千葉地裁平成26年4月18日 残土処理事業許可処分の取り消し訴訟の原告適格

千葉地裁平成26年4月18日 残土処理事業許可処分の取り消し訴訟の原告適格


判示事項の要旨
 千葉県土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例に基づき県知事がした残土処理事業の許可処分について,同事業に係る処理場の下流に居住する住民が,上記処理場の設置に伴う土砂の崩落,飛散又は流出による災害の発生によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがある者として,上記許可処分の取消訴訟原告適格を有するとされた事例

平成24年(行ウ)第37号 特定事業許可取消請求事件
平成26年4月18日 千葉地方裁判所民事第3部判決
口頭弁論終結日 平成26年2月14日

主 文
1 原告A,原告B及び原告Cの訴えを,いずれも却下する。
2 原告D,原告E及び原告Fの請求を,いずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
処分行政庁が,参加人に対し,平成23年12月20日付けでした特定事業許
可処分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告らが,処分行政庁が参加人に対して行った特定事業許可処分(以
下「本件許可処分」という。)は,千葉県土砂等の埋立て等による土壌の汚染及
び災害の発生の防止に関する条例(平成9年条例第12号。以下「本件残土条例」
という。)に規定される許可の要件を満たさない等の違法があると主張して,被
告に対し,本件許可処分の取消しを求めた事案である。
1 前提事実
 原告らは,千葉県館山市の住民である。
 参加人は,貨物海上輸送,土木建設工事業,産業廃棄物処理業等を目的とする株式会社である。
 参加人は,平成23年6月22日,処分行政庁に対し,本件残土条例11条1項に基づき,下記アの土地(以下「本件処理場」という。)において土砂等の埋立てをする特定事業(以下「本件特定事業」という。)許可の申請をし,これに対し,処分行政庁は,同年12月20日,以下の概要の本件許可処分をした。

ア 許可する特定事業場及び面積
館山市a字bc番dほか76筆
209,051平方メートル
イ 特定事業区域の面積
60,119平方メートル
ウ 許可の期間
平成23年12月20日から平成26年12月19日まで
エ 許可の土量
1,040,300立方メートル
⑷ 原告らは,平成24年6月18日,本件訴えを提起した。

2 法令等
⑴ 本件残土条例
ア 本件残土条例は,土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生を未然に防止するため,必要な規制を行うことにより,県民の生活の安全を確保し,もって県民の生活環境を保全することを目的としている(本件残土条例1条)。
イ 事業者は,その事業活動において,土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生を未然に防止する責務を有し(本件残土条例3条1項),土砂等の埋立て等に使用される土砂等の安全基準(以下「安全基準」という。)は,環境基本法16条1項に規定する土壌の汚染に係る環境基準に準じて,規則で定める(本件残土条例7条)。
ウ 特定事業を行おうとする者は,特定事業に供する区域(以下「特定事業区域」という。)ごとに,あらかじめ知事の許可を受けなければならない(本件残土条例10条本文)。
エ そして,上記許可の申請をしようとする者は,あらかじめ,当該申請に係る特定事業区域内の土地の所有者に対し,特定事業許可申請書に記載する事項を説明し,当該申請につきその同意を得なければならない(本件残土条例10条の2)。
オ 上記ウの知事の許可を受けようとする者は,特定事業区域の位置,面積,表土の地質の状況,特定事業に使用される土砂等の量及び搬入計画に関する事項等を記載した申請書に上記エの同意を得たことを証する書面,特定事業区域及びその周辺の状況を示す図面その他の規則で定める書類及び図面を添付して知事に提出しなければならない(本件残土条例11条1項)。
カ 知事は,当該申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,許可をしてはならない(本件残土条例12条1項)。
申請者が,特定事業の施工に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に該当しないこと(同条1項1号ニ)。
本件残土条例10条の2に規定する同意を得ていること(同条1項2号)。
 特定事業が完了した場合において,当該特定事業に使用された土砂等のたい積の構造が,特定事業区域以外の地域への当該土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生のおそれがないものとして規則で定める構造上の基準に適合するものであること(同条1項6号)。
 本件残土条例11条1項8号に規定する搬入計画における特定事業に使用される土砂等の発生場所が特定していること(同条1項7号)。
 特定事業が施工されている間において,特定事業区域以外の地域への排水の水質検査を行うために必要な措置が図られていること(同条1項9号)。
 特定事業が施工されている間において,特定事業区域以外の地域への当該特定事業に使用された土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置が図られていること(同条1項10号)。
キ 上記ウの許可の申請が,法令等に基づく許認可等を要する行為に係るものであって,当該行為について,当該法令等により土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置を図られているものとして規則で定めるものである場合にあっては,上記カ及びの規定(以下「本件構造基準規定」という。)は,適用しないとされ(本件残土条例12条3項),上記規則で定めるものとして,本件残土条例施行規則6条別表4第6号において,地域森林計画の対象となっている民有林における開発行為(森林法10条の2)が挙げられている。

