神戸地裁平成24年1月11日 JR福知山線脱線事故訴訟

神戸地裁平成24年1月11日 JR福知山線脱線事故訴訟

事件番号
 平成21(わ)695
事件名
 業務上過失致死傷
裁判年月日
平成24年01月11日

主文
被告人は無罪。

第1 本件公訴事実の要旨
訴因変更後の公訴事実の要旨は,次のとおりである。
1 被告人は,西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」という。)において,平成5年4月20日から平成8年6月20日までの間は取締役鉄道本部副本部長兼安全対策室長として,運転事故の防止及び運転保安設備の整備計画に関する業務等を担当し,同日から平成10年6月26日までの間は取締役会決議に基づき安全問題に関する業務執行権限をゆだねられた取締役鉄道本部長として,平成8年6月1日から平成10年6月26日までの間は鉄道施設及び車両並びに列車の運行の安全確保に関する技術上の事項を統括管理する任務を法令により課せられた鉄道主任技術者として,同社の鉄道事業に関する安全対策の実質的な最高責任者を務めていた上,平成9年3月に開業予定のJR東西線の開業準備総合対策本部長等として,同線開業に伴う安全対策を含めた輸送改善計画を統括指揮していた。
2 同社では,JR東西線開業に伴い,福知山線をJR東西線及び片町線と直結させてその利便性を高めるとともに,福知山線の列車本数を大幅に増加させてその輸送力を増強し,福知山線の利用客を増加させて収益拡大を図る経営方針の下,福知山線からJR東西線への列車乗り入れを円滑にするため,兵庫県尼崎市ab丁目c番付近の福知山線上り線路の右方に湾曲する曲線の半径を600mから304mにする線形変更工事を行い(以下,この曲線を「本件曲線」といい,この工事を「本件線形変更工事」という。),平成9年3月8日から,JR東西線開業に伴うダイヤ改正(以下「本件ダイヤ改正」という。)による福知山線の列車の運行を開始した。
3 ①かねてから,運転士の居眠りやブレーキ操作の遅れなどの人為的なミスに起因する列車事故が国内で多発し,曲線における速度超過による脱線転覆事故も発生していたことから,鉄道業界では,危険性が高い曲線に対しても,列車を自動的に減速・停止させる機能を有する自動列車停止装置(以下「ATS」という。)を整備する必要があると認識され,JR西日本においても,曲線における速度超過による脱線転覆事故の発生を想定し,高輸送密度路線を対象として,半径450m未満の曲線にATSを順次整備しており,被告人も安全対策室長等としてこれを主導していたところ,曲線半径を半減させる他に類例を見ない本件線形変更工事により,本件曲線の半径がこの基準を満たすことになった上,福知山線に加速性能の高い新型車両を大量に導入し,被告人の主導の下,本件曲線手前の直線を制限速度である120km/hないしこれに近い速度で走行する快速列車の本数を従前の1日当たり34本から94本に増加させるなどの大規模な本件ダイヤ改正を行ったことにより,運転士が適切な制動措置をとらないまま列車を本件曲線に進入させた場合,列車が本件曲線で脱線転覆する危険性を格段に高めるとともに,福知山線は既に曲線へのATSが整備されている路線と同等の高輸送密度路線になった。②本件線形変更工事の完成を控えた平成8年12月4日,北海道旅客鉄道株式会社函館線の半径300mの曲線において,貨物列車が速度超過により脱線転覆する事故が発生し,JR西日本では,同月25日に開催された被告人が出席する鉄道本部内の会議において,ATSが整備されていれば防止できた事故例として紹介された。③本件曲線に個別にATSを整備することは安価かつ容易な工事により可能であった。
