最判平成24年7月9日  児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項の「公然と陳列した」には当たらないとする反対意見が付された事例

事件番号
 平成21(あ)2082
事件名
 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判年月日
平成24年07月09日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 決定
結果

判例集等巻・号・頁
 集刑 第308号53頁
原審裁判所名
大阪高等裁判所
原審事件番号

原審裁判年月日
 平成21年10月23日

判示事項
児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項の「公然と陳列した」には当たらないとする反対意見が付された事例


参照法条
 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項,刑訴法411条1項


平成21年(あ)第2082号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び
児童の保護等に関する法律違反被告事件

平成24年7月9日 第三小法廷決定
主 文
本件上告を棄却する。

理 由

弁護人柴崎祥仁ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

よって,同法414条,386条1項3号により,裁判官大橋正春,同寺田逸郎の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

■ 反対意見

裁判官大橋正春の反対意見は,次のとおりである。

私は,原判決の法令の解釈について刑訴法411条による職権判断を示さない多数意見には賛成することができず,原判決には,判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり,破棄しなければ著しく正義に反するものとして,同条1号により破棄すべきものと考える。

原判決の認定によると,被告人は,共犯者と共謀の上,共犯者がインターネット上に開設したウェブページに,第三者が他のウェブページに掲載して公然陳列した児童ポルノのURLを,その「bbs」部分を改変した上で掲載したものであるというのである。

原判決は,被告人の行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条4項の「公然と陳列した」に該当するとして,児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めた。

刑法175条にいうわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないとするのが当審の判例最高裁平成11年(あ)第1221号同13年7月16日第三小法廷決定・刑集55巻5号317頁)であり,その趣旨は,児童ポルノ法7条4項の「公然と陳列した」にも該当するものである。

しかし,「公然と陳列した」とされるためには,既に第三者によって公然陳列されている児童ポルノの所在場所の情報を単に情報として示すだけでは不十分であり,当該児童ポルノ自体を不特定又は多数の者が認識できるようにする行為が必要で,この理は,所在場所についての情報が雑誌等又は塀に掲示されたポスター等で示される場合に限らず,インターネット上のウェブページにおいてなされる場合にも等しく妥当する。

ウェブページ上で児童ポルノが掲載されたウェブサイトのURL情報が示された場合には,利用者が当該ウェブページの閲覧のために立ち上げたブラウザソフトのアドレスバーにURL情報を入力して当該児童ポルノを閲覧することが可能となり,そのために特段複雑困難な操作を経る必要がないといえるが,このことは,パソコンで立ち上げたブラウザソフトに雑誌等で示されたURL情報を入力して閲覧する場合においても同様であり,両者の間に特段の違いがあるものではない。

平成13年決定の判旨の後段部分は,当該事件の内容から明らかなように,被告人自身が開設・運営していたパソコンネット上において,そのホストコンピュータに記憶,蔵置させた画像データの閲覧について,再生閲覧のために通常必要とされる簡単な操作に関し述べるものであり,本件のように,被告人によって示されたURL情報を使って閲覧者が改めて画像データが掲載された第三者のウェブサイトにアクセスする作業を必要とする場合まで対象とするものではないと解される。

そうすると,本件について被告人の行為は児童ポルノ法7条4項の「公然と陳列した」には当たらず,公然陳列罪が成立するとした原判決には法令の違反があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであり,原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるから,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,本件については幇助罪が成立する余地もあることから,同法413条本文により,幇助罪の成否について更に審理を尽くさせるため,本件を原審である大阪高等裁判所に差し戻すべきものと考える。

なお,被告人の行為は社会的には厳しく非難されるべきものであり,また,新たな法益侵害の危険性を生じさせるものであるという原判決の指摘も理解できないではない。

しかし,そのことを強調し,URL情報を単に情報として示した行為も,「公然と陳列した」に含まれると解することは,刑罰法規の解釈として罪刑法定主義の原則をあまりにも踏み外すもので,許されるものではなく看過できない。

被告人の行為については児童ポルノ公然陳列罪を助長するものとして幇助犯の成立が考えられるのであり,その余地につき検討すべきであって,あえて無理な法律解釈をして正犯として処罰することはないと考えられる。

裁判官寺田逸郎は,裁判官大橋正春の反対意見に同調する。

(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官寺田逸郎 裁判官 大橋正春)