⑵ 千葉県土砂等の埋立て等に関する指導指針(以下「本件指針」という。)
ア 本件指針は,事業者が本件残土条例2条2項に規定する特定事業を行う場合に,県が事業者に対し必要な指導を行うことにより土砂等の適正な埋立て等の推進を図ることを目的とする(本件指針1条)。
イ 事業者は,特定事業場の計画区域の所在する地域の住民(以下「地域住民」という。)に対し,以下に掲げる事項について説明を行うものとする(本件指針3条1項)。
 特定事業の計画の概要
 地域の環境保全上の留意点
ウ 事業者は,特定事業の計画区域を管轄する市町村長(残土関係担当課)に対して,以下に掲げる事項について説明を行うものとする(本件指針4条)。
 特定事業の計画の概要
 地域の環境保全上の留意点
 上記イに係る説明の実施状況
 千葉県における行政指導
千葉県では,明文の規定はないが,特定事業者が許可を得た特定事業を完了・終了・廃止することなく,新たに別の特定事業の許可申請をしないよう行政指導している(以下「本件行政指導」という。)。

3 争点及び当事者の主張
⑴ 争点1 原告適格
(原告らの主張)
ア 本件残土条例の目的(本件残土条例1条)や,本件残土条例が土壌汚染や水質汚濁,土砂災害を防ぐための厳しい規制や許可基準を設け,知事に様々な監督権限を認め,違反者には罰金を課していること等を考慮すれば,本件残土条例は,特定事業場における土砂等の埋立て等による土壌や水の汚染又は災害によって,生活の安全や生活環境に被害を受けないという周辺住民個々人の個別的利益を保護しているといえる。
そして,保護されるべき上記生活の安全や生活環境には,自宅において土砂崩れ等の災害の危険や土壌汚染や水質汚濁の被害を受けないことのほか,通勤,通学路や職場等においてもこれらの被害を受けないこと,残土等の運搬に伴う交通事故の被害を受けないこと,自然環境や営業権も含まれる。
イ 原告らは,本件処理場から500メートルから900メートルの距離に居住する者であり,土砂崩れや地滑り等の被害をこうむるおそれや,残土を運搬する多数のダンプカーによる交通事故の被害にあうおそれのほか,大気汚染や海洋汚染に伴う海産物の汚染により原告らの健康にも被害が生ずるおそれがある。また,原告Dは,井戸水を風呂,洗い物,洗濯等に使用しており,原告B,原告F及び原告Cは,井戸を掘る予定があることから,これらの者が汚染された井戸水を使用することにより,健康被害をこうむるおそれがある。さらに,原告Aはダイビングスクール,原告E及び原告Cはペンションを営み,原告Dは漁協の準組合員として漁をしているところ,本件処理場から流れ出た有害物質により海が汚染され,これらの者の営業が成り立たなくなるおそれがある。
ウ したがって,原告らは,本件許可処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者であるから,本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり,原告適格が認められる。
(被告の主張)
ア 特定事業により埋め立てる土砂には安全基準が定められており,事業者は被告が安全基準に適合していることを確認した土砂のみを搬入できるのであるから,有害物質を含んだ残土が本件処理場に持ち込まれ,有害物質が原告らの居住する区域にまで流れて原告らの使用する井戸水を健康被害を及ぼすレベルにまで汚染したり,魚介類や海草類につき健康被害を及ぼすレベルにまで汚染したりする蓋然性は極めて低く,原告らが直接的な被害を受けるとは考えられない。
イ 本件処理場の構造基準については,森林法に基づく林地開発の許可を受
けたものであるから,土砂崩れ等の可能性は極めて低い。
また,仮に土砂崩れ等が発生したとしても,土砂は,本件処理場の両側にある尾根の谷地にある青道に沿って流出すると考えられ,尾根を超えるとは考え難く,また,原告らの居住する場所までには相当距離があることからすると,土砂崩れ等により原告らが被害をこうむるおそれは低い。ウ アスベスト及びダイオキシンについては,法令の規制等の効果により,残土に混入する可能性が極めて低く,仮に本件処理場に持ち込まれたとしても,参加人が,残土搬入時の落下飛散防止のための対策をとっていることや,原告らの居住地と本件処理場とは,直線距離500メートル以上の距離があり,山に隔てられていることからして,これらの物質が空中に飛散し,原告らが直接的な被害を受けるとは考えられない。
エ 周辺の自然環境や営業権といった間接的かつ反射的な利益については,原告適格を基礎づける法律上保護された利益には当たらない。
オ したがって,原告らの主張する被害は,いずれも本件残土条例によって保護すべき対象とは言えないものであるから,原告らは,本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者には当たらず,原告適格は認められない。
⑵ 争点2 本件許可処分が本件残土条例12条1項7号に違反するか
(原告らの主張)
本件残土条例12条1項7号の趣旨は,許可後遅滞なく計画が実施されることを通じて災害の発生を予防し,また,特定事業に使用される土砂等の発生場所を確認することによって土壌汚染を防止する点にある。そして,参加人が本件許可処分に係る許可申請時に処分行政庁に対して提出した搬入計画記載の土砂発生場所は,当該場所から土砂を搬入する予定がないにもかかわらず記載されたものであって,参加人は,当該場所以外の場所から土砂を搬入している。
したがって,土砂の発生場所が特定されているとはいえず,本件許可処分は,本件残土条例12条1項7号に違反する。
(被告及び参加人の主張)
