最判平成18年2月23日 民法94条2項・110条の類推適用

最判平成18年2月23日 民法94条2項・110条の類推適用

? 意思外形対応型
94条2項の類推適用には
A 権利者が不実登記を意図的に作出した場合
B 権利者の関与なしに不実登記を後に承認した場合

? 意思外形非対応型
110条の法意で保護される類型
C 権利者の認める不実の第1登記をもとにその登記名義人が別の不実の第2登記を作出した場合に第3社がこれを信頼した場合

110条の類推適用で保護される類型
D 最初に作出された外形にされに加功がされ、その加功後の外形を信頼した第三者が出現した場合


【判示事項】 不実の所有権移転登記がされたことにつき所有者に自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があるとして民法94条2項、110条を類推適用すべきものとされた事例
【判決要旨】 不動産の所有者である?から当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていたAが,?から交付を受けた当該不動産の登記済証,印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につきAへの不実の所有権移転登記を了した場合において,?が,合理的な理由なく上記登記済証を数か月間にわたってAに預けたままにし,Aの言うままに上記印鑑登録証明書を交付した上,Aが?の面前で登記申請書に?の実印を押捺したのにその内容を確認したり使途を問いただしたりすることなく漫然とこれを見ていたなど判示の事情の下では,?には,不実の所有権移転登記がされたことについて自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があり,?は,民法94条2項,110条の類推適用により,Aから当該不動産を買い受けた善意無過失のYに対し,Aが当該不動産の所有権を取得していないことを主張することができない

判旨
Aに対し,本件不動産の賃貸に係る事務及び土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが,そのために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もないのにAに預けて数か月間にわたってこれを放置し,Aから土地の登記手続に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通をAに交付し,本件不動産を売却する意思がないのにAの言うままに本件売買契約書に署名押印するなど,Aによって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかかわらず,これを顧みることなく,さらに,本件登記がされた平成12年2月1日には,Aの言うままに実印を渡し,Aが上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請書に押捺したのに,その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫然とこれを見ていたというのである。

 そうすると,Aが本件不動産の登記済証,上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは,上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり,Aによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。


そして,前記確定事実によれば,被上告人は,Aが所有者であるとの外観を信じ,また,そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項,110条の類推適用により,上告人は,Aが本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。