最判平成21年12年18日 偽装請負であっても、黙示的な雇用契約が成立していないとされた事例
事件番号
平成20(受)1240
事件名
地位確認等請求事件
裁判年月日
平成21年12月18日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
判決
結果
その他
判例集等巻・号・頁
民集 第63巻10号2754頁
原審裁判所名
大阪高等裁判所
原審事件番号
平成19(ネ)1661
原審裁判年月日
平成20年04月25日
判示事項
請負人と雇用契約を締結し注文者の工場に派遣されていた労働者が注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたために,請負人と注文者の関係がいわゆる偽装請負に当たり,上記の派遣を違法な労働者派遣と解すべき場合に,注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたとはいえないとされた事例
裁判要旨
請負人と雇用契約を締結し注文者の工場に派遣されていた労働者が注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたために,請負人と注文者の関係がいわゆる偽装請負に当たり,上記の派遣を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」に違反する労働者派遣と解すべき場合において,(1)上記雇用契約は有効に存在していたこと,(2)注文者が請負人による当該労働者の採用に関与していたとは認められないこと,(3)当該労働者が請負人から支給を受けていた給与等の額を注文者が事実上決定していたといえるような事情はうかがわれないこと,(4)請負人が配置を含む当該労働者の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったことなど判示の事情の下では,注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたとはいえない。
参照法条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律2条1号,職業安定法4条6項,労働契約法6条,民法623条,民法632条
判旨
主文
1 原判決中主文第1項(1)ないし(3)の部分を破棄し,同部分につき被上告人の控訴を棄却する。
2 上告人のその余の上告を棄却する。
3 訴訟の総費用はこれを6分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人塚本宏明ほかの上告受理申立て理由第1点ないし第4点について
1 本件は,プラズマディスプレイパネル(以下「PDP」という。)の製造を業とする株式会社である上告人の工場で平成16年1月からPDP製造の封着工程に従事し,遅くとも同17年8月以降は上告人に直接雇用されて同月から同18年1月末まで不良PDPのリペア作業(端子に付着した異物を除去して不良PDPを再生利用可能にする作業)に従事していた被上告人が,上告人による被上告人の解雇及びリペア作業への配置転換命令は無効であると主張して,上告人に対し,雇用契約上の権利を有することの確認,賃金の支払,リペア作業に就労する義務のないことの確認,不法行為に基づく損害賠償を請求している事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,A(本件当時の商号はB)ほか1社の出資による会社であり,平成16年1月当時,その製造ラインでは,上記2社から出向してきた上告人の従業員と,上告人から業務委託を受けたC(以下「C」という。)等に雇用されていた者とが作業に従事していた。
Cは,家庭用電気機械器具の製造業務の請負等を目的としており,同社が同14年4月1日以降に上告人との間で締結していた業務委託基本契約によれば,上告人が生産1台につき定められた業務委託料をCに支払い,Cが上告人から設備,事務所等を賃借して,自社の従業員を作業に従事させるものとされていた。
なお,上告人とCとの間に資本関係や人的関係があるとか,Cの取引先が上告人に限られているとか,Cによる被上告人の採用面接に上告人の従業員が立ち会ったなどの事情は認められない。
(2) 被上告人は,平成16年1月20日,Cとの間で,契約期間を2か月(更新あり),賃金を時給1350円,就業場所を上告人茨木工場(以下「本件工場」という。)などとする雇用契約を締結した。
被上告人は,同日から,本件工場において,上告人の従業員の指示を受けて,PDPの製造業務のうちデバイス部門の封着工程に従事することになった。
被上告人とCとの間の契約は,2か月ごとに更新され,被上告人は,同17年7月20日までCから給与等を支給された。
本件工場にはCの正社員も常駐していたが,封着工程においては,班長と呼ばれる工程管理者とこれを補佐する現場リーダーとはいずれも上告人の従業員であって,クリーンルームから送られてきたPDPの内部に放電ガスを封じ込め,これを次の排気工程へと送る作業を,上告人及びCほか1社の各従業員が混在して共同で行っていた。
被上告人は,封着工程での作業について上告人の従業員から直接指示を受け,Cの正社員による指示は受けていなかった。
被上告人は,休日出勤について,Cの正社員から指示を受けることもあったが,上告人の従業員から直接指示を受けることもあった。
また,被上告人らの休憩時間は上告人の従業員が指示した。
(3) 被上告人は,平成17年4月27日,その就業状態が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。
)等に違反しているとして,上告人に対し直接雇用を申し入れたが,回答が得られず,同年5月11日,D(以下「本件組合」という。)に加入した。
本件組合は,同月19日付け及び同月20日付け各書面により,被上告人が上告人を派遣先とする派遣労働者として1年を超えて製造ラインの業務に従事しており,上告人に労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用の申込み義務が発生していると主張し,上告人に対し,被上告人への直接雇用申込みを行うよう団体交渉を申し入れた。