被告は,本件許可処分をするにあたり,参加人から提出された搬入計画に記載された土砂等の発生元の事業者に対して土砂等の搬出予定について尋ね,土砂等の発生場所が特定されていることを確認した上で本件許可処分を行っている。
そして,本件残土条例12条1項7号は,土壌汚染の防止を間接的に担保する規定にすぎず,許可後の状況の変化等によって搬入計画の土砂等の発生場所が変更となることまでも制限するものではない。
⑶ 争点3 本件許可処分が本件残土条例12条1項1号ニに違反するか
(原告らの主張)
ア 参加人は,処分行政庁に対して提出する土砂発生場所に係る書面につき,当該場所から土砂を搬入する予定がないにもかかわらず,あるかのように記載することを繰り返している。
 また,参加人は,同一の法人格である株式会社Gが特定事業を完了していないにもかかわらず,本件行政指導を潜脱するべく,別個の法人格であるかのように装って本件許可処分に係る許可申請をしている。
 そのほか,参加人は,本件許可処分に係る申請にあたり,県の行政指導に従わずに住民に対する説明会を開催せず,過去にも東京湾に残土を不法投棄したことがある。
 上記事情によれば,参加人は,特定事業の施工に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に該当するといえる。
イ また,本件残土条例12条1項1号ニは,周辺住民の個別具体的な権利を保護した規定であるから,原告らが,この点に関する違法事由を主張することは,行政事件訴訟法10条1項の主張制限を受けるものではない。
(被告及び参加人の主張)
ア 本件残土条例12条1項1号ニは,特定事業において不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者を排除するために申請者の一般的適性についての要件を定めたものであるところ,特定事業者となるべき者を制限し,一般的公益として公衆の生命,身体の安全及び環境上の利益を保護しようとしたものであって,これを超えて特定事業場の周辺住民等の個人的権利・利益を具体的に保護する趣旨を含むものとまでは解することはできないので,参加人が,本件残土条例12条1項1号ニに該当するとの原告らの主張は,自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものであるから,行政事件訴訟法10条1項により,原告らは,この点についての主張をすることはできない。
イ 仮に,原告らが,この点についての主張をすることができたとしても,参加人が,土砂発生場所を許可申請時に提出した搬入計画記載のものから変更したのは,東日本大震災の影響により土砂発生場所の工事計画が止まってしまったことや,H協同組合が土砂発生場所の工事主体等に対し,本件許可処分に反対する旨の書簡を送付したことにより本件処理場への搬入を控えたためであって,土砂の搬入予定はあった。
 また,参加人と株式会社Gとは,異なる法人格の別個独立の会社であるから,本件行政指導を潜脱しているとの原告らの主張はその前提を欠く。
 参加人は,平成23年3月25日に,本件指針3条に基づく地域住民に対する説明会を行っており,また,原告らが主張する不法投棄の事実は,本件残土条例制定以前のものであり,本件残土条例施行以降は,参加人が本件残土条例による命令,罰則を受けたことはない。
 したがって,参加人は,特定事業の施工に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者には該当しない。
⑷ 争点4 本件許可処分が本件残土条例12条1項2号に違反するか
(原告らの主張)
本件特定事業計画地内には,本件許可処分当時,館山市が所有していた公共用財産(以下「本件青道」という。)が存在していたところ,本件許可処分は,館山市の同意なくしてされたものであるから,本件残土条例12条1項2号に違反する。
(被告及び参加人の主張)
本件青道は,本件許可処分時,館山市の所有するものではあったが,本件許可処分後に館山市から参加人に対して払下げを行い,参加人が土地所有者となることが確実であった。したがって,本件許可処分は本件残土条例12条1項2号の趣旨を満たすものであるため,違法ではない。
⑸ 争点5 本件許可処分が本件残土条例12条1項6号及び10号に違反するか
(原告らの主張)
森林法における災害防止措置が,直ちに残土処分場の災害防止措置となりうるわけではないから,本件残土条例12条3項は,前者によって残土処分場における土砂等のたい積の本件構造基準規定を満たし,災害防止措置が講じられていると認められる場合にのみ適用されて,上記条項の適用を除外する趣旨の規定であると解釈する必要がある。しかし,本件処理場には,地盤に滑りやすい土質があり,適切な災害防止措置が講じられなければならないにもかかわらず,参加人は,本件処理場内の地滑り可能性がある点について調査も行っておらず,適切な措置も講じられていないため,本件許可処分は,本件残土条例12条1項6号及び10号が適用されて,これらに違反する。
(被告及び参加人の主張)
本件特定事業は,森林法10条の2による林地開発許可を要するものであるから,本件残土条例に規定される許可基準のうち,本件構造基準規定は適用除外となる。被告は,本件許可処分にあたり,本件処理場の林地開発申請について許可見込みであることの確認を行い,林地開発許可は,本件許可処分と同日に行われている。
また,本件処理場における本件残土条例12条1項6号及び10号に代わる森林法10条の2第2項による審査は,本件処理場の土質や地盤を調査し,安定性等につき結論を得ているものであるため,本件許可処分は,本件残土条例12条1項6号及び10号に違反するものではない。

