最判平成5年9月9日 100%子会社による親会社株式の取得と親会社取締役の責任

最判平成5年9月9日 100%子会社による親会社株式の取得と親会社取締役の責任


事件番号
 平成1(オ)1400
事件名
 取締役の責任追及
裁判年月日
 平成5年09月09日
法廷名
最高裁判所第一小法廷
裁判種別
 判決
結果
 棄却
判例集等巻・号・頁
民集 第47巻7号4814頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 昭和61(ネ)1641
原審裁判年月日
 平成1年07月03日
判示事項
 一 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することと商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条
二 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式の売買により損失を被った場合と乙会社に生じる損害
裁判要旨
 一 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することは、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条にいう自己株式の取得に当たる。
二 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の指示により同社の株式を売買して買入価格と売渡価格の差額に相当する損失を被った場合、乙会社の取締役は、特段の事情のない限り、その全額を乙会社に生じた損害として、賠償の責めに任ずる。
参照法条
 商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)210条,商法254条3項,商法266条1項5号,民法415条,民法644条


判旨

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由

 一 上告代理人鈴木竹雄、同長谷部茂吉、同青山義武、同春田政義、同田代有嗣の上告理由第一点について

 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、被上告人の本件訴訟の提起が権利の濫用に当たるものではないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の認定しない事実を交え、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

 二 同第二点について

 甲株式会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙株式会社の株式を取得することは、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条に定める除外事由のある場合又はそれが無償によるものであるなど特段の事情のある場合を除き、同条により許されないものと解すべきである。けだし、このような甲株式会社による乙株式会社の株式の取得は、乙株式会社が自社の株式を取得する場合と同様の弊害を生じるおそれがある上、このような株式の取得を禁止しないと、同条の規制が右の関係にある甲株式会社を利用することにより潜脱されるおそれがあるからである。

 これと同旨の見解に立って、本件株式の取得が同条に違反するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 三 同第三点及び第四点について

 1 原審の適法に確定した事実関係の要旨は、(一) D鉱山株式会社(以下「D鉱山」という。)は、昭和五〇年当時、E株式会社(以下「E」という。)のすべての発行済み株式を有していた、(二) D鉱山は、同年一二月三日、Eに対して、Fの有するD鉱山株式一五五〇万株(以下「本件株式」という。)を同人の要求する価格で買い取った上、D鉱山の関連会社にFからの買入れ価格よりも低い価格で売り渡すことを指示した、(三) Eは、右指示に従い、同月二五日、Fとの間で、本件株式について代金を八二億一五〇〇万円とする売買契約を締結し、契約と同時に株券の引渡しを受け、昭和五一年一一月三〇日までに代金全額を支払い、同年一月から三月にかけて、本件株式を複数のD鉱山の関連会社に対して代金合計四六億六三四〇万円で売り渡した、というのである。

 2 以上の事実関係によれば、Eの資産は、本件株式の買入価格八二億一五〇〇万円と売渡価格四六億六三四〇万円との差額に相当する三五億五一六〇万円減少しているのであるから、他に特段の主張立証のない本件においては、Eの全株式を有するD鉱山は同額に相当する資産の減少を来しこれと同額の損害を受けたものというべきである。また、D鉱山の受けた右損害とEが本件株式を取得したこととの間に相当因果関係があることも明らかである。したがって、本件株式の取得によりD鉱山が三五億五一六〇万円の損害を受けたとする原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

 四 同第五点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、上告人らの主張する利益は本件株式の取得との間に相当因果関係がないからD鉱山の損害から控除すべきでないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

 五 上告人Aの上告理由について

 原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

 六 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    味   村       治
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達
            裁判官    大   白       勝