最判平成20年2月26日 取締役権利義務者の解任

最判平成20年2月26日 取締役権利義務者の解任


事件番号
 平成19(受)1443
事件名
 取締役解任請求事件
裁判年月日
 平成20年02月26日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 判決
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
民集 第62巻2号638頁
原審裁判所名
名古屋高等裁判所
原審事件番号
 平成19(ネ)280
原審裁判年月日
 平成19年06月14日
判示事項
会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者に対する解任の訴えの許否
裁判要旨
会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があった場合において,同法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって上記の者の解任請求をすることは許されない。
参照法条
会社法346条1項,会社法346条2項,会社法854条

判旨

主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宮田陸奥男の上告受理申立て理由について


会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者(以下「役員権利義務者」という。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実(以下「不正行為等」という。)があった場合において,同法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって当該役員権利義務者の解任請求をすることは,許されないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。



(1) 同条は,解任請求の対象につき,単に役員と規定しており,役員権利義務者を含む旨を規定していない。



(2) 同法346条2項は,裁判所は必要があると認めるときは利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者(以下「仮役員」という。)を選任することができると定めているところ,役員権利義務者に不正行為等があり,役員を新たに選任することができない場合には,株主は,必要があると認めるときに該当するものとして,仮役員の選任を申し立てることができると解される。そして,同条1項は,役員権利義務者は新たに選任された役員が就任するまで役員としての権利義務を有すると定めているところ,新たに選任された役員には仮役員を含むものとしているから,役員権利義務者について解任請求の制度が設けられていなくても,株主は,仮役員の選任を申し立てることにより,役員権利義務者の地位を失わせることができる。


(3) 以上によれば,株主が訴えをもって役員権利義務者の解任請求をすること
は,法の予定しないところというべきである。

2 1と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


(裁判長裁判官近藤崇晴裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官田原睦夫)