■ 裁判所の判断

第3 当裁判所の争点に対する判断
1 認定事実
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 本件処理場の立地について
房総半島南部は,砂岩,シルト岩,凝灰岩及び礫岩からなる地域で,複数の地層が複雑に分布している。また,本件処理場は,東西南の三方を標高170〜190メートルの山に囲まれた谷部分に位置し,その周辺には,地滑り,急傾斜崩壊地,地下深部にまで発達した亀裂が存在する。
残土を搬入・埋立をする谷部は,最深部で標高112メートルであり,埋立・造成が完成すると標高130〜140メートルに平される計画であった。埋立・造成地から距離約260メートル,標高約50メートルの場所には,調整池が設けられ,下流域へ流出する水量の調節を図ることができるようになっている。
別紙図面(以下,別紙図面は添付省略)のに位置する本件処理場の北には,集落が山裾から点在し,海岸に沿う県道e線沿線には比較的密に存在する。住宅地の間には本件処理場を上流として館山湾のf漁港に河口を有する河川が流れる。上記河川の中流から河口にかけて及び中流から分岐して北北西の海岸にかけて,土石流の跡がある。
⑵ 原告らの居住地及び生活状況等
ア 原告A
原告Aは,本件処理場から約600メートル北の別紙図面の①に居住する。原告Aの自宅と本件処理場との間には,標高約70〜100メートルの尾根があり,原告の自宅は山裾から約80メートルの距離にある。
イ 原告D
原告Dは,本件処理場から約900メートル北,本件処理場を上流とする河川の河口から約150メートル西の別紙図面の②に居住し,自宅の井戸の井戸水を主に風呂,洗い物,洗濯等に利用している。
ウ 原告B
原告Bは,本件処理場から約500メートル北の別紙図面の③に居住する。原告Bの自宅と本件処理場との間には,標高約70〜100メートルの尾根があり,原告Bの自宅は山裾から約80メートルの距離にある。また,原告Bは,本件処理場に隣接する約150坪の土地を所有している。
エ 原告E
原告Eは,本件処理場から約750メートル北の別紙図面の④に居住する。原告Eの自宅と本件処理場との間には,標高約100メートルの尾根があり,原告Eの自宅は山裾に接するようにして所在する。
オ 原告F
原告Fは,本件処理場から約700メートル北の別紙図面の⑤に居住する。原告Fの自宅と本件処理場との間には,標高約40メートルの尾根があり,原告Fの自宅は,山裾から約30メートルの距離にある。
カ 原告C
原告Cは,本件処理場から900メートル南の別紙図面の⑥の位置に居住し,近隣地でホテル旅館を経営している。本件処理場と原告Cの住居及びホテル旅館との間には,海抜140メートルに位置する本件処理場所在地よりも約20メートル高い尾根が所在する。
 参加人と株式会社Gについて
ア 会社概要
 参加人は,参加人代表者の祖父Iが,貨物海上輸送等を目的として昭和47年5月1日に設立された株式会社である。
 株式会社Gは,Iが,建設用鋼材の製作,加工,修理,リース及び販売並びに土砂の採取,土木建設工事請負業等を目的として,昭和41年7月12日に有限会社Jとして設立し,のちに株式会社に組織変更し,平成10年8月31日に株式会社Gに商号変更した株式会社である。
イ 役員
 参加人の代表取締役は,平成21年6月26日以前から平成25年4月8日まで,参加人現代表者の父であるKが務め,この間,参加人現代表者は取締役であったが,同日以降は,参加人現代表者が代表取締役を努めている。
 株式会社Gでは,平成10年以降,参加人代表者が代表取締役を,Kが取締役を務めていた。
ウ 本店所在地
参加人と株式会社Gの本店は,平成8年4月12日以降,同じ事務所内にある。
エ 従業員等
 参加人は,事務部門に従業員1名,船員6名を雇用している。
 株式会社Gは,参加人の上記従業員等とは別の従業員13名を雇用している。
オ 事務処理等
参加人は,株式会社Gと月5万円で業務委託契約を締結し,株式会社Gの従業員が,参加人の業務に関する電話及び来客対応並びに経理の事務を処理している。
参加人と株式会社Gは,それぞれ別個に確定申告を行っている。
 本件許可処分の経緯
ア 本件特定事業許可申請まで
 株式会社Gは,平成12年,残土処理場の建設を構想し,本件残土処理場の約95%に相当する土地を購入した。しかし,残土処理場に至るための通路として不可欠な土地の所有者が,残土処理場の建設に反対したため,実現には至らなかった。
株式会社Gは,平成22年6月,参加人に対し,上記土地を売却した。その直後,上記土地の所有者が,残土処理場の建設に協力的な態度に転じたため,参加人は,本件特定事業に係る許可申請をすることとした。その際,提出した土砂等の搬入計画に記載された採取場所,発生元事業者は6名であり,搬入期間は始期が平成23年4月から同年9月,終期が平成24年12月から平成27年2月であった。
 参加人は,平成23年3月25日,館山市a区長及び住民39名に対して本件特定事業について説明し,質疑応答を受ける説明会を開いた上,同年4月6日,館山市L係長に対し,上記説明会の実施状況について報告した。
 参加人は,同年5月23日,a区長及びa区役員に対し,計画変更について説明をした。
 参加人は,同年6月20日,処分行政庁に対し,本件特定事業に係る土砂の埋立てについて,森林法10条の2に基づく林地開発許可申請をした。
 参加人は,同月22日,処分行政庁に対し,本件特定事業に係る許可申請をした(以下「本件申請」という。)。
イ 本件許可処分まで
 参加人は,同月25日,本件指針5条に基づき,a区長との間で,特定事業の施工に伴う公害,災害及び交通問題に関する協定を締結した。