上告人は,当初,被上告人との間には雇用関係がないので団体交渉には応じないという姿勢であったが,同月24日,協議自体には応じることとし,その旨回答した。
(4) 被上告人は,平成17年5月26日,大阪労働局に対し,本件工場における勤務実態は業務請負ではなく労働者派遣であり,職業安定法44条,労働者派遣法に違反する行為である旨申告した。
上告人は,同年6月1日,同局による調査を受け,同年7月4日,同局から,Cとの業務委託契約は労働者派遣契約に該当し,労働者派遣法24条の2,26条違反の事実があると認定され,上記契約を解消して労働者派遣契約に切り替えるようにとの是正指導を受けた。
このため,上告人は,封着工程を含むデバイス部門における請負契約を労働者派遣契約に切り替えることを柱とする改善計画を策定した。
これに伴い,Cが同月20日限りでデバイス部門から撤退する一方,上告人は,他社との間で労働者派遣契約を締結し,同月21日から派遣労働者を受け入れ,PDPの製造業務を続けることになった。
被上告人は,Cの正社員から本件工場の別の部門に移るよう打診されたが,上告人の直接雇用下でデバイス部門の作業を続けたいと考え,同月20日限りでCを退職した。
(5) 被上告人及び本件組合と上告人との間の協議は平成17年6月7日に開始された。
本件組合は,上告人が被上告人を直接雇用することを申し入れた。
上告人は,同年8月2日,被上告人との雇用契約の条件として,契約期間を同月から同18年1月31日まで(契約更新はしない。ただし,同年3月31日を限度としての更新はあり得る。),業務内容を「PDPパネル製造−リペア作業及び準備作業などの諸業務」と記載した労働条件通知書を被上告人側に交付した。
上告人が雇用期間を限定した理由は,上告人が専属の従業員を直接雇用する体制になっておらず,遅くとも同年3月末までには生産体制を適法な請負による作業に切り替えることができると認識していたからであり,本件組合も上告人の上記認識は承知していた。
また,賃金は上記通知書では空欄であったが,上告人側が口頭で時給1400円を提示したところ,本件組合から,有期雇用としては安いので例えば1600円にならないかとの趣旨の発言があった。
被上告人と本件組合とは,被上告人がCとの契約関係を解消して収入のない状況であり,従前の交渉の経緯からもこのままでは上告人との雇用契約の締結が困難であると考えた。
そこで,被上告人は,上告人に対し,代理人弁護士作成の内容証明郵便において,契約期間及び業務内容について異議をとどめて,当面は,上記通知書記載の業務に就業する旨の通知をした上で,上告人が準備した上記通知書と同旨の雇用契約書(ただし,賃金は時給1600円,雇用期間の始期は同17年8月22日とされていた。以下「本件契約書」という。)に署名押印し,同月19日,これを上告人に交付した。
(6) 被上告人は,平成17年8月22日,上告人に直接雇用された従業員として本件工場に出社し,同月23日から,本件工場内において,不良PDPのリペア作業を一人で担当した。
上告人は,同14年3月ころ以降,リペア作業を実施することはなくなっており,不良PDPは廃棄されていた。
リペア作業では,ガラスの表面や電極端子間をしゃもじ等で擦る作業を行う過程で静電気が発生し,集じんしやすいため,被上告人の作業場は帯電防止用シートで囲まれていた。
(7) 本件組合は,平成17年8月25日以降,書面により,上告人と被上告人との間の雇用契約を期間の定めのないものとし,被上告人の作業を従前従事していたデバイス部門の封着工程のものとすることを求めて団体交渉を申し入れていたが,上告人は,同年12月28日,同18年1月31日をもって上記雇用契約が終了する旨を通告し,その翌日以降,被上告人の就業を拒否している。
なお,上告人は,同年2月以降,残っていたリペア作業について他の従業員に交代で5日間担当させてこれを終え,その後は上記作業を行っていない。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,被上告人の上告人に対する雇用契約上の権利を有することの確認請求,賃金支払請求,リペア作業に就労する義務のないことの確認請求をいずれも認容し,損害賠償請求を一部認容した。
(1) 上告人とCとの間の契約は,Cが被上告人を上告人の指揮命令を受けて上告人のために労働に従事させる労働者供給契約であり,被上告人とCとの間の契約は,上記目的達成のための契約と認められる。
しかるところ,上告人は,これらが派遣型請負又は労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しない。
また,上記各契約がされた平成16年1月時点では,特定製造業務(物の製造の業務であって厚生労働省令で定めるもの)への労働者派遣及び受入れは一律に禁止されていた。
したがって,上記各契約は,脱法的な労働者供給契約として職業安定法44条等に違反し,公の秩序に反するものとしてその締結当初から無効である。
(2) 上告人がその従業員を通じて被上告人に直接指示してその労務の提供を受けていたこと等からすれば,上告人と被上告人との間には当初から事実上の使用従属関係があったものと認められ,また,被上告人がCから給与等の名目で受領する金員は,上告人がCに業務委託料として支払った金員からCの利益等を控除した額を基礎とするものであるから,被上告人が受領する金員の額を実質的に決定していたのは上告人であったといえる。
そして,上記各契約が無効であるにもかかわらず継続した上告人と被上告人との間の上記実体関係を法的に根拠付け得るのは両者間の黙示の雇用契約のほかにはなく,その内容は,被上告人とCとの間の契約における労働条件と同様と認められる。
また,被上告人は,上告人の従業員によりPDP製造の封着工程に従事するよう指示されてこれに応じているから,上記工程が被上告人の従事する業務として合意されたものと解すべきである。
