番ケーソン以北の東側突堤に対する波力が波浪の方向性及び消波ブロックの敷設により南側突堤のそれよりはるかに弱いこと,砂層内の砂がなくなれば,外見上表面に現れると常識的に思っていたところ,12番ケーソン以北の東側突堤沿いの砂浜は他の砂浜と表面上何ら変わりなく,陥没発生の兆候すら認められなかったことなどから,12番ケーソン以北の東側突堤については,防砂板損傷のおそれは全くないと考えており,本件事故現場の砂層内に人の生命,身体に危害が加わるおそれのある状態の空洞が存在していたことの予見は不可能であった旨主張する。
(3) そこで検討すると,結果発生についての予見可能性の存在は,過失犯成立の大前提であり,行為者に結果発生の予見が可能であるからこそ,結果発生を回避すべき義務を課することができるのであるが,結果発生についての予見可能性があるというためには,結果発生に至る「因果の経過の基本的部分」について予見が可能であれば足りると解すべきである。これを本件についてみると,本件砂浜の管理等の業務に従事していた被告人らと同じ立場にある通常人を基準とした場合,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があるという流れが予見可能であれば,本件砂浜において発生していた陥没の中には,東西約3m,南北約2m,深さ約1.7mのもの(6−7番ケーソン目地部付近,平成13年1月19日ころ)や,南北約2.4m,東西約1m,深さ約0.8mのもの(11−12番ケーソン目地部付近,同年6月11日ころ)といった相当大規模な陥没もあったことから,例えば,幼児等の場合では発生した陥没孔内に生き埋めになったり,成人でも落ち込んで負傷するなど,人の生命・身体に対する危険が発生することを十分予想でき,この結果を回避するための措置を講ずべきことを動機付けることができる。したがって,上記の流れが,本件事故発生に至る「因果の経過の基本的部分」に当たると解するのが相当である。
(4) 以上を前提に,被告人らが,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見することができたかを検討する。
ア まず,前記第3の6(1)の事実関係によれば,
① 南側突堤沿い6番から10番までのケーソン目地部付近の砂浜及び東側突堤沿い11−12番ケーソン目地部付近の砂浜においては,平成13年1月以降,繰り返し陥没が発生し,同月から同年4月までの間,F1市が3回にわたって補修工事を行ったものの,その後も陥没が発生していたところ,その中には,上記のとおりの相当大規模な陥没もあったこと,
② 市海岸・治水課においては,3回にわたって実施した補修工事を通じて,陥没の発生原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考え,かぎ形突堤の所有者である国に対して抜本的な対策工事を要請することとし,同年5月から同年6月にかけ,被告人A1らがK1を訪れた際や,D1工事事務所工務第一課,E1出張所及び市海岸・治水課の関係者らが集まった事前打合せの場において,市海岸・治水課のL1を中心として,D1工事事務所側に対し,上記①の陥没の状況や防砂板の破損状況等を説明するとともに,国による抜本的な対策工事を要請したこと,
③ 市海岸・治水課においては,事前打合せ後も,同課の職員による本件砂浜等の定期パトロールを続け,同年9月中旬ころからは,D1工事事務所側に対して陥没対策を講じるよう重ねて要望し,同年12月25日には,6番ケーソン目地部付近から12−13番ケーソン目地部付近までをA型バリケードで囲うなどの保安措置をとり,そのことがE1出張所に報告されていること,
④ 被告人B1及び同C1は,平成13年1月から本件事故発生に至るまでの間,市海岸・治水課の定期パトロールや日常管理業務を委託していたX2協会からの報告等により,上記①のような陥没の状況のほか,立入防止策の実施状況等を認識し,かつ,課内の対策協議等を通じ,かぎ形突堤の防砂板の破損状態や,陥没の発生原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであることなどを認識していたこと,
⑤ 被告人A1は,市海岸・治水課のL1らからの説明や事前打合せを通じ,上記①のような陥没の状況のほか,かぎ形突堤の防砂板の破損状態や,陥没の発生原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであることなどを認識するとともに,F1市からの抜本的な対策工事の要請を受け,同年7月,K1を視察し,その後も,F1市側や部下職員から,本件砂浜の陥没発生状況やF1市側の立入防止策の実施状況等の報告を受け,同年10月ころ,J1から,コンサルタント会社に対して陥没対策の調査を依頼する意向である旨を聞くと,それをL1に伝えていたこと,以上の事実が認められる。
