最判平成24年10月9日  1 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項は準用されない。 2 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があることを量刑上酌むべき事情として考慮するのは相当ではない。

事件番号
 平成24(あ)878
事件名
 業務上横領被告事件
裁判年月日
平成24年10月09日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
 決定
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
刑集 第66巻10号981頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 平成24(う)403
原審裁判年月日
平成24年05月15日
判示事項
 1 家庭裁判所から選任された成年後見人が成年被後見人所有の財物を横領した場合と刑法244条1項の準用の有無
2 家庭裁判所から選任された成年後見人が成年被後見人所有の財物を横領した場合に成年後見人と成年被後見人との間の親族関係を量刑上酌むべき事情として考慮することの当否

裁判要旨
 1 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項は準用されない。
2 家庭裁判所から選任された成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があることを量刑上酌むべき事情として考慮するのは相当ではない。

参照法条
 (1,2につき)刑法244条1項,刑法253条,刑法255条


平成24年(あ)第878号 業務上横領被告事件
平成24年10月9日 第二小法廷決定


主 文
本件上告を棄却する。

理 由
弁護人五十部紀英の上告趣意は,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

なお,本件は,家庭裁判所から選任された成年後見人であり,かつ,成年被後見人の養父である被告人が,後見の事務として業務上預かり保管中の成年被後見人の預貯金を引き出して横領したという業務上横領の事案であるところ,所論は,被告人が成年被後見人の養父であることは,刑法255条が準用する同法244条1項の趣旨に鑑み,量刑判断に当たり酌むべき事情であると主張する。

しかしながら,家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから,成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより,その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではないというべきである(最高裁平成19年(あ)第1230号同20年2月18日第一小法廷決定・刑集62巻2号37頁参照)。


よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美 裁判官小貫芳信)