 参加人は,同年8月2日,当時館山市が所有する公共用財産であった本件青道につき,用途廃止の上で払下げを受け,所有権を取得することを目的として,館山市に対し,用途廃止の申請をした。
 被告は,同年10月5日,館山市長に対し,本件青道に係る上記用途廃止の申請の取扱いについて照会したところ,館山市長は,同月11日,地元の説明会の状況や林地開発及び特定事業許可申請の許可を確認した上で,普通財産に所管換えする予定である旨回答した。
 また,被告は,同月17日に再度館山市長に対し,本件青道の普通財産に所管換え後の払下げ見込みについて照会したところ,館山市長は,同年12月12日,林地開発及び特定事業の許可がなされた後に払下げを行う予定である旨回答した。
 参加人は,同年10月31日,g地区連合区長会15区のうち14区の区長及び役員合計28名に対し,本件処理場の場所,進入路,盛土量,工事期間,搬入する土砂,搬入車両,埋立完了後の跡地利用,放流水等の本件特定事業に関する説明をし,同日,館山市M課職員に対し上記説明の状況を報告し,同年11月10日に館山市長に対し住民全体を対象とする説明会は開催しない旨を報告した。
 参加人は,同年11月3日及び同月5日,a区内住民107世帯に対し,本件処理場の場所,進入路,盛土量,工事期間,搬入する土砂,搬入車両,埋立完了後の跡地利用,放流水等本件特定事業についての説明の資料を配付し,同月10日,館山市長に対し,上記資料の配付状況について報告した。
 参加人は,同日,処分行政庁に対し,土砂等の搬入計画について土砂採取場所・発生元事業者及び搬入予定量につき変更が生じたため,本件申請時に予定していた土砂採取場所・発生元事業者のうち4か所を削除,9か所を追加する特定事業許可申請書内容変更届を提出した。
 被告職員は,同年12月1日及び翌2日,参加人から提出された上記特定事業許可申請書内容変更届の搬入計画に記載された土砂等の発生元の全ての業者に対し電話をかけ,土砂等の搬出予定についての確認を行ったところ,上記搬入計画記載のとおりの土砂の搬出予定があるとの回答を得た。
 処分行政庁は,同月20日,参加人に対し,森林法10条の2に基づき林地開発許可をした。
 処分行政庁は,同日,参加人に対し,本件許可処分をした。
ウ 本件許可処分後
 参加人は,平成24年12月20日,処分行政庁に対し,土砂等の搬入計画について土砂採取場所・発生元事業者及び搬入予定量につき変更が生じたため,上記イにおける変更時に予定していた土砂採取場所・発生元事業者のうち2か所を削除,28か所を追加する特定事業許可申請書内容変更届を提出した。この変更により,本件申請時に予定していていた土砂採取場所・発生元事業者は,1か所のみとなった。
 参加人は,平成25年3月12日,同年4月19日及び同年7月8日,処分行政庁に対し,土砂等の搬入計画について土砂採取場所・発生元事業者及び搬入予定量につき変更が生じたため,上記ウにおける変更時に予定していた土砂採取場所・発生元事業者のうち合計5か所を削除する特定事業許可申請書内容変更届を提出した。この変更により,本件申請時に予定していていた土砂採取場所・発生元事業者はいなくなり,本件許可処分時に予定していた土砂採取場所・発生元事業者は,4か所となった。
 参加人における本件特定事業の運営
ア 参加人は,平成23年3月20日,株式会社Gとの間で,本件特定事業に係る以下の業務内容の業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。
 参加人が行う本件特定事業への現場代理人の配置
 残土搬入,品質,安全,原価,工程の管理とその他現場運営に関すること
 工事測量,出来高管理測量業務
 日々の工事段取りと工事打合わせ
出来高管理,変更工事内容のまとめと報告
 諸官庁提出書類作成と提出及び協議
イ 参加人は,本件特定事業の現場責任者として,株式会社Gの従業員であるNを選任した。
ウ 参加人は,京浜地区で発生する建設残土を,多くの場合に,以下の手順により本件処理場へ搬入する。
 京浜地区のゼネコン又はその下請けのサブゼネコン(以下「ゼネコン等」という。)は,京浜地区の埠頭管理業者である株式会社Oに,京浜地区で発生した建設残土の処理を依頼する。
 Oは,千葉県内の特定事業場の事業者の許可状況を把握しており,参加人の特定事業許可書の写しをゼネコン等に渡し,ゼネコン等は,土砂等発生元証明書と検査試料採取調書を作成し,Oに渡す。
 Oは上記書類を参加人に渡し,参加人は,これらの書類を添付して土砂等搬入届を被告に提出し,土砂等搬入届の写しに被告の受領印が押されたものを,Oを経由してゼネコン等に渡す。
 これらの手続きが完了した後,京浜地区で発生した建設残土は,Oが管理する京浜地区側の埠頭にダンプカーで運ばれ,ゼネコン等はOに対し,ダンプカーの台数に応じて処理料を支払う。
なお,上記及びの手続きには,通常14日間,早くても7日間を要するため,ゼネコン等は「特定事業者名」欄,「発生土砂等運搬契約者名」及び「発生土砂等埋立事業者名」欄が空欄になったままの土砂等発生元証明書を,残土処理場が決まる前にあらかじめOに交付し,Oが,残土処理場が決まった後で上記空欄を埋めるという取扱をすることがままある。
 Oは,株式会社Gとの間で,京浜地区側の埠頭から千葉側の埠頭へと海上輸送する業務委託契約を締結し,Oは株式会社Gに対し業務委託料を支払う。
 参加人は,株式会社Gの委託を受けて,参加人自身が所有又は傭船したガット船で残土を館山の埠頭まで運ぶ。
 株式会社Gは,参加人の委託を受けて,運ばれた残土を館山の埠頭から本件処理場までダンプカーで輸送し,本件処理場へと搬入し,参加人は,株式会社Gに対し,本件業務委託契約に基づく処理料(h港の経費,陸上輸送及び本件処理場の造成工事費)を支払う。
エ 参加人は,平成24年8月頃,残土の搬入を開始した。