イ そして,前記第3の1,3,6(1)のとおり,南側突堤と東側突堤とは,両者のケーソンの大きさ・重量に差異がある上,南側突堤ケーソンは,直立消波ケーソンと呼ばれ,海に面した側の一部が空洞になっており,波が入るとその勢いが弱まる構造であるのに対し,東側突堤ケーソンは,消波構造にはなっておらず,その海面側には11番ケーソンのやや南側から25番ケーソンの北側まで六脚ブロックと呼ばれる消波ブロックが設置されていたという違いもあったが,いずれも,海底に基礎捨石を積み上げて造られたマウンドの上に,ケーソンを並べた上,その中に中詰め石が詰められ,ケーソン上にコンクリートを打設するなどして築造されたもので,ケーソン目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造は同一であったところ,本件事故発生以前から,F1市による陥没の補修工事により,本来耐用年数が少なくとも約30年とされていた防砂板がわずか数年で破損していることが判明していた。なお,上記のような基本的構造は,被告人B1及び同C1においては,現に認識していたか,あるいは陥没の補修工事等を通じて認識することが可能であったものであり【被告人B1及び同C1の差戻前の各公判供述等】,被告人A1においては現に認識していたものである【乙32等】。
ウ さらに,前記第3の6(2)で検討したとおり,J2らの差戻前の各証言によれば,平成12年7月ころから平成13年10月ころまでに,東側突堤沿いの砂浜の南端付近より北寄りの場所においても,陥没様の異常な状態が生じていたことが推認される。

(5) 以上のとおり,被告人らは,本件事故発生以前から,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜において繰り返し発生していた陥没についてはこれを認識し,その原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考え,対策を講じていたところ,南側突堤と東側突堤とは,ケーソン目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造は同一であり,本来耐用年数が少なくとも約30年とされていた防砂板がわずか数年で破損していることが判明していたばかりでなく,実際には,本件事故発生以前から,東側突堤沿いの砂浜の南端付近だけでなく,これより北寄りの場所でも,複数の陥没様の異常な状態が生じていたのであるから,こうした事実関係の下では,被告人らは,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見することができたものというべきである。

3 本件事故発生の回避可能性及び被告人らの具体的注意義務の内容
(1) 前記第3の7(2)のとおり,本件事故現場付近の状況及び本件事故の発生状況にかんがみると,その当時,本件砂浜一帯に人が立ち入ることがないよう,かぎ形突堤が階段護岸に接する地点からその西方の水面を結ぶ線上にバリケード等を設置し,砂浜陥没の事実及びその危険性を表示するなどの安全措置が講じられていれば,本件事故は回避することができたと認められる。そこで,被告人らが現実に上記安全措置(以下「本件安全措置」という。)を講じることが可能であったか,また,被告人らがそのような結果を回避すべき具体的注意義務を負っていたか否かにつき検討する。
(2) 被告人A1について
被告人A1は,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見することができたのであるから,前記第4の1(1)で見たような被告人A1の職責及び職務遂行の実態に照らすと,① 前記第3の7のとおり,E1出張所又はF1市のいずれにおいても,本件安全措置を講じることについて,費用上の支障はなかったものと認められること,② 直轄工事区域内の本件砂浜及びかぎ形突堤について,海岸管理者の権限を実際上代行していたD1工事事務所は,海岸管理者の代行権限として,本件砂浜及びかぎ形突堤を占用していたF1市に対し,海岸法12条1項又は2項の規定に基づく監督処分を行い得る立場にあったところ,D1工事事務所の出先機関であるE1出張所の長被告人A1において,F1市側に対し,陥没等の発生により本件砂浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止することを理由に,F1市側をして本件安全措置を講じてもらうことを要請した場合,F1市側がこれに応じないことはなかったものと認められることなどの事情の下では,被告人A1において,E1出張所自ら本件安全措置を講じ,あるいはF1市に要請して本件安全措置を講じさせることは,十分可能であり,かつ,容易なことであったと認められる。したがって,以上の諸事情によれば,被告人A1においては,上記のような方法で本件安全措置を講ずることにより,陥没等の発生により本件砂浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があったというべきである。
