裁判傍聴記の著作物性 ライブドア裁判傍聴記事件 知財高裁平成20年7月17日

平成20年7月17日判決言渡
平成20年(ネ)第10009号発信者情報開示等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第9982号)
平成20年6月10日口頭弁論終結



■ 判旨

著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(著作権法2条1項1号)。


以下では,本件に即して言語により表現されたものの著作物性の有無について述べる。


著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,当該記述が,厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でないが,記述者の何らかの個性が表現されていることが必要である。


言語表現による記述等の場合,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,記述者の個性が現われていないものとして,「創作的に表現したもの」であると解することはできない。


また,同条所定の「思想又は感情を表現した」というためには,対象として記述者の「思想又は感情」が表現されることが必要である。言語表現による記述等における表現の内容が,専ら「事実」(この場合における「事実」とは,特定の状況,態様ないし存否等を指すものであって,例えば「誰がいつどこでどのようなことを行った」,「ある物が存在する」,「ある物の態様がどのようなものである」ということを指す。)を,格別の評価,意見を入れることなく,そのまま叙述する場合は,記述者の「思想又は感情」を表現したことにならないというべきである(著作権法10条2項参照)。

■ 当事者
① 原告X
② 被告Y
控訴人(以下「原告」という。)

被控訴人(以下「被告」という。)
ヤフー株式会社
同訴訟代理人弁護士秀桜子

■ 主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被告は,原告に対し,別紙ブログ目録記載のブログに別紙ブログ記事1及び
2を掲載した者について,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
3 被告は,別紙ブログ記事1及び2を削除せよ。

第2 事案の概要
① 原告は,刑事訴訟事件における証人尋問を傍聴した結果をまとめた別紙原告傍聴記記載の傍聴記(以下「原告傍聴記」という。便宜上,後記の本件ブログ記事1及び2に対応する部分を,「原告傍聴記1」,「原告傍聴記2」という場合がある。)をインターネットを通じて公開した。

② 被告の管理・運営する「Yahoo!ブログ」(以下「本件サービス」という。)のうち別紙ブログ目録記載のブログ(以下「本件ブログ」という。)に,別紙ブログ記事1及び同ブログ記事2(以下順に「本件ブログ記事1」,「本件ブログ記事2」といい,両者を併せて「本件ブログ記事」という場合がある。)が原告に無断で掲載された。

③ 原告は被告に対して,本件ブログ記事が原告の原告傍聴記に対する著作権を侵害すると主張して,①特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,本件ブログ記事の発信者の情報開示を求めるとともに,②著作権法112条2項に基づき,本件ブログ記事の削除を求めた。

■ 原判決

原判決は,原告傍聴記は著作権法2条1項1号の「著作物」に該当しないとの理由により,プロバイダ責任制限法4条1項及び著作権法112条2項の適用はないとして原告の請求を棄却した。原告は控訴を提起した。1 前提事実(当事者間に争いのない事実,又は証拠により認められる事実)

(1) 原告は,平成18年9月12日,東京地方裁判所刑事第1部で開かれた被告人堀江貴文(以下「本件被告人」という。)に対する証券取引法違反被告事件(以下「本件公判事件」という。)の第4回公判期日において行われた証人尋問(以下「本件証人尋問」という。)を傍聴し,その内容の一部をメモし(甲4,25。以下「本件ノート」という場合がある。甲18,20ないし22),同ノートをもとに,原告傍聴記を作成し,平成18年9月1
4日,インターネットを通じて公開した(甲5,弁論の全趣旨)。

(2) 被告は,インターネットを通じて不特定多数の者が不特定の者によって受信されることを目的として,自由に情報を発信することができる本件サービスを管理・運営している。