2 争点1について
行政事件訴訟法9条は,取消訴訟原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
上記の見地に立って,原告らが本件許可処分の取消しを求めるにつき原告適格を有するか否かについて検討する。
原告適格を検討する前提として,本件許可処分にかかわる本件残土条例が個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むか検討すると,次のとおりである。
ア 本件残土条例は,前記法令等ア,イのとおり定めるほか,知事は,安全基準に適合しない土砂等が使用されているおそれがあると認めるときは,事業者に対し,直ちに当該土砂等の埋立て等を停止し,又は現状を保全するために必要な措置を執るべきことを命ずることができるとしている(本件残土条例8条1項,2項)。
また,同ウ,オのとおり定めた上,特定事業が施工されている間において,特定事業区域以外の地域への排水の水質検査を行うために必要な措置及び特定事業区域以外の地域への当該特定事業に使用された土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置等を申請書に記載するほか,特定事業区域及びその周辺の状況を示す図面を添付しなければならないとする(本件残土条例11条1項4号,5号,9号,10号)。
さらに,同カ,,のとおり定めている。
加えて,上記許可を受けた者は,定期的に,当該許可に係る特定事業区域の土壌についての地質検査及び当該特定事業区域以外の地域への排水の水質検査を行い,その結果を知事に報告しなければならないとされる(本件残土条例17条1項)。
イ そして,本件残土条例が規定する基準に適合しない残土処理場の設置が行われた場合に,そのような設置に伴う土砂の崩落,飛散又は流出による災害の発生,公共の水域及び地下水の汚染による被害を直接的に受けるのは,当該残土処理場の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ,その被害の程度は,居住地が埋立地に接近するにつれて増大するものと考えられる。また,このような残土処理場の周辺地域に居住する住民が,当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復,継続して受けた場合,その被害は,これらの住民の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものである。
ウ 上記アで述べた本件残土条例の各規定に照らせば,本件残土条例12条1項6号,9号,10号の各規定は,残土処理場の設置に伴う土砂の崩落,飛散又は流出による災害の発生,公共の水域及び地下水の汚染を防止し,もって住民の生活の安全及び生活環境の保全を図ることをその趣旨及び目的とし,上記災害及び汚染による健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ,前記イのような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない。
エ 以上のような本件残土条例の趣旨及び目的,本件残土条例12条1項6号,9号,10号の各規定が保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,残土処理場の周辺に居住する住民のうち当該残土処理場の設置に伴う土砂の崩落,飛散又は流出による災害の発生,公共の水域及び地下水の汚染によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,都道府県知事が本件残土条例10条1項に基づく特定事業許可処分につき法律上の利益を有する者として,その取消しの訴えにおける原告適格を有するものというベきである。
 そこで,原告らが本件各処分の義務付けを求める原告適格を有するか否か検討する。
上記認定事実によれば,本件処理場及び原告らが居住する房総半島南部は,砂岩,シルト岩,凝灰岩及び礫岩からなる脆弱な地層を有する。加えて,本件処理場の所在地は,標高170〜190メートルの山に囲まれた標高140メートルの谷部にあり,その周辺には,地滑り,急傾斜崩壊地が存在する。
原告D,原告E及び原告Fは,いずれも本件処理場の下流に居住し,最も離れた原告Dで900メートルであり,その住居は,本件処理場への進入路として設けられた青道のほぼ延長線上に位置すること原告E及び原告Fの住居は,山裾から約30メートル以内の距離で,土石流の跡が認められる位置にあり,山間部で生じた土砂崩れ等の被害を受ける可能性が認められることに照らせば,本件残土処理場の設置に伴う土砂の崩落,飛散又は流出による
災害の発生によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者といえる。