(3) 被告人B1及び同C1について
被告人B1及び同C1は,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見することができたのであるから,前記第4の1(2)で見たような同被告人両名の職責及び職務遂行の実態に照らすと,① 市海岸・治水課は,本件事故発生直前,本件砂浜において,現にA型バリケードを設置する保安措置をとっており,本件安全措置を講じることについても,費用上の支障はなかったものと認められること(前記第3の7),② 弁護人が指摘する「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」には,「この覚書に定めのない事項又は疑義を生じた事項については,その都度,甲(D1工事事務所)乙(F1市)が協議して定めるものとする。」(6条)と規定されているところ(前記第3の5(2)エ),F1市側において,D1工事事務所側に対し,陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止することを理由に,自ら本件安全措置を講じることを申し出た場合,D1工事事務所側がこれを拒否することはなかったものと認められること,③ F1市が対指示権限を有していたX2協会の委託業務内容は,その契約上,仕様書に「K1の砂浜(中略)の清掃,除草,潅水,剪定,防除,施肥,補修,施設点検,破損箇所補修等維持管理に関する業務」と明記されており,仕様書に明示されていないもの又は疑義があるものについては,協議して定めるものとされていたところ(前記第3の5(2)ウ),X2協会は,本件事故発生以前から,本件砂浜の陥没に対する立入防止策を何回となく講じていた上,平成13年11月には,市海岸・治水課に対し,X2協会の方でフェンスのようなものを設置することを提案していたことなどから(前記第3の6(1)),市海岸・治水課長である被告人C1において,X2協会に対し,陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止することを理由として本件安全措置を講じることを指示した場合,X2協会がこれに応じないことはなかったものと認められることなどの事情の下では,被告人B1においては,被告人C1ら市海岸・治水課職員を指導し,被告人C1においては,市海岸・治水課自ら,あるいはX2協会に指示して,本件安全措置を講じることは,十分可能であり,かつ,容易なことであったと認められる。

したがって,以上の諸事情によれば,被告人B1及び同C1においては,上記のような方法で本件安全措置を講ずることにより,陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があったというべきである。

4 結論
被告人らには,いずれも,上記認定のとおりの業務上の注意義務があったところ,被告人らが各注意義務を履行していれば,本件事故を回避することは可能であったということができる。そうすると,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜の表面に現出した陥没の周囲のみにA型バリケード等を設置する措置を講ずることで事足りると軽信し,上記各注意義務を怠って結果を回避する措置を講ずることなく漫然放置し,本件事故を発生させて被害者に死亡の結果を生じさせた被告人らには,いずれも業務上過失致死罪が成立する。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,かねてより陥没が発生していたF1市所在の人工の砂浜であるK1東地区砂浜等の管理を行い,同砂浜利用者等の安全を確保すべき業務に従事していた国土交通省職員の被告人A1並びにF1市職員の被告人B1及び同C1が,いずれも,陥没等の発生により同砂浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき注意義務を怠り,適切な安全措置を講じなかった各過失の競合により,当時4歳の女児が,同砂浜突堤付近の砂層内に形成されていた大規模な空洞の上部が突如崩壊して発生した陥没孔に落ち込んで生き埋めとなり,同児に窒息による低酸素性・虚血性脳障害の致命傷を負わせて,約5か月後に死亡するに至らしめたという業務上過失致死の事案である。
本件の量刑に当たってまずもって重視されるべきは,被害結果が余りにも重大かつ悲惨であるという点である。
