東京高裁平成23年1月26日 新設分割無効の訴えの原告適格

東京高裁平成23年1月26日 新設分割無効の訴えの原告適格

要旨
新設分割の無効の訴えを提起することができる会社法828条2項10号にいう「新設分割について承認をしなかった債権者」とは、新設分割について異議を述べることができる者として同法810条1項2号に規定する債権者をいう。

判旨
       主   文

 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。


第3 当裁判所の判断

1 会社の新設分割は、株式会社が事業に関して有する権利義務の全部あるいは一部を分割後新たに設立する会社(新設分割設立会社)に承継させる会社の組織上の行為であって、新設分割設立会社は、新設分割の効力が生じると、新設分割計画(同計画を記載した書面は、本店に備え置かれ(会社法803条1項2号)、債権者は閲覧、謄本又は抄本の交付等の請求ができる(同条3項)。)の定めに従い、既存の会社(新設分割会社)の権利義務を包括的に当然承継する(同法764条1項)。新設分割に異議を述べることができる債権者は、一定の手続の下、異議を述べることにより、新設分割会社から弁済を受けたり、相当の担保の提供を受けたりすることができる(同法810条5項)。
2 新設分割の無効は、訴えをもってのみ主張することができ、その出訴期間が定められている(会社法828条1項10号)。また、無効の訴えを提起することができる者を同条2項10号に規定する者に限定している。これは、新設分割による権利義務の承継関係の早期確定と安定の要請を考慮しているためである。
 そして、債権者については、「新設分割について承認をしなかった債権者」に限定している(同号参照)。「新設分割について承認をしなかった債権者」とは、新設分割の手続上、新設分割について承認するかどうか述べることができる債権者、すなわち、新設分割に異議を述べることができる債権者(同法810条1項2号)と解するのが相当である。この反面、新設分割に異議を述べることができない債権者は、新設分割について承認するかどうか述べる立場にないから、新設分割無効の訴えを提起することができないことになる。

3 これに対し、控訴人は、新設分割会社が債務超過で、会社分割後も新設分割会社のみが債務を負い、新設分割設立会社が債務を承継しない場合は、このような会社分割に同意しない債権者も、「新設分割について承認をしなかった債権者」(会社法828条2項10号)に該当する者として新設分割無効の訴えを提起できるとすベきである旨主張する。
 しかしながら、新設分割においては、新設分割会社がその事業に関する権利義務の全部又は一部を新設分割設立会社に交付することに対し、新設分割設立会社の設立の際に発行される株式(新設分割会社が新設分割設立会社に交付する純資産の価値に相当する。)が新設分割会社に割り当てられ(同法763条6号)、新設分割会社は、新設分割設立会社の株主となる(同法764条4項)から、新設分割会社は、資産総額に変動がないことになる。そうすると、新設分割後、新設分割会社に対して債務の履行を請求することができる債権者は、債務者に変更がないから、新設分割について異議を述べることができる債権者から除外したのである。これに対し、新設分割後、新設分割会社に対して債務の履行を請求することができない新設分割設立会社の債権者は、債務者が変更になることから、新設分割について異議を述べることができることにしたのである。
 ところで、以上のように解したとしても、新設分割会社が新設分割設立会社から割り当てられる株式が新設分割会社が新設分割設立会社に交付した純資産に相当するものでなかった場合、新設分割会社の債権者は、不利益を受けるおそれがある。しかし、この場合でも、新設分割無効の訴え以外の方法で個別に救済を受ける余地があるから、不当な事態は生じない。したがって、会社の新設分割無効の訴えを提起することができる債権者を拡張して解釈する必要はなく、控訴人の上記主張は採用することができない。
4 そして、本件会社分割によって、控訴人は、新設分割会社である被控訴人Y1の債権者であることに変わりはないから、会社の新設分割無効の訴えについて、原告適格を有しないといわざるを得ない。
5 よって、原判決は相当であり、本件控訴には理由がないから、主文のとおり判決する。
 裁判長裁判官 春日通良
    裁判官 太田武聖 小林元二