本件サービスは,ブログ(ウエブサイト上の簡易日記)を無料で提供するサービスである。利用者が本件サービスにおいてブログを開設するには,「Yahoo!JAPAN ID」という無料のIDを取得することを要し,利用者はそのIDと任意に設定したパスワードを入力して,被告サイトにログインした上で,「Yahoo!ブログ開設ページ」にアクセスし,ブログ開設ボタンをクリックすると,必要事項を記入するページに遷移し,ガイド
ラインに同意した上で認証することを要する(乙1の1ないし4)。

(3) 本件ブログ記事1は平成18年9月30日に,本件ブログ記事2は同年10月25日にそれぞれ本件ブログに掲載され,公開されている(甲2,乙7,8)。

原告は,被告に対し,本件ブログ記事の削除を求めたが,被告は応じていない。

■ 本件の争点

2 本件の争点
(1) 原告傍聴記は,著作権法2条1項1号の「著作物」に当たるか。本件ブログ記事の掲載は,原告の原告傍聴記に対する複製権を侵害したといえるか。

(2) 本件ブログ記事の掲載は,プロバイダ制限責任法4条1項1号所定の「当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」といえるか。
同行為は,著作権法112条2項所定の著作権を侵害する行為といえるか。


3 争点に対する当事者の主張(当審における補足的主張を含む。)

(1) 争点1(原告傍聴記の著作権法2条1項1号の著作物性の有無等)について

(原告の主張)
原告傍聴記は,本件ノートに基づき,検察官の質問と証人の答えを独自の観点から分類,構成し直して,すなわち創意工夫して組み合わせた要約文である。

原告傍聴記2の証人の経歴に関する部分は,主尋問と反対尋問から抜き出したり,原告傍聴記1の「○クラサワコミュニケーションズとの株式交換も計上していることを口頭で説明した」,「■堀江被告は何も言わなかったが,分からないときは質問するので,説明を理解していたと思う」の記述及び原告傍聴記2の「○大学卒業後,未来証券に新卒入社」,「■個人投資家からの株式売買受託やベンチャー企業の資金調達に携わる」,「■1年半弱で退社」の記述においては,証言の順序ではなく,時系列にそって並べ変えをしたり,原告傍聴記2においては,実際の証言中の「山田史郎取締役につてがあった」との部分の固有名詞を省略したり(甲25)するなど,情報の取捨選択を行っている。

したがって,原告傍聴記は著作物である。

本件ブログ記事は,原告傍聴記を複製したものであるから,原告傍聴記について有する原告の複製権を侵害する。

(被告の反論)

ア傍聴記の著作物性の有無の判断について

原告傍聴記は,本件被告人の公判廷における本件証人尋問の一問一答を記述したものである。

一般に,公判廷の証人尋問がどのような内容であったかは事実であるから,その内容を記述した文章に創作性が認められることは通常考えられず,「事実の伝達」(著作権法10条2項)にすぎない。

また,証人尋問は,簡潔な質問と答えが要求され,原則として「一問一答式」で行なわれることからすれば,その内容を文章で再現しようとする場合には,表現形式も限定される。

証人尋問は,検察官又は弁護人からの質問,それに対する証人の回答で構成され,問答の順序は,証人の経歴から始まり,時系列又は争点別の順序でされる。

また,検察官又は弁護人の質問内容は,証人の体験した事実について,日時場所,居合わせた人物が誰か,証人自身の感情など,内容は限定され,また,証人の回答は,事実を述べるものとなる。

したがって,これらの事項をありふれた表現で記述するものは創作性を欠く。本件公判事件は,株式市場にも大きな影響を与えた事件である。同事件の証人尋問の内容は,社会的な関心事であるが,傍聴席数等の物理的事情等の制約から,傍聴希望者のすべてが傍聴できるわけではない。

