平成21年 重要判例 民法(1)

農業協同組合の組合員代表訴訟の適法性および合併契約の条項に基づく理事等の責任
(最三小判平成21・3・31)

事案の概要
①A農協等は、平成13年2月15日に、同年9月1日に合併してB農協を新設する旨の合併契約を締結した。
②合併契約中には、A農協の貸倒引当金が過少に計上されていた場合には、引当不足額を上記役員個人として「B農協」にてん補する本件賠償条項があった。
③合併後にA農協の貸倒引当金の過少計上が判明した。
④そこで、B農協の組合員Xらは、本件賠償条項に基づきA農協の理事であった者に対してA農協の貸倒引当金の不足額等の支払を求める訴訟を提起した。
⑤B農協への書面は、代表理事Y1が農協の代表者と記載されていた。

争点
1 農業協同組合の理事に対する代表訴訟を提起しようとする組合員が,同組合の代表者として監事ではなく代表理事を記載した提訴請求書を同組合に送付したが,監事において,当該理事に対する訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があった場合における,上記組合員の提起した代表訴訟の適法性
2 農業協同組合の合併契約に,被合併組合の貸借対照表等に誤びゅう等があったため新設組合が損害を受けたときは故意又は重過失のある被合併組合の役員個人が賠償責任を負う旨の条項がある場合,被合併組合の理事会で上記契約の締結に賛成した理事等は上記条項に基づく責任を負うか

判旨
(1) 平成17年法律第87号による改正前の農業協同組合法(以下,単に「農協法」という。)39条2項において準用する同改正前の商法275条ノ4によれば,農業協同組合の理事に対する組合員代表訴訟を提起しようとする組合員の提訴請求を受けることについては,監事が農業協同組合を代表することとなる。
 しかし,上記のとおり監事が農業協同組合を代表することとされているのは,組合員代表訴訟の相手方が代表理事の同僚である理事の場合には,代表理事農業協同組合の代表者として提訴請求書の送付を受けたとしても,農業協同組合の利益よりも当該理事の利益を優先させ,当該理事に対する訴訟を提起しないおそれがあるので,これを防止するため,理事とは独立した立場にある監事に,上記請求書の記載内容に沿って農業協同組合として当該理事に対する訴訟を提起すべきか否かを判断させる必要があるからであると解される。
 そうすると,農業協同組合の理事に対する代表訴訟を提起しようとする組合員が,農業協同組合の代表者として監事ではなく代表理事を記載した提訴請求書を農業協同組合に対して送付した場合であっても,監事において,上記請求書の記載内容を正確に認識した上で当該理事に対する訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があったといえるときには,監事は,農業協同組合の代表者として監事が記載された提訴請求書の送付を受けたのと異ならない状態に置かれたものといえるから,上記組合員が提起した代表訴訟については,代表者として監事が記載された適式な提訴請求書があらかじめ農業協同組合に送付されていたのと同視することができ,これを不適法として却下することはできないというべきである。

被上告人Y7らのうちA農協の理事会に出席して同農協が本件合併契約を締結することに賛成した理事又はこれに異議を述べなかった監事に該当する者については,本件合併契約の中に,旧4農協のうちのいずれかの農業協同組合貸借対照表等に誤びゅう脱落等があったためにB農協が損害を受けた場合には,そのことに故意又は重過失がある当該農業協同組合の役員は個人の資格において賠償する責任を負う旨を明記した本件賠償条項が含まれていることを十分に承知した上で,A農協が本件合併契約を締結することに賛成するなどして,その締結手続を代表理事にゆだねているのであるから,同農協の代表理事を介して,旧4農協に対し,個人として本件賠償条項に基づく責任を負う旨の意思表示をしたものと認めるのが相当である。また,旧4農協においても,本件合併契約の締結に至っている以上,上記の意思表示について承諾したものと認めるのが相当である。そうすると,少なくとも,被上告人Y7らのうち上記のような理事又は監事に該当する者については,旧4農協の権利義務を承継したB農協に対する関係でも,本件賠償条項に基づく責任を免れないものというべきである。


□ 弁護士法に違反する行為の私法上の効力(最一小決平成21・8・12)

事案の概要
① Aは、平成18年5月、Yとの間で、外国人研修事業につき、Aが中国人研修生等を日本に派遣するために必要な経費の一部をYが負担し、YがAに対し、これを送金して支払う旨の契約を締結した。
② 弁護士Xは、債権回収のためAのYに対する金銭債権(本件債権)を譲り受けた。
③ そこで、Xは、同債権を被保全権利として,Yの預金債権の仮差押えを求め、申立てに基づき仮差押決定がなされた。
④ これに対し、Yが保全異議を申し立て,弁護士Xによる本件債権の譲受けは弁護士法28条に違反する行為であり 無効であると主張した。

争点
債権管理・回収目的での弁護士の債権譲受けが、弁護士法28条に違反し、公序良俗に反するとして無効とならないか。

判旨
 債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない(最高裁昭和46年(オ)第819号同49年11月7日第一小法廷判決・裁判集民事113号137頁参照)。そして,前記事実関係によれば,弁護士である抗告人は,本件債権の管理又は回収を行うための手段として本案訴訟の提起や本件申立てをするために本件債権を譲り受けたものであるが,原審の確定した事実のみをもって,本件債権の譲受けが公序良俗に反するということもできない。


□ 利息制限法制限超過利息過払金の返還請求権の消滅時効の起算点(最一小判平成21・1・22)

事案の概要
① Xは、貸金業者Yとの間で、基本契約に基づく継続的金銭消費貸借取引をしていた。
② Xは、利息制限法を超える利息を支配、よって過払金が発生したとして、不当利得返還を求めてYを訴えた。

争点
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約において、利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合における取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点はいつか。

判旨
基本契約は,基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
 このような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)を行使することは通常想定されていないものというべきである。

したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。

そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。

 借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存在する過払金の返還を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから,そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号479頁参照)。

 したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である。