したがって,原告D,原告E及び原告Fは,本件特定事業許可処分につき法律上の利益を有する者として,原告適格を有する。

他方,原告A及び原告Bの住居と本件処理場との間には,標高約70〜100メートルの尾根が,原告Cの住居及びホテル旅館と本件処理場との間には,標高約170メートルの尾根が存在し,土石流の跡も認められないことからすると,本件処理場の北側に調整池及び青道が設置されているにもかかわらず,尾根を超えて原告A,原告B及び原告Cの住居及びホテル旅館が所在する方へ土砂が流出するとは考え難い。また,原告B及び原告Cは,井戸水を非常用水又はホテル旅館等で使用することを検討している旨主張するが,井戸の掘削及び井戸水の使用が具体的に現実化しているものとは認められず,その水脈も不明であって,また,本件処理場から流出した地下水が原告B及び原告Cの使用する井戸水へと流出し,他の水流からの地下水が混入したにもかかわらず,原告B及び原告Cの健康又は生活環境に著しい被害が生ずるおそれがあるとまでは認めるに足りない。更に,原告Cは,ホテル旅館経営による経済的利益が害される旨主張するが,本件残土条例が係る利益を保護していると解することはできない。

したがって,原告A,原告B及び原告Cは,本件特定事業許可処分につき法律上の利益を有する者には当たらず,原告適格は認められない。

3 争点2について(原告D,原告E及び原告F(以下「原告Dら」という。)
関係)
(1) 上記認定事実イによれば,被告は,本件許可処分をするにあたり,参加人から提出された搬入計画に記載された土砂等の発生元の事業者に対して土砂等の搬出予定について尋ね,土砂等の発生場所が特定されていることを確認した上で本件許可処分を行っている。
また,本件残土条例13条1項,11条1項8号によれば,許可後の状況の変化等によって搬入計画の土砂等の発生場所を変更することは,改めて知事の許可を受けることができれば可能であり,本件申請時と実際の土砂発生元が異なることをもって本件残土条例12条1項7号に違反しているものとは認められない。
そのことは,申請から許可,許可から現場設備の完成並びに搬入開始までの期間が見通せない場合があり,現に本件処理場は,平成24年8月頃から土砂の搬入を開始したと考えられるところ,本件申請時に予定していた土砂発生場所からの搬入開始時期は平成23年4月から9月であるから,これらの発生元事業者は,既に本件処理場以外に処分先を求めたものとうかがわれ,これらのうち早いものでは上記回答時には既に終了していることからも明らかである。
(2)ア また,原告Dらは,平成24年3月27日の本件申請時に予定していた発生元事業者が本件処理場への残土の搬出予定はない旨回答したことから,参加人が上記発生場所から土砂を搬入する予定はなかった旨主張する。
イ 上記(1)に加えて,上記発生元事業者は,平成24年3月の時点で既に土砂を搬出したという事実はなく,今後もその予定がないと回答しているにすぎず,同回答は,本件申請時に搬入の予定があったこと及び上記前提事実イの被告職員による確認と矛盾するものではない。
ウ また,上記認定事実ウによれば,残土をどのゼネコン等からいつ搬入するかについては,京浜地区側のゼネコン等と千葉側の残土処理業者の間をつなぐOが取りまとめをしており,参加人が直接ゼネコン等に交渉することは原則としてない。参加人は,本件申請時においても,Oからの情報に基づき土砂発生場所を記載せざるを得ず,何らかの理由により,ゼネコン等が残土の搬出計画を取りやめたり変更した場合であっても,参加人はOに別の搬入元を手配してもらうことくらいしか取り得る手段はない。したがって,本件申請時における土砂発生場所が変更されたとしても,これをもって直ちに,参加人が,当該場所から土砂を搬入する予定がないにもかかわらず,あるかのように虚偽の記載をしていたとは認められない。また,証拠によれば,確かに,原告Dらの指摘するとおり,参加人の提出書類とゼネコン等の提出書類との間には,発生した土砂の搬出・搬入先,土砂の量において齟齬が生じているが,ゼネコン等が提出した書類がどのような提出要件及び審査体制の下で取り扱われているか定かではなく,また,土砂の量については搬出・搬入過程で空気の混入程度によりかさが増減することもあることからすると,書類に齟齬があることをもって,直ちには,参加人が虚偽の記載をしていたとは認められない。
エ したがって,原告Dらの上記主張は採用できない。
(3) よって,原告Dらの本件残土条例12条1項7号違反の主張は理由がない。
4 争点3について
(1) 行政事件訴訟法10条1項について
行政事件訴訟法10条1項にいう「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益の保護に対し,関連性の乏しい法規に違反したにすぎない違法を意味し,「法律」とは,当該処分の根拠規定である行政実体法規を意味するものと解する。
イ 上記第3の2(2)イのとおり,本件残土条例が規定する基準に適合しない残土処理場の設置が行われた場合には,土砂の崩落,飛散又は流出による災害の発生,公共の水域及び地下水の汚染によって,当該残土処理場の周辺の一定範囲の地域に居住する住民が被害をこうむるところ,本件残土条例12条1項1号ニは,特定事業の施工に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるは上記基準に適合しない残土処理場を施工して,上記被害が発生する可能性があることから,これを防止する趣旨にあるものと解される。