裁判の公開を担保し,国民の知る権利,国民による司法の監視を実現するためには,原告傍聴記のような傍聴記録の著作物性を広範に捉えることは妥当でない。

このような傍聴記録の著作物性が肯定されるためには,①全体構成として,尋問の順序にとらわれず,尋問内容を独自の観点から分類,構成し直したり,②表現形式についても,単なる尋問内容の箇条書きではなく,個性を表すものと評価できる程度の創意工夫を施したり,③作者独自の観点から重要な内容を取捨選択し,例えばフォントの大きさや太字などで重要部分を強調したり,④作者独自の表現を付け加えて法廷内の様子を描写したり,事件の背景や事案の概要について,独自の情報や表現をもって解説した文章を加えたりするなど表現上の工夫が施されることが必要である(乙6の1,2)。


以上のとおり,証人尋問の内容をそのまま書き記したメモや質問と回答を要約したメモは,著作権法10条2項の「事実の伝達」に当たり,創作性がないというべきである。

イ原告傍聴記について

(ア) 原告傍聴記1

冒頭の「『株式交換で20億円計上』ライブドア事件証人・丸山サトシ氏への検察側による主尋問」との記述に創作性はない。

その後に続く記述は,「証人のパソコンのファイルについて」,「証人のパソコンの別のファイルについて」等の見出しを付し,本件証人尋問の流れに沿って構成されているが,証人尋問においては,主題ごとに区切って尋問することが通常であるから,その構成に創作性はない。各見出しにも創作性はない。

その後に続く記述は,「ライブドアの平成16(2004)年9月期の最初の予算である」,「各事業部や子会社の予算案から作成されている」,「ライブドアファイナンスによる投資事業は含んでいない」等は証人の証言をほぼそのまま記載したにすぎないと推認され,原告の思想又は感情の表現部分はないから,創作性はない。

したがって,原告傍聴記1は,全体の構成,問答の順序,質問及び回答の内容などについてごくありふれた表現にとどまり,事実の伝達にすぎず,創作性を欠くものであるから,著作物性が認められない。

(イ) 原告傍聴記2

冒頭の,「ライブドア事件堀江被告人の第4回公判の1人目の検察側証人尋問は、丸山サトシ(表記不明)氏である」という客観的事実をそのまま記したものであり,原告による創意工夫があるとはいえない。

「検察側による主尋● 問より」,「●弁護側による反対尋問より」との見出し部分は,ごく短い見出しであり,刑事裁判における証人尋問の流れを記述しようとするならば,誰でもこのような見出しになるものであって,表現形式には制約があり,また,その表現が平凡かつありふれたものであるから,創作性は認められない。

「●検察側により主尋問より」との見出しに続く文章は,「ライブドア元社員」,「ライブドア事件当時は、ライブドアグループ全体の予算策定を担当」というものであり,証人の経歴に関して単なる一問一答の要点を記載したもので,証人尋問の結果という事実を伝達するものにすぎず,他の表現形式を選択する余地がなく,原告による創意工夫があるとはいえない。

「●弁護側による反対尋問より」との見出しに続く文章は,大学卒業後未来証券に新卒入社」,「個人投資家からの株式売買受託やベンチャー企業の資金調達に携わる」なども,原告による創意工夫は認められない。

また,「丸山サトシ氏の検察側証人尋問は、平成18(2006)年9月12日(火)10時から13時35分まで行なわれました(12時から13時15分まで休憩)。」との部分は,単に法廷の進行という事実を文章にしたものにすぎない。

ウ以上のとおり,原告傍聴記は,全体の構成,問答の順序,質問及び回答の内容などについて,ごくありふれた表現が選択され,その内容は事実の伝達にすぎず,創作性を欠くから,著作物性は認められない。

したがって,本件ブログに本件ブログ記事を掲載する行為は,原告傍聴記に係る複製権を侵害する行為ではない。

(2) 争点2(プロバイダ責任制限法4条1項の権利侵害の明白性の有無等)について

(原告の主張)

本件ブログ記事は,原告傍聴記の全文をそのまま転載して作成したものであり,原告の原告傍聴記に対する著作権を侵害しており,プロバイダ制限責任法4条1項の権利侵害の明白性を充たす。

