最判昭和49年9月26日 株主全員の合意と利益相反取引

最判昭和49年9月26日 株主全員の合意と利益相反取引

事件番号
 昭和47(オ)1225
事件名
 会社解散請求
裁判年月日
 昭和49年09月26日
法廷名
最高裁判所第一小法廷
裁判種別
 判決
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
民集 第28巻6号1306頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 昭和45(ネ)2137
原審裁判年月日
 昭和47年08月10日
判示事項
 取締役と会社との取引が株主全員の合意によつてされた場合と取締役会の承認
裁判要旨
 取締役と会社との取引が株主全員の合意によつてされた場合には、右取引につき取締役会の承認を要しない。
参照法条
 商法265条


判旨
         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人三木善続の上告理由第一点について。
 民訴法三八八条は、控訴審が、訴を不適法として却下した第一審判決を取り消す場合には、事件を第一審に差し戻すことを要する旨を定めているところ、原判決は、訴を不適法として却下した第一審判決を是認しているのであるから、本件につき同条の適用はない。また、上告人がいつたん譲り受けた所論の株式を更に他に譲渡したことは、被上告人会社において主張しているのであるから、右事実を認定した原判決に所論の違法はない。それゆえ、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 一、上告人が、昭和三六年一二月訴外D株式会社(以下、単にDという。)より被上告人会社の株式九〇〇〇株を譲り受けたが、昭和三七年そのうちの二〇〇〇株を、同三九年八月残りの七〇〇〇株を、いずれもEに譲渡したとの原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、是認することができる。それゆえ、右事実の認定を非難する所論は、採用することができない。
 二、ところで、原審の適法に確定したところによると、上告人はDより株式を譲り受けた際同社の取締役であつたが、右譲受については商法二六五条所定の取締役会の承認はなかつたというのであり、また、被上告人会社が株券を発行していないため、Dから上告人へ及び上告人からEへの各株式の譲渡は、いずれも商法二〇四条二項にいう株券発行前の譲渡にあたるというのであつて、このような観点から右各譲渡の効力が問題となるので判断する。
 1 原判決は、D及び被上告人会社は、いずれも形式的には株式会社であるが、その実質は民法上の組合であるから、右株式譲渡には商法二六五条、二〇四条二項の適用はない旨判示する。


   すなわち、原審は、Dは、Eが個人として営んでいた毛糸、洋服、雑貨等の販売業をその弟等同族四名の参加を得て会社組織にし、右五名において、その資産、株式を所有し、共同して経営しているものであり、また被上告人会社は、右五名が、Dの簿外資産の分散、保全、増殖のため、右資産をもつて設立したものであり、第三者も株主となつてはいるが、それは単なる名義人にすぎず、実質は、右五名において株式、資産を所有し、共同経営しているものであると認め、右のような会社設立の経緯、会社の資産、株式の所有関係及び経営の実体等によると、D及び被上告人会社は、いずれも実質においては右五者の共同事業であつて、民法上の組合に外ならないと判断しているのである。

   思うに、法律上会社はすべて法人とされているところ、その法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するため濫用される場合のように、法人格を認めることがその本来の目的に照らして許されるべきでないときには法人格を否認することのできることは、当裁判所の判例(昭和四三年(オ)第八七七号、同四四年二月二七日第一小法廷判決民集二三巻二号五一一頁)とするところであるが、右法理の適用は慎重にされるべきであつて、原審認定の会社の設立の経緯、株式、資産の所有関係、経営の実体等前記事実によつて直ちに前記各会社の法人格を否認し、これを民法上の組合であるとした原審の判断は、にわかに首肯することはできない。



 2 しかしながら、商法二六五条が取締役と会社との取引につき取締役会の承認を要する旨を定めている趣旨は、取締役がその地位を利用して会社と取引をし、自己又は第三者の利益をはかり、会社ひいて株主に不測の損害を蒙らせることを防止することにあると解されるところ、原審の適法に確定したところによると、Dから上告人への株式の譲渡は、Dの実質上の株主の全員であるEら前記五名の合意によつてなされたものというのであるから、このように株主全員の合意がある以上、別に取締役会の承認を要しないことは、上述のように会社の利益保護を目的とする商法二六五条の立法趣旨に照らし当然であつて、右譲渡の効力を否定することは許されないものといわなければならない。




 3 また、被上告人会社の株券は未発行であるから、前記各株式の譲渡は商法二〇四条二項にいう株券発行前の譲渡にあたるが、原審認定の事実関係のもとにおいては、同社は不当に株券の発行を遅滞しているものと認められるから、株券発行前であることを理由に株式譲渡の効力を否定することは許されないものというべきである(最高裁昭和三九年(オ)第八八三号、同四七年一一月八日大法廷判決民集二六巻九号一四八九頁参照)。

 4 以上によると、D及び被上告人会社を民法上の組合とした原審の判断は是認することができないが、本件各株式の譲渡を有効とし、これにより上告人が被上告人会社の株主たる地位を喪失したものと認め同人には本訴の原告適格がなく、本訴は不適法であるとした原判決の結論は正当である。それゆえ、論旨は採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