そして,平成17年8月22日作成された本件契約書においては,上記黙示の雇用契約におけるのとは異なる労働条件が記載されているが,そのうち契約期間及び業務内容については異議がとどめられたのであるから,本件契約書どおりの期間の定め,更新方法及び業務内容の合意が成立したとはいえず,他方,期間の定めのないこととする合意や業務内容をPDP製造の封着工程に限る旨の合意があったとも認められない。
したがって,上記各部分については本件契約書作成前の黙示の雇用契約の内容が引き継がれるから,上告人が被上告人にリペア作業への従事を命じたことは配置転換命令に当たる。
そして,同命令は,後記(4)のとおりの事情があるから違法無効である。
(3) 上告人と被上告人との間の雇用契約は,平成17年8月22日の本件契約書による合意以降も2か月ごとに更新されたから,上告人が同年12月28日に同18年1月31日の満了をもって被上告人との雇用契約が終了する旨通告したことは,解雇の意思表示に当たる。
そして,封着工程の業務が終了したなどの事情は見当たらないから,上告人の被上告人に対する上記意思表示は,解雇権の濫用として無効であり,仮に雇止めの意思表示としても,更新拒絶権の濫用として同様に無効である。
したがって,被上告人は,上告人に対し,雇用契約上の権利を有する地位にある。
(4) リペア作業は,上告人にとってその経営上の必要性には疑問があり,むしろ被上告人に従事させるためにあえて設定されたものと推認される上,封着工程での作業に比べ長時間にわたって孤独な作業を強い,相応の肉体的,精神的負担を与えることなどからみて,被上告人が大阪労働局に偽装請負の事実を申告したことに対する報復等の不当な動機によって命じられたものと推認される。
したがって,上告人が被上告人に対してした解雇又は雇止めの意思表示に加えて,上告人が被上告人にリペア作業への従事を命じたことも不法行為を構成する。
4 しかしながら,原審の上記3(4)の判断は結論において是認することができるが,同(1)ないし(3)の判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1) 請負契約においては,請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが,請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。
よって,請負人による労働者に対する指揮命令がなく,注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には,たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても,これを請負契約と評価することはできない。
そして,上記の場合において,注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば,上記3者間の関係は,労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。
そして,このような労働者派遣も,それが労働者派遣である以上は,職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。
しかるところ,前記事実関係等によれば,被上告人は,平成16年1月20日から同17年7月20日までの間,Cと雇用契約を締結し,これを前提としてCから本件工場に派遣され,上告人の従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから,Cによって上告人に派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができる。
そして,上告人は,上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないというのであるから,これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。
しかしながら,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。
そして,被上告人とCとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから,上記の間,両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。
(2) 次に,上告人と被上告人との法律関係についてみると,前記事実関係等によれば,上告人はCによる被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり,被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず,かえって,Cは,被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど,配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって,前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても,平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。
したがって,上告人と被上告人との間の雇用契約は,本件契約書が取り交わされた同年8月19日以降に成立したものと認めるほかはない。
(3) 前記事実関係等によれば,上記雇用契約の契約期間は原則として平成18年1月31日をもって満了するとの合意が成立していたものと認められる。
しかるところ,期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合,又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,当該雇用契約の雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されない(最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁,最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁参照)。
