最決平成25年2月26日  被告人質問において被告人に示され,公判調書中の被告人供述調書に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられていない本件の電子メールは,その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであり,被告人に対してこれを示して質問をした手続に違法はなく,被告人がその同一性や真正な成立を確認したとしても,独立の証拠又は被告人の供述の一部となるものではないとした事例

最決平成25年2月26日  被告人質問において被告人に示され,公判調書中の被告人供述調書に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられていない本件の電子メールは,その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであり,被告人に対してこれを示して質問をした手続に違法はなく,被告人がその同一性や真正な成立を確認したとしても,独立の証拠又は被告人の供述の一部となるものではないとした事例

事件番号
 平成22(あ)1632
事件名
 詐欺被告事件
裁判年月日
 平成25年2月26日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 決定
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
刑集 第67巻2号143頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 平成21(う)1856
原審裁判年月日
 平成22年8月4日
判示事項
 公判調書中の被告人供述調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない電子メールが独立の証拠又は被告人の供述の一部にならないとされた事例
裁判要旨
 被告人質問において被告人に示され,公判調書中の被告人供述調書に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられていない本件の電子メールは,その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであり,被告人に対してこれを示して質問をした手続に違法はなく,被告人がその同一性や真正な成立を確認したとしても,独立の証拠又は被告人の供述の一部となるものではない。
参照法条
 刑訴法317条,刑訴規則49条,刑訴規則199条の10,刑訴規則199条の11


判旨
平成22年(あ)第1632号 詐欺被告事件
平成25年2月26日 第三小法廷決定

主 文
本件各上告を棄却する。

理 由
被告人甲の弁護人野村創,同清水夏子,同片野田志朗の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人乙の弁護人宮村啓太ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

なお,被告人乙の弁護人らの所論に鑑み,公判調書中の被告人乙の被告人供述調書の末尾に添付された書面を事実認定の用に供したことの適否について職権で判断する。


1 記録によれば,本件の審理経過について,次の事実が認められる。

第1審第10回公判期日において,被告人乙の被告人質問が行われ,その際,検察官は,被告人乙が送信した平成17年10月30日付け電子メールのうち,同メールにより転送されたオリジナルメッセージ(同年9月21日にBが被告人乙に宛てて送信した電子メール)部分(以下「本件電子メール」という。)を被告人乙に示して質問した。

本件電子メールは,第1審第10回公判調書中の被告人乙の被告人供述調書の末尾に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられてはいない。

第1審判決は,本件電子メールの存在及び記載内容を被告人乙の詐欺の故意や共犯者との間の共謀の認定の用に供した。

2 原判決は,上記第1審判決が本件電子メールを事実認定の用に供したことについて,①本件電子メールは証拠物と同視できる客観的証拠であること,②それを示された被告人乙がその同一性や真正な成立を確認していること,③本件電子メールを被告人乙に示すに当たり刑訴規則199条の10第2項の要請が満たされていたことを根拠として,本件電子メールは被告人乙の供述と一体になったとみることができるとし,訴訟手続の法令違反はないとした。


3 しかしながら,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 本件電子メールは,刑訴規則199条の10第1項及び199条の11第1項に基づいて被告人乙に示され,その後,同規則49条に基づいて公判調書中の被告人供述調書に添付されたものと解されるが,このような公判調書への書面の添付は,証拠の取調べとして行われるものではなく,これと同視することはできない。


したがって,公判調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない書面は,それが証拠能力を有するか否か,それを証人又は被告人に対して示して尋問又は質問をした手続が適法か否か,示された書面につき証人又は被告人がその同一性や真正な成立を確認したか否か,添付につき当事者から異議があったか否かにかかわらず,添付されたことをもって独立の証拠となり,あるいは当然に証言又は供述の一部となるものではないと解するのが相当である。

 本件電子メールについては,原判決が指摘するとおり,その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであること,被告人乙に対してこれを示して質問をした手続に違法はないこと,被告人乙が本件電子メールの同一性や真正な成立を確認したことは認められるが,これらのことから証拠として取り調べられていない本件電子メールが独立の証拠となり,あるいは被告人乙の供述の一部となるものではないというべきである。本件電子メールは,被告人乙の供述に引用された限度においてその内容が供述の一部となるにとどまる(最高裁平成21年(あ)第1125号同23年9月14日第一小法廷決定・刑集65巻6号949頁参照)。


したがって,上記の理由により本件電子メールが被告人乙の供述と一体となったとして,これを証拠として取り調べることなく事実認定の用に供することができるとした原判決には違法があるといわざるを得ない。


4 しかし,被告人乙が本件電子メールについてした供述やその他の関係証拠によれば,被告人乙について第1審判決判示の犯罪事実を認定することができるから,上記の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。

よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。


(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官寺田逸郎 裁判官 大橋正春)