条件付訴訟行為の可否

【判示事項】 本訴請求債権を自働債権とし反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の許否

(1)本訴において、Xが、Xの取締役であったY1に対し、主位的に、金銭寄託契約に基づく寄託金の返還又は同契約の解除に基づく不当利得の返還として、予備的に、取締役との間の委任関係に基づく金銭の引渡又は取締役の辞任に基づく不当利得の返還として遅延損害金の支払等を求めた。
(2)反訴において、Y1が、Xに対し、取締役の報酬及び金銭消費貸借契約に基づく貸金等の各金員に対する遅延損害金の各支払をそれぞれ求めた事案である。
 XはY1の反訴請求に対する抗弁として、本訴請求債権を自働債権とし、反訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張したが、これが重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するか否かが問題となった。

判旨
 係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは,両事件が併合審理された後においても,重複起訴を禁止した民訴法142条の趣旨に反し,許されない最高裁昭和62年(オ)第1385号平成3年12月17日第三小法廷判決・民集45巻9号1435頁参照)。そして,民訴法142条が重複起訴を禁止する趣旨にかんがみると,本訴及び反訴が係属中に,本訴請求債権を自働債権とし,反訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することも,同様に許されないと解すべきである。
 もっとも,本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられないと解される(最高裁平成16年(受)第519号同18年4月14日第二小法廷判決・民集60巻4号登載予定参照)が,この場合においては,反訴原告において異なる意思表示をしない限り,反訴は,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになるものと解することができ,このように解すれば,重複起訴の問題は生じないことになるからである。

 これに対し,本訴及び反訴が係属中に,本訴請求債権を自働債権とし,反訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張する場合においては,重複起訴の問題が生じないようにするためには,本訴について,本訴請求債権につき反訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については本訴請求としない趣旨の条件付き訴えの取下げがされることになるとみるほかないが,本訴の取下げにこのような条件を付すことは,性質上許されないと解すべきである。

 以上のとおり,本訴及び反訴が係属中に,本訴請求債権を自働債権とし,反訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは許されないと解すべきである。


平成18年裁判例(大阪地判平成18年7月7日)の法律構成において、裁判所は反訴に対して条件を付与している。本訴における相殺の抗弁について既判力ある判断がされた場合には、反訴請求のうち本訴で判断の対象となった額に相当する部分の訴えについては解除条件の成就により反訴の審判対象とはならない。

このように訴訟行為に条件を付することは許されるか。


訴訟行為は、訴訟手続の一環をなすものであるので、手続の安定性を確保すべき要請から、無制限に条件を付することは許されない。条件を付することができるかは、どのような条件を付けることができるかは、訴訟行為の種類や条件の性質に応じて、相手方の利益を害するか否か、手続の安定を害するか否かという観点から個別的にhン弾される。


平成18年裁判例は、予備的申立ては、手続の安定性を害するおそれがないために許されると解する。同様に、相殺の自働債権の存否について既判力ある判断が示されることを解除条件とする予備的反訴は、審理の過程でその条件成就が明確となるため、手続の安定を害しない。

したがって、条件付訴訟行為であっても許容されると解する。


一方で、本訴訴求債権につき反訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合には、その部分について本訴請求としない趣旨の訴えの変更がされると解することはできない。なぜなら、本訴に条件を付することは、手続の安定が害されるからである。