4 上記①ないし③などにより,被告人は,本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性及び本件曲線にATSを整備すれば容易に同事故を回避できることを認識していたのであるから,本件線形変更工事及び本件ダイヤ改正の実施に当たり,自己が統括する安全対策室等の職員に対し,本件曲線にATSを整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったのにこれを怠り,本件曲線にATSを個別に整備すれば,曲線へのATS整備は路線単位で実施するとのJR西日本社内での既定方針を変更しなければならなくなる上,今後,他の危険箇所にもATSを含む安全対策の整備要請を受けた場合に,これに応じざるを得なくなって経費増大につながることを危惧するなどし,かつ,本件曲線の制限速度を従前の95km/hから70km/hに変更し,運転士に制限速度を遵守するよう指導しておけば事故防止措置としては十分であると安易に考え,線形変更後の本件曲線にATSを整備しないままこれを列車運行の用に供し,転覆限界速度を上回る速度で本件曲線手前の直線を走行する列車を運行した過失がある。
5 被告人は,上記過失により,平成17年4月25日午前9時18分ころ,福知山線宝塚駅発JR東西線経由片町線同志社前駅行き7両編成の快速列車(以下「本件列車」という。)を運転していた運転士が適切な制動措置をとらないまま,転覆限界速度を超える約115km/hで同列車を本件曲線に進入させた際,本件曲線にATSが整備されていなかったため,あらかじめ自動的に同列車を減速させることができず,同列車を転覆させて線路脇のマンションの外壁等に衝突させるなどし,同列車の乗客106名を死亡させるとともに,同列車の乗客493名に傷害を負わせた(以下,この事故を「本件事故」という。)。

ないところである。
5 被告人の本件曲線の脱線転覆の危険性認識について
(1) 以上のとおり,検察官が危険性認識の根拠として公訴事実に記載し,あるいは論告で主張する事項に関し,被告人の認識が考えられる事実として,(a)曲線に限らなければ運転士の居眠りやブレーキ操作の遅れなどの人為的なミスに起因する列車事故はこれまで国内で多発しており,一方,曲線における速度超過による脱線転覆事故は,昭和44年から平成8年までの間に閑散区間の下り勾配内の曲線での事故を中心に6件発生したこと,(b)ATS−Pにより曲線での制限速度超過を防止することの目的には脱線転覆の防止も含まれ,ATS−P整備の前提として事故発生の理由と確率を問わないのであれば,曲線において速度超過による脱線転覆事故の発生があり得ること自体は否定されていないこと,(c)JR西日本においては,ATS−Pの整備が決定された路線のATS整備に際して半径450m未満の曲線にATS−Pを整備しており,福知山線についてATS−P整備の決定がされれば本件曲線はATS−P整備の対象となることが見込まれており,ATSに関する事項も本社安全対策室の分掌事項に含まれること,(d)本件線形変更工事により曲線半径が600mから304mに変更されたがこのような工事自体は珍しいものであること,(e)本件ダイヤ改正に際して福知山線に車両形式別の制限速度が120km/hの207系電車が追加して導入され,平日ダイヤにおける1日当たりの快速列車の本数は34本から94本,1日当たりの列車本数は201本となり既にATS−Pが整備されていた片町線に次ぐ列車本数となったこと,(f)平成8年12月4日に半径300mの曲線での速度超過による脱線転覆事故である函館線仁山事故が発生し,JR西日本で同月25日に開催され,被告人が出席した鉄道本部ミーティングにおける「JR京都・神戸線へのATS−P形早期整備について」と題する資料中,ATS−SWとATS−Pの各速度照査機能を比較した場合のATSPの速度照査機能の優位性を記載した部分に,「※ATS−Pなら防げた事故例」「H8.12.4(函館線) 貨物列車が連続下り勾配で速度超過のため,貨車全車脱線した。」「JR北海道」と記載があること,(g)福知山線の線区最高速度が120km/hであり,本件曲線手前の4km超のほぼ直線の区間において特別の速度制限がなく,本件曲線の制限速度が70km/hであること,以上の事実が認められる。