本件ブログに本件ブログ記事を掲載する行為は,原告の原告傍聴記に対する複製権を侵害する行為であるから,原告は被告に対し,著作権法112条2項に基づき本件ブログ記事の削除を請求することができる。

(被告の反論)

著作権侵害が明白である場合にのみ発信者情報の開示義務が生ずる。本件ブログに本件ブログ記事を掲載する行為は,原告傍聴記の複製権侵害行為ではなく,また,少なくもと著作権侵害が明白な行為ではない。

プロバイダ制限責任法4条1項の権利侵害の明白性を充たさない。著作権法112条2項
に基づき本件ブログ記事の削除を請求する根拠はない。

■ 知財高裁の判断

第3 当裁判所の判断

1 争点1(原告傍聴記の著作権法2条1項1号の著作物性の有無等)について

著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(著作権法2条1項1号)。

以下では,本件に即して言語により表現されたものの著作物性の有無について述べる。

著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,当該記述が,厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でないが,記述者の何らかの個性が表現されていることが必要である。

言語表現による記述等の場合,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,記述者の個性が現われていないものとして,「創作的に表現したもの」であると解することはできない。

また,同条所定の「思想又は感情を表現した」というためには,対象として記述者の「思想又は感情」が表現されることが必要である。言語表現による記述等における表現の内容が,専ら「事実」(この場合における「事実」とは,特定の状況,態様ないし存否等を指すものであって,例えば「誰がいつどこでどのようなことを行った」,「ある物が存在する」,「ある物の態様がどのようなものである」ということを指す。)を,格別の評価,意見を入れることなく,そのまま叙述する場合は,記述者の「思想又は感情」を表現したことにな
らないというべきである(著作権法10条2項参照)。

以上を前提に,原告傍聴記の著作物性の有無について検討する。

(1) 事実認定(原告傍聴記の記載内容)

ア原告傍聴記1

原告傍聴記1は,原告が,ライブドア事件における丸山サトシ証人に対する証人尋問の傍聴結果を,以下の要領で記述したものである。

(ア) 「『株式交換で20億円計上』ライブドア事件証人・丸山サトシ氏への検察側による主尋問」との大項目(表題)が付されている。

(イ) 以下のとおり中項目が付されている。

●証人のパソコンのファイルについて
●証人のパソコンの別のファイルについて
●証人のパソコンの別のファイルについて
●証人のパソコンの別のファイルについて
●11月10日(月)の打合せについて
●予算の最終案について
●予算のその後について

(ウ) 各中項目の下に,証言内容が短く記述されている。例えば,「●証人のパソコンのファイルについて」との項目では,以下の記述がされている。

ライブドアの平成16(2004)年9月期の最初の予算である
・各事業部や子会社の予算案から作成されている
ライブドアファイナンスによる投資事業は含んでいない
・「売上高は132億円/営業利益は22.7億円」で,最初の予算案だからアグレッシブだった
・証人は,「売上高は100〜110億円/営業利益は7〜8億円」が妥当と感じていた
・前年比増収増益で,実現可能な数字だった
・経営陣の考えで,全事業の増収増益が求められた
・減収減益だと,各事業部長や子会社社長の減給や降格もありえた
・判断は,堀江貴文被告(ライブドア前社長)が行っていた
・前年実績などから,予算案を現実的な数値に修正するのが証人の仕事であった
堀江被告に予算案を報告したところ,容赦なかった
堀江被告は,ライブドアファイナンスによる投資事業が含まれないことは知っていた
ライブドアファイナンスによる投資事業の売上は,10億円が見込
イーバンク銀行との提携による100億円規模のファンドの設立報酬や管理報酬などが大半だった