しかしながら,前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間の雇用契約は一度も更新されていない上,上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。
そうすると,上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより,被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないものというべきである。
したがって,上告人による雇止めが許されないと解することはできず,上告人と被上告人との間の雇用契約は,平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない。
(4) もっとも,前記事実関係等によれば,上告人は平成14年3月以降は行っていなかったリペア作業をあえて被上告人のみに行わせたものであり,このことからすれば,大阪労働局への申告に対する報復等の動機によって被上告人にこれを命じたものと推認するのが相当であるとした原審の判断は正当として是認することができる。
これに加えて,前記事実関係等に照らすと,被上告人の雇止めに至る上告人の行為も,上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益な取扱いと評価せざるを得ないから,上記行為が被上告人に対する不法行為に当たるとした原審の判断も,結論において是認することができる。
5 以上によれば,上告人と被上告人との間に平成17年8月22日以前からPDP製造の封着工程への従事を内容とする黙示の雇用契約が成立していたものとし,上告人による被上告人に対するリペア作業への従事を命ずる業務命令及び解雇又は雇止めをいずれも無効であるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決のうち損害賠償請求を除く被上告人の各請求を認容すべきものとした部分は破棄を免れない。
この点をいう論旨は理由がある。
そして,第1審判決のうち雇用契約上の権利を有することの確認請求及び賃金支払請求を棄却し,リペア作業に就業する義務のないことの確認を求める訴えを却下した部分は正当であるから,同部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。
これに対し,上告人に対する損害賠償請求を一部認容すべきものとした原審の判断は是認することができ,この点に関する論旨は理由がないから,原判決のうち損害賠償請求を一部認容すべきものとした部分に関する上告人の上告は棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
なお,裁判官今井功の補足意見がある。
裁判官今井功の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛同するものであるが,被上告人をリペア作業に従事させたこと及び平成18年1月31日限りで雇止めしたことについて不法行為が成立する理由について補足して意見を述べておきたい。
被上告人は,Cと雇用契約を結び,Cと上告人との業務委託契約に基づき,Cから上告人に派遣されていたところ,被上告人及び本件組合が,被上告人の直接雇用を上告人に求めるとともに,大阪労働局へ労働者派遣法違反の事実があると申告したことから本件紛争が始まった。
大阪労働局は,上告人に対し,Cとの業務委託契約は,労働者派遣に該当し,労働者派遣法に違反するから,業務委託契約を解消し,適法な労働者派遣契約に切り替えるよう是正指導した。
これを受けて,上告人は,被上告人の従事していたデバイス部門の契約を他社との間の労働者派遣契約に改めることとしたが,被上告人は他社や他部門への移籍を拒否し,直接雇用を求めた。
そこで,上告人は,被上告人と本件契約書記載の内容の雇用契約を締結した。
被上告人と上告人との間の直接の雇用契約が締結されるに至った経過の概要について,原審の認定するところは以上のとおりである。
本件契約書による上告人と被上告人との間の雇用契約は,白紙の状態で締結されたものではなく,上記のような事実関係の中で締結されたことを考慮すべきである。
そうすると,この雇用契約は,大阪労働局の上記の是正指導を実現するための措置として行われたものと解するのが相当である。
そして,原審の認定するところによれば,リペア作業は,平成14年3月以降は行われていなかった作業であり,ほとんど必要のない作業であるということができるのであって,被上告人が退職した後は,事実上は行われていない作業であった上,被上告人は,他の従業員から隔離された状態でリペア作業に従事させられていたというのである。
被上告人が上告人に直接雇用の要求をし,また,大阪労働局に偽装請負であるとの申告をしてから,本件契約書を作成するに至る事実関係からすると,上告人は,被上告人が,大阪労働局に偽装請負であるとの申告をしたことに対する報復として,被上告人を直接雇用することを認める代わりに,業務上必要のないリペア作業を他の従業員とは隔離した状態で行わせる旨の雇用契約を締結したと見るのが相当である。
このことは,労働者派遣法49条の3の趣旨に反する不利益取扱いであるといわざるを得ない。
被上告人は,本件組合や弁護士と相談の上,その自由意思に基づき本件契約書に署名したとはいうものの,Cとの契約を解消して収入のない状態であり,上告人においても被上告人が収入がなく困窮していた事実を知っていたと認められるのであり,これらの事情を総合すると,上告人が被上告人をリペア作業に従事させたことは,大阪労働局への申告に対する不利益取扱いとして,不法行為を構成するということができる。
平成18年1月31日の雇止めについても,これに至る事実関係を全体として見れば,やはり上記申告に対する不利益取扱いといわざるを得ない。