(2) 被告人は,当公判廷において,これらの事実の一部の認識を否定しているが,以上判示したところによれば,検察官過失主張期間当時,これらの事実は,被告人が周囲から本件曲線について進言等を受けないまま,JR西日本管内に多数ある曲線の中から本件曲線について脱線転覆の危険性の認識を抱かせるような事実であったとは認められず,被告人が,これらの事実をすべて認識していたと仮定しても,被告人が本件曲線の脱線転覆の危険性について現に認識していたとは認められず,その危険性を容易に認識し得たとも認められないというべきである。被告人の検察官調書における供述もこの判断を左右せず,他に上記危険性を認識していたと認めるに足りる証拠はない。
被告人が,本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性を現に認識していたとの検察官の主張は,危険性の認識を否定する方向の事実関係に目を向けようとせず,事実関係の一部を取り上げ,これに一方的な意味づけをして被告人の認識を論ずるものにすぎないといわざるを得ない。
第3 注意義務についての判断
1 検察官の主張する予見可能性の対象及び程度
(1) 以上のとおり,検察官が公訴事実に注意義務を根拠付ける事実として記載した被告人が「本件曲線で速度超過による脱線転覆事故が発生する危険性」を認識していたとの事実は認められないというべきであるが,検察官は,論告に至って,同事実は訴因としての拘束力を有するものではなく,同事実が認められないとしても注意義務は認められる旨を主張するとともに(なお,検察官は,論告において危険性を認識すべきだったとも主張するが,これは検察官の意見であって注意義務の根拠となる具体的事実ではなく,被告人の注意義務の判断とは別に判断することを要するものではない。),従前言及していなかった予見可能性の対象及び程度について,「運転士が,何らかの理由により,転覆限界速度を超える速度で本件曲線に列車を進入させること」について予見可能性があれば足り,そのような事象が起こる客観的確率が低いことは直ちに予見可能性を否定する理由にならず,「いつかは起こり得るという程度に予見し得るもの」であれば足りると主張した。
(2) 我が国において,本件事故が生じるまで,列車が転覆限界速度を超えて曲線に進入して生じたと認められる事故は,本件事故とは路線状況の異なる閑散区間の下り勾配区間内の曲線において,機関車あるいは貨車について生じたものであり,これらの事故について運転士が転覆限界速度を超える速度で列車を曲線に進入させた経緯や理由が本件事故と同様のものであったとは認められない。
そして,転覆限界速度は,列車が内側車輪の輪重を喪失し,転覆を開始する速度であり,その具体的な速度は,曲線の諸元のみならず,車両の種類,乗客数,風速などにより異なるものであるところ,上記のとおり,本件事故に至るまで,新たに開業した鉄道事業者を含め個別の曲線ごとに走行する列車について転覆限界速度を算出する曲線管理を行っていた鉄道事業者があったとは認められず,被告人も本件曲線について計算上の転覆限界速度の認識はなかったものである。被告人が,本件曲線について脱線転覆の危険性の認識を抱かず,周囲から本件曲線の危険性等に関する進言も受けないまま,JR西日本内に多数存在する曲線の中から,本件曲線について転覆限界速度を算定することに思い至ることは容易でなく,被告人が本件曲線について走行する列車の計算上の転覆限界速度を認識することは容易ではなかったものと認められる。
(3) 他方,転覆限界速度が特定されなくとも,曲線一般について,何らかの理由により列車が当該列車の転覆限界速度を超えて曲線に進入すれば外側転覆が生じ,脱線に至ることは自明のことであり,列車が物理的に走行可能な速度は走行する区間内に存在する曲線での転覆限界速度に対応して定められているわけではないから,前記第2に認定判示したところを考え合わせれば,被告人が本件曲線について脱線転覆の危険性や,本件曲線での計算上の転覆限界速度の認識を欠き,また容易に認識し得たといえないとしても,①運転士が転覆限界速度を超えて本件曲線に列車を進入させる理由を問わず,②そのような事態の発生する客観的確率の低さは問題としないという検察官主張の前提を入れれば,運転士が転覆限界速度を超える速度で本件曲線に列車を進入させ列車が転覆して脱線に至り,乗客らに死傷結果が発生することは,「何らかの理由により」「いつかは起こり得るもの」として予見可能の範囲内にあることは否定し難い。