すなわち,被害者は,年末,父親に連れられてその郷里へ帰っていた折,父親とともに本件砂浜を散策していたところ,突然本件事故(その発生状況は,「補足説明」第3の2記載のとおりである。)に遭遇し,ただ一人砂の中で,逃げる術もなく上記致命傷を負い,以後,意識が回復しないまま,命を落としていったもので,被害者が味わったであろう死の恐怖あるいは絶望感には想像を絶するものがあり,このような悲惨な形で希望に満ちた人生をわずか5歳という短さで閉じなければならなかった被害者の無念の程は計り知れない。また,惜しみなく愛情を注ぎながら被害者の成長を見守ってきた両親を始めとする遺族の悲しみ,喪失感も,筆舌に尽くし難く,現に遺族が負った心の傷は今なお癒されることはない。とりわけ,被害者が砂の中に生き埋めとなる光景を目の当たりにしながら,救出することができなかった父親は,現在に至るも,被害者を本件砂浜に連れていったことを悔い,自分を責め続け,苦しんでいる。当然のことながら,遺族らは本件砂浜の管理業務に従事していた被告人らに対して厳しい処罰感情を抱いている。
次に,被告人らの各過失の程度について検討する。
被告人A1が所長を務めていたE1出張所は,F1市側から,国土交通省による抜本的な陥没対策工事の要請を受け,その実施に向けて中心的に動いていたD1工事事務所(工務第一課)の出先機関として,例えば,平成13年5月,K1において,F1市職員から陥没の発生状況やF1市側が施行した補修工事の概要等の説明を受けたり,同年12月,F1市職員からA型バリケードの設置状況の報告を受けるなど,D1工事事務所(工務第一課)に先んじてF1市側からの陥没関連情報に接することが少なくなかったもので,本件事故の回避措置についても,被告人A1自らの権限で講じることが可能なものであった。そして,F1市側において陥没対策の中心を担っていたのは,土木部海岸・治水課であったところ,参事である被告人B1は,決裁権限を有しないものの,部長の命を受け,同課の職務遂行につき,被告人C1らの上司として同課職員を技術的な面から指導すべき立場にあった。また,被告人C1は,同課の長として,自らの決裁権限の範囲内で本件事故の回避措置を講ずることができたものである。
もとより,被告人らとしても,本件砂浜の陥没問題について,無策であったわけではない。被告人らは,本件事故発生以前から,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜において繰り返し発生していた陥没についてはこれを認識し,その原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考え,F1市側による3回の補修工事や定期パトロール,立入禁止措置,国側による抜本的な対策工事に向けたコンサルタント会社への調査依頼等,種々の対策を講じていたことは事実である。しかし,国による抜本的な陥没対策工事が未着工の状況下において,被告人らは,陥没が繰り返し発生していた南側突堤沿いの砂浜のみならず,ケーソン目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造が同一である東側突堤沿いの砂浜においても,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見することができた以上,陥没等の発生により本件砂浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべきことが強く求められていた。それなのに,被告人らは,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜の表面に現出した陥没の周囲のみにA型バリケード等を設置する措置を講ずることで事足りると軽信し,それぞれが「罪となるべき事実」のとおりの安全措置を講じることなく放置した結果,本件事故という最悪の事態が引き起こされたのであって,被告人らの各過失は,いずれも重大なものであると言わざるを得ず,上記のような被告人らの職責等に照らしても,その間に量刑に影響を及ぼすような大きな違いはない。
このように,本件は,被告人らが,それぞれの職責において,判示のような安全措置を講じていれば,被害者の死亡という重大な結果の発生を防止することができた事案であり,それだけに適切な安全措置を怠った被告人らの刑事責任は,いずれも軽視し難いものがある。この意味で,被告人らに対して自由刑である禁錮を求刑している検察官の立場は,十分に理解することができる。しかし,他方,被害者の両親と国及びF1市との間で示談が成立していること,被告人らにはいずれも前科がなく,それぞれが長年にわたり公務員として務め続けてきたこと,本件事故が大きく報道され,厳しい非難を受けるとともに,被告人B1及び同C1については,いずれも停職1か月の懲戒処分を受けるなど,被告人らが一定の社会的制裁を受けていることなど,被告人らのために酌むべき事情も存在する。
以上のような諸事情を総合考慮すると,被告人らに対しては,それぞれその刑の執行を猶予するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑・被告人3名をいずれも禁錮1年)