したがって,本件残土条例12条1項1号ニは,上記被害をこうむるの具体的利益の保護に明らかに関連するものと解されるところ,上記第3の2のとおり,原告Dらは上記被害をこうむるに該当するため,本件残土条例12条1項1号ニに関する原告Dらの主張は,原告Dらの法律上の利益に関係する主張であるというべきである。よって,被告の主張は採用できない。
(2)ア(ア) 原告Dらは,参加人が,処分行政庁に対して提出する土砂発生場所に係る書面につき,当該場所から土砂を搬入する予定がないにもかかわらず,あるかのように記載することを繰り返している旨主張し,その根拠として,京浜地区側のゼネコン等が,神奈川県P治水事務所長に提出した処理計画書及び処理計画変更届等の内容と,参加人が処分行政庁に提出した特定事業許可申請書,特定事業許可申請内容変更届及び土砂等管理台帳の内容とに齟齬が生じている旨指摘する。
(イ) これに対し,参加人代表者は,本件申請後に残土の搬入元の工事自体が中止していることを知ったために,本件申請時に記載した残土搬入元を変更せざるを得なかった,本件処理場の建設への反対運動により本件申請時に記載していた残土搬入元のゼネコンから参加人への搬出を断られたために,変更せざるを得なかった,原告Dらが指摘するように齟齬が生じている場合には,京浜地区側のゼネコン等や神奈川県P治水事務所長における事務の問題であって,参加人は適正に土砂発生場所を記載し,土砂管理台帳に記入している旨述べる。
(ウ) さらに,参加人が土砂発生場所につき虚偽記載をしたと認めるに足りないのは,上記3ウのとおりである。
イ また,原告Dらは,参加人と同一の法人格である株式会社Gが特定事業を完了していないにもかかわらず,別個の法人格であるかのように装って本件申請をしており,本件行政指導を潜脱している旨主張する。
しかし,上記認定事実及び証拠によれば,参加人と株式会社Gは,本件特定事業が考案されるはるか以前の昭和40年代から,それぞれ異なる事業を行い,別会計において,経営されてきたものと認められるから,原告Dらの主張は採用できない。
また,本件特定事業においても,参加人は株式会社Gと本件業務委託契約を締結し,本件処理場の施工・管理をさせているが,上記のとおり両者の財務基盤が全く別であること,本件特定事業においても参加人が株式会社Gに対し業務費用を支払っていることにかんがみると,行政指導を実質的に潜脱しているともいい難い。
したがって,参加人が本件許可処分を受けるに当たり,本件行政指導を潜脱しているとは認められず,原告Dらの主張は採用できない。
ウ そのほか,原告Dらは,参加人が本件申請にあたり,被告の行政指導に従わずに住民に対する説明会を開催せず,過去にも東京湾に残土を不法投棄したことがあることを指摘して,参加人が特定事業の施工に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるに該当する旨主張する。
しかし,上記認定事実ア,イのとおり,本件指針に従った説明会をしており,原告Dらの指摘は失当である。また,証拠によれば,参加人代表者は,平成6年に,海洋汚染防止法違反により有罪判決を受け,平成8年に,千葉県優良農地林地保全特別措置要綱に違反していたとして行政指導を受けているが,それ以降法規等に違反したとの事実は認められず,上記の15年前の違反事実をもってして,参加人が特定事業の施工に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に該当するとは認められない。
エ したがって,原告Dらの主張は採用できない。
5 争点4について
本件残土条例10条の2は,特定事業許可の申請をしようとする者に対し,あらかじめ,当該申請に係る特定事業区域内の土地の所有者の同意を得ることを要件としているところ,同条の趣旨は,特定事業は地形の変質を伴うことから,土地所有者の同意を得ることでその利益に配慮するとともに,施工中断のおそれを回避する点にあるものと解される。
上記認定事実イないしによれば,本件許可処分時において,本件青道の所有者は館山市であったところ,館山市は,参加人による本件特定事業が許可されれば,本件処分の後に参加人に本件青道の払下げを行う予定であったのであり,処分時の所有者である館山市の利益の配慮に欠けることはなく,また,払下げ後の所有者は参加人自身となるのであるから,施工中断のおそれを回避するという点においても欠けるところはない。
したがって,本件許可処分は,本件残土条例10条の2に違反するものではない。
6 争点5について
本件残土条例12条3項は,森林法10条の2に規定される地域森林計画の対象になっている民有林における開発行為については,本件構造基準規定は適用しない旨定めているところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件特定事業は,森林法10条の2に規定される地域森林計画の対象になっている民有林における開発行為であって,参加人は,森林法10条の2第2項による審査を経て,林地開発許可を得ているため,本件許可処分は,本件残土条例12条1項6号及び10号に違反するものではない。
原告Dらは,第2の3のとおり,本件構造基準規定が適用除外とされる場合ではない旨主張する。しかし,本件残土条例12条3項は,本件構造基準規定が適用除外となる場合を規則に委ね,本件残土条例施行規則6条別表4第6号は,森林法10条の2の規定による許可を要する開発行為と規定するにとどまり,適用除外の例外の場合を想定しているとは解されない。したがって,原告Dらの主張は採用できない。
7 結論
以上によれば,原告らの訴えのうち,原告A,原告B及び原告Cの訴えは不適法であるから却下することとし,その余の原告の請求は理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 多見谷寿郎 裁判官 大谷太 裁判官 原美湖)