しかしながら,予見の対象とされる転覆限界速度を超えた進入に至る経緯は漠然としたものであり,結果発生の可能性も具体的ではない。このような意味で結果発生が予見可能の範囲内にあることを予見可能性というのであれば,その内実は危惧感をいうものと大差はなく,結果発生の予見は容易ではなく,予見可能性の程度は相当低いものといわざるを得ない。これは,被告人が前記第2・5(1)の事実をすべて認識していたとしても同様と認められる。

予見可能性と結果回避義務
(1) 上記の予見可能性の下での結果回避義務を考えると,検察官過失主張期間当時の事情として,次のような点を指摘することができる。上記のとおり,①新たに開業した鉄道事業者も含め,我が国の鉄道事業者において個別の曲線について曲線手前の列車の速度と計算上の転覆限界速度を比較することにより転覆の危険性を把握してATS整備の要否を検討することは行われておらず,管内の曲線の中から本件曲線のように転覆の危険度の高い,あるいは転覆のおそれのある曲線を個別に判別して,曲線速度照査機能のあるATSを整備していた鉄道事業者が存在したとは認められず,②鉄道事業者に曲線へのATS整備は法令上義務づけられておらず,鉄道事業者において曲線にATSを整備していた事業者は一部にとどまり,JR各社及び大手民鉄をみても曲線にATSを整備していない鉄道事業者が過半であった。
そして,③福知山線への路線単位のATS−P整備の決定が被告人の判断のみによってできるわけではなく,被告人が本件曲線にATSを整備するよう指示しなかったことが検察官過失主張期間当時のJR西日本のATS整備基準に反するものではなく,④本件ダイヤ改正は,福知山線上り快速列車の列車ダイヤに大幅な余裕を持たせる内容であり,当時のダイヤは,福知山線の上り快速列車が本件曲線の手前において120km/hないしこれに近い速度で走行することを要するものではなくせいぜい100km/hで走行すれば足りており,本件事故当時のダイヤとは大きく異なっていた。
これらの事情を考慮すると,検察官が結果回避義務の根拠として主張するところについて証拠上認められる,⑤被告人が鉄道本部長当時に行われた本件線形変更工事により,転覆の危険度の高い本件曲線が新たに使用開始されたものであること(なお,検察官は本件曲線の危険性が本件線形変更工事により人為的に高められたと主張するが,脱線転覆の危険性は元来人為的なものである。),⑥仮に本件曲線へATSを整備すべきことが決まれば,本件曲線へのATS地上子の整備そのものは容易であったことなどの事情を考慮しても,上記の予見可能性の下で,被告人が,本件曲線を個別に指定し,ATSを整備するよう指示しなかったことが,大規模な鉄道事業者の安全対策の責任者としての立場に置かれた者について要求される行動基準を逸脱し,結果回避義務違反となるものとはいえない。本件全証拠を総合しても,被告人に対して,将来的に見込まれていた福知山線の路線単位でのATS−P整備に際して本件曲線にATS−Pを整備させるのではなく,本件曲線を個別に指定してATS−P又はATS−SW整備を指示すべき結果回避義務を課すに足りる程度の予見可能性は認められず,被告人に注意義務違反は認められない。
(2) 検察官は,自らの予見可能性に関する主張は,本件と同様に管理過失責任が問題となったホテル火災事故の判例の結論とも整合すると主張し,ホテルニュージャパン火災事件(最高裁平成5年11月25日第2小法廷決定・刑集47巻9号242頁)を援用する。
しかし,同事件は,当該ホテルを営む事業者において消防法令により定められた防災設備の不備等の防火管理上の問題点が多数存在し,消防当局から繰り返し改善等を指導され,ホテルの代表取締役であった当該事件の被告人も建物に防火管理上の問題点が数多く存在することを十分に認識していた事案において,「防火管理体制の不備を解消しない限り,いったん火災が起これば,発見の遅れや従業員らによる初期消火の失敗等により本格的な火災に発展し,従業員らにおいて適切な通報や避難誘導を行うことができないまま,建物の構造,避難経路等に不案内の宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることを容易に予見できた」とされ,このような予見の容易性を前提に,当該事件の被告人について「宿泊客らの死傷の結果を回避するため、消防法令上の基準に従って」「スプリンクラー設備又は代替防火区画を設置する」などして防火管理体制を確立しておくべき義務を負っていたとされたのである。
