訴因

1 訴因対象
 審判対象とは、検察官による半味事実の主張である訴因である。
 現行刑事訴訟法は、起訴状一本主義(256条6項)を採用する等当事者主義的訴訟構造を取っていることから、このように解することが適合的である

2 訴因変更の要否の基準
 訴因変更の要否の判断基準をいかにとらえるか訴因は何を記載したものと解するかによって影響がある。
 審判対象を犯罪事実そのものである公訴事実ととらえると、訴因は生の犯罪事いつについて被告人の防御のためにその法律構成を示したものと解する法律構成説によれば、訴因の法律構成が変化した場合に訴因変更が必要となる

 一方、審判対象を検察官による犯罪事実の主張である訴因ととらえると、訴因変更が必要ということになる。もっとも、わずかな事実の変化の場合にも常に訴因変更が必要とするのは現実的ではないため、一定の重要な事実の変更の場合に訴因変更が必要と解することになる。


 そこて一定の重要な事実が変化した場合にのみ訴因変更が必要となるが、どのような場合に『重要な事実の変更があったといえるか』
 訴因の機能とは告知機能ばかりではなく、裁判所に対し審判の対象を確定するという識別機能もある。そこで、①審判対象の確定の見地から訴因変更が必要なもの、②その見地からは不要であるが防御権の保証の見地から必要なもの、③防御権保証の見地から訴因変更が必要としても具体的防御の観点から訴因変更を必要としないものを検討する。

3 訴因変更の可否
 訴因と異なる事実につき、審判をしてほしいとき、検察官は訴因を変更する必要がある。もっとも、訴因変更は常にできるわけではなく、『公訴事実の同一性』の範囲内に限られる(312条1項)

 公訴事実の同一性という枠が設けられたのは、無限定に訴因変更を認めれば被告人は際限なく刑事責任を問われるおそれがあり防御上の不利益が大きい一方で、裁判所と検察官の心証が一致しない場合には、検察官は何度も起訴を繰替えさなければならないからである。そして、公訴事実の同一性は政策的な一事不再理効の及ぶ範囲を確定することにもなる。
 そこで、証拠の共通性、訴訟経済、被告人の負担といった点を考慮して、検察官の異なる主張を一定の範囲で1回的に審判することが適切かにより検討する。
 重要な社会的事実が同一の審判で検討することが適切である。したがって、重要な社会的事実であるかは、両事実の事実的共通性及びそれを補完するものとして、両訴因が非両立関係にあるかで検討する。


4 訴因変更命令
 当事者主義の下では、訴因を設定・提示する権限は検察官にある。しかし、訴因変更の要否につちえ裁判所と検察官の判断が分かれることがある。
 訴因変更命令を出すことは裁判所の義務か。判例は、①重大な犯罪について、②変更された訴因であれば有罪であることが証拠上明白な場合に限って、訴因変更命令を出す義務が生じるとの立場がある。もっとも、検察官が8年半の間一環して当初の訴因を維持する態度を示し、最終の審理でも訴因を維持する釈明をしていて、被告人側もこれを前提に防御したこと、変更後の訴因で責任を問うと、不起訴となった者との関係で著しい不均衡を生じることを理由として、訴因変更命令義務を否定した事例もある。

 訴因変更命令の形成力は、裁判所が直接訴因を動かすのは、検察官の訴因設定・変更権への介入にあたるとして、当事者主義に反するとして、形成力を否定するのが通説である。