イ原告傍聴記2

原告傍聴記2は,原告が,ライブドア事件における丸山サトシ証人に対する証人尋問(続行)の傍聴結果を,以下の要領で記述されている。

(ア) 「ライブドア事件堀江貴文被告(ライブドア前社長)第4回公判の1人目の検察側証人尋問は,丸山サトシ(表記不明)氏です。」との説明書きが付されている。

(イ) 以下のとおり中項目が付されている。

●検察側による主尋問より
●弁護側による反対尋問より

(ウ) 各中項目の下に,証言内容が短く記述されている。例えば,「●弁護側による反対尋問より」との項目では,以下の記述がされている。

・大学卒業後,未来証券に新卒入社
個人投資家からの株式売買受託やベンチャー企業の資金調達に携わる
・1年半弱で退社
・未来証券退社後,テラジャパンに入社・有機物によるゴミや油の減量を業務とする会社
・1,2ヵ月で業績が悪化し,退社・テラジャパン退社からライブドア(当時オン・ザ・エッヂ)入社まで約2ヵ月就職活動
ライブドア退社後,UFJキャピタルに入社
M&Aの仲介に携わる
・9ヵ月強で退社
・現在は,自分の会社を経営
ベンチャー企業の上場準備や株式公開のコンサルタント

(エ) 最後に,丸山サトシ氏の検察側証人尋問は,平成18(2006)年9月12日(火)10時から13時35分まで行われました(12時から13時15分まで休憩)との記載がある。

(2) 判断

ア原告傍聴記における証言内容を記述した部分(例えば,「○ライブドアの平成16(2004)年9月期の最初の予算である」「○各事業部や子会社の予算案から作成されている」)は,証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおり記述したか,又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから,原告の個性が表れている部分はなく,創作性を認めることはできない。

イ原告傍聴記には,冒頭部分において,証言内容を分かりやすくするために,大項目(例えば,「『株式交換で20億円計上』ライブドア事件証人・丸山サトシ氏への検察側による主尋問」)及び中項目(例えば,「証人のパソコンのファイルについて」)等の短い表記を付加している。

しかし,このような付加的表記は,大項目については,証言内容のまとめとして,ごくありふれた方法でされたものであって,格別な工夫が凝らされているとはいえず,また,中項目については,いずれも極めて短く,表現方法に選択の余地が乏しいといえるから,原告の個性が発揮されている表現部分はなく,創作性を認めることはできない。

ウこの点について,原告は,原告傍聴記は本件ノートに基づいて作成したものであり,本件ノートと対比すればその「分類」と「構成」に創意工夫がされているから,原告傍聴記に創作性が認められるべきであると主張する。

そして,具体的には,①原告傍聴記2の証人の経歴に関する部分は,主尋問と反対尋問から抽出していること,②原告傍聴記1の「○クラサワコミュニケーションズとの株式交換も計上していることを口頭で説明した」,「■堀江被告は何も言わなかったが,分からないときは質問するので,説明を理解していたと思う」の記述及び原告傍聴記2の「○大学卒業後,未来証券に新卒入社」,「■個人投資家からの株式売買受託やベンチャー企業の資金調達に携わる」,「■1年半弱で退社」の記述は,実際に証言された順序ではなく,時系列にしたがって順序を入れ替えたこと,③原告傍聴記2において固有名詞を省略したこと等を創意工夫として例示する。

しかし,原告の主張する創意工夫については,経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず,表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないのは前記のとおりであるし,実際の証言の順序を入れ替えたり,固有名詞を省略したことが,原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。原告の主張は採用できない。

(3) 小括

以上のとおり,原告傍聴記を著作物であると認めることはできない。

したがって,本件ブログ記事のウエブサイトへの掲載がプロバイダ責任制限法4条1項に該当するとはいえず,また,著作権侵害行為ともいえない。

2 結論

以上により,原告の本件控訴は,その余の争点について判断するまでもなく理由がない。したがって,原告の本訴請求を棄却した原判決は,結論において相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