これと異なり,本件において,検察官過失主張期間当時に本件曲線へのATS整備を義務づける法令等の定めはなく,鉄道業界においてもATSの整備対象となる曲線の基準は様々であった。そして,被告人は,周囲から本件曲線の危険性あるいはATS整備の必要性等について何らの進言を受けることもなく,本件曲線の脱線転覆の危険性も認識しておらず,本件曲線に直ちにATSを整備すべきとの認識もなかったと認められるのであり,結果回避義務の内容を確定させる事実関係のみならず,予見の容易さに関する事実関係が本件とは大きく異なることは明らかである。ホテルニュージャパン火災事件は,むしろ本件との事案の違いを浮き彫りにさせるものであって,被告人の過失の根拠となるものではなく,検察官による同事件の援用は,自己に都合の良い結論のみを援用する表層的なものといわざるを得ない。
(3) 検察官は,論告において,鉄道事業者は,常に鉄道事故や鉄道交通の安全性等に関する情報収集や調査・研究を怠らず,あらかじめ発生し得るあらゆる事態を想定し,事故の発生を未然に防止し得るよう,万全の安全対策を講じるべき高度の責務を負っていると主張する。
上記のとおり,組織としての鉄道事業者に要求される安全対策という点からみれば,本件曲線の設計やJR西日本の転覆のリスクの解析及びATS整備の在り方に問題が存在し,大規模鉄道事業者としてのJR西日本に期待される水準に及ばないところがあったといわざるを得ない。
そして,検察官が,被告人質問において被告人に指摘していた先見の明の有無という観点からすれば,安全対策の責任者であった被告人について,当時のJR西日本のATS整備基準では,本件曲線が直ちにATS整備の対象とはなるものではないが,自ら新たに使用開始される本件曲線についてATS整備が必要であることを見抜き,ATS整備をするよう指示しなかったことについて先見の明がなかったとの非難は可能であろう。
しかしながら,過失犯は,個人に刑事法上課せられる注意義務を怠ったことを処罰の対象とするものであり,その注意義務は,当該個人の予見可能性と結果回避義務により定まるものである。上記のようなJR西日本の組織としての責務の存在が,JR西日本鉄道事故によって乗客らに死傷結果の生じることを防止すべき立場にあった個人としての被告人について注意義務違反を肯定するための予見可能性の程度を緩和する理由になるものではなく,検察官が鉄道事業者としてのJR西日本の責務として主張するところは,被告人の注意義務違反を肯定するに足りる予見可能性は認められないとの判断を左右するものではない。
また,検察官は,論告において,検察官過失主張期間当時のJR西日本においては,だれ一人として本件曲線におけるATS整備の必要性を検討していなかったところ,各部門にまたがる情報を集約し,必要な指示を出せるのは「扇の要」の被告人だけであったと主張する。
実際にJR西日本において被告人以外に必要な指示を出せる者がいなかったかについては立証はないと言わざるを得ないが,検察官において,そのような人物を被告人以外に把握し得なかったとしても,これが被告人について注意義務違反を肯定するための予見可能性の程度を緩和する理由になるものではない。その他,検察官が論告において主張する点を検討しても,被告人の注意義務違反を肯定するに足りる予見可能性は認められないとの結論は左右されない。

…略

第5 結論
以上のとおりであり,本件公訴事実については犯罪の証明がないから,刑訴法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。
(求刑 禁錮3年)
平成24年1月20日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官 岡田 信
裁判官 奥山 豪
裁判官 藪田貴史