最判平成7年4月25日 従業員持ち株制度と退職従業員の株式譲渡義務

最判平成7年4月25日 従業員持ち株制度と退職従業員の株式譲渡義務

事件番号
 平成3(オ)1332
事件名
 株券発行
裁判年月日
 平成7年04月25日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 判決
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
 集民 第175号91頁
原審裁判所名
名古屋高等裁判所
原審事件番号
 平成1(ネ)49
原審裁判年月日
 平成3年05月30日
判示事項
 いわゆる従業員持株制度に基づいて取得した株式を退職時に額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の会社と従業員との合意が有効とされた事例
裁判要旨
 定款で株式の譲渡制度を定めている会社において、いわゆる従業員持株制度に基づいて取得した株式を退職時に額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の会社と従業員との間でされた合意は、従業員が、右制度の趣旨、内容を了解した上で株式を額面額で取得し、毎年八ないし三〇パーセントの割合による配当を受けていたなど判示の事実関係の下においては、商法二〇四条一項に違反するものではなく、公序良俗にも反せず、有効である。
参照法条
 商法204条1項,民法90条




判旨
         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人伊神喜弘の上告理由について

 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。右事実関係によると、(一) 被上告会社は、その定款によって株式の譲渡制限を規定している株式会社であるところ、昭和四三年ころ、従業員に被上告会社の株式を取得させることにより、従業員の財産形成とともに、会社との一体感を強めてその発展に寄与させることを目的として、いわゆる従業員持株制度を導入した、(二) 上告人らは、いずれも被上告会社の従業員であったが、昭和四三年ころから昭和五四年七月三日にかけて、右制度の趣旨、内容を了解した上で被上告会社の株式を額面額で取得し、その際、被上告会社との間で、退職に際しては、同制度に基づいて取得した株式を額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の合意(以下「本件合意」という。)をした、(三) 昭和六一年五月三日、被上告会社の全従業員約四〇名中営業担当の二三名の従業員のうち、上告人らを含む一二名が退職したが、被上告会社は、右の一斉退職等に伴う混乱等のため、取締役会において、上告人らの有する株式の譲受人を直ちには指定せず、昭和六三年七月一一日に譲受人としてDを指定し、同人は、買受けの意思を明らかにした上、同月二〇日から二二日にかけてその代金額を供託した、(四) 被上告会社は、昭和四三年度以降、当初はおおむね一五ないし三〇パーセント、昭和五六年度から昭和六〇年度は八パーセントの割合による株式配当を行っていた(昭和六一年度は株式配当をしていないが、これは右の一斉退職等に伴って営業上壊滅的な打撃を受けたためである。)、というのである。


 右事実関係及び原審の説示するところに照らせば、本件合意は、商法二〇四条一項に違反するものではなく、公序良俗にも反しないから有効であり、被上告会社の取締役会が、本件合意に基づく譲受人としてDを指定し、同人が買受けの意思を明らかにしたことにより、上告人らは被上告会社の株式を喪失したとして、株券の発行を求める上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