最判平成26年7月24日  元利均等分割返済方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において,借主から約定の毎月の返済額を超過する額の支払がされたときには,当該超過額を将来発生する債務に充当する旨の当事者間の合意があるなど特段の事情のない限り,当該超過額は,その支払時点での残債務に充当され,将来発生する債務に充当されることはないとした事例

最判平成26年7月24日  元利均等分割返済方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において,借主から約定の毎月の返済額を超過する額の支払がされたときには,当該超過額を将来発生する債務に充当する旨の当事者間の合意があるなど特段の事情のない限り,当該超過額は,その支払時点での残債務に充当され,将来発生する債務に充当されることはないとした事例


事件番号
 平成24(受)2832
事件名
 不当利得返還請求事件
裁判年月日


平成26年7月24日
法廷名
最高裁判所第一小法廷
裁判種別
 判決
結果
 破棄差戻
判例集等巻・号・頁
 集民 第247号113頁
原審裁判所名
仙台高等裁判所
原審事件番号
 平成24(ネ)164
原審裁判年月日
平成24年10月10日
判示事項
 元利均等分割返済方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において,借主から約定の毎月の返済額を超過する額の支払がされたときの充当関係
裁判要旨
 元利均等分割返済方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において,借主から約定の毎月の返済額を超過する額の支払がされたときには,当該超過額を将来発生する債務に充当する旨の当事者間の合意があるなど特段の事情のない限り,当該超過額は,その支払時点での残債務に充当され,将来発生する債務に充当されることはない。
参照法条
民法488条

判旨
平成24年(受)第2832号 不当利得返還請求事件
平成26年7月24日 第一小法廷判決


主 文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理 由
上告人の上告受理申立て理由について

1 本件は,被上告人が,貸金業者であるA株式会社及び同社を吸収合併した上告人(以下,合併の前後を問わず,単に「上告人」という。)との間で,指定された回数に応じて元本及び利息の合計支払額が毎月同額となるよう分割して返済する方式(以下「元利均等分割返済方式」といい,約定の毎月の返済額を「約定分割返済額」という。)によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約を締結したところ,各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生しているなどと主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,平成10年3月9日,被上告人に対し,400万円を次の約定で貸し付けた。
ア 弁済方法 約定分割返済額を6万8800円とし,これを平成10年4月から平成25年3月まで毎月1日限り支払う。
イ 利息 年19.48%

ウ 遅延損害金 年29.20%
エ 特約 支払期日における支払を遅延したときには,通知及び催告を要せずに期限の利益を失う。
(2) 被上告人は,上告人に対し,第1審判決別紙計算書4記載のとおり,平成10年3月9日に18万円を支払ったほか,その後もおおむね毎月6万8800円を超える金額を支払い続けていたものの,同計算書の「利益喪失日」欄記載の各年月日(以下「本件各期日」という。)には何らの支払もしなかった。
(3) 上告人は,被上告人が本件各期日における元本及び利息の支払を遅滞し,期限の利益を喪失したから,本件各期日の翌日から残元本全部に対する遅延損害金が発生したと主張して,過払金の発生を争っている。
3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
被上告人は,平成10年3月9日に18万円を支払ったほか,その後も大きく遅滞することなく約定分割返済額を超える金額を毎月支払い続けていたのであって,被上告人の支払った積算額をみれば,被上告人は,上告人に対し,本件各期日までに支払うべき元本及び利息(利息制限法1条1項所定の制限内のもの)の総額以上の金額を,本件各期日以前に支払っていたというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
元利均等分割返済方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において,借主から約定分割返済額を超過する額の支払がされたときには,当該超過額を将来発生する債務に充当する旨の当事者間の合意があるなど特段の事情のない限り,当該超過額は,その支払時点での残債務に充当され,将来発生する債務に充当されることはないと解するのが相当である。また,借主から利息制限法1条1項の制限を超えて利息として支払われた部分は,当然にその支払時点での残債務に充当される(最高裁昭和35年(オ)第1151号同39年11月18日大法廷判決・民集18巻9号1868頁参照)。
しかるに,原審は,上記特段の事情の有無について審理判断しないまま,被上告人の支払のうち約定分割返済額を超過する部分や利息制限法1条1項の制限を超えて利息として支払われた部分について,将来発生する債務,すなわち本件各期日における元本だけでなく利息にも充当される旨判断したものである。この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上記の点等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官
白木 勇 裁判官 山浦善樹)