最判平成2年4月17日 取締役選任決議の不存在とその後の取締役選任決議の効力

最判平成2年4月17日 取締役選任決議の不存在とその後の取締役選任決議の効力


事件番号
 昭和60(オ)1529
事件名
 地位確認等
裁判年月日
 平成2年04月17日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 判決
結果
 その他
判例集等巻・号・頁
民集 第44巻3号526頁
原審裁判所名
名古屋高等裁判所
原審事件番号
 昭和56(ネ)493
原審裁判年月日
 昭和60年09月11日
判示事項
 取締役を選任する旨の株主総会決議が不存在である場合とその後の取締役を選任する旨の株主総会決議の効力
裁判要旨
 取締役に選任する旨の株主総会の決議が不存在である場合に、その者を構成員の一員とする取締役会で選任された代表取締役が、その取締役会の招集決定に基づき招集した株主総会において取締役を選任する旨の決議がされたときは、右決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り、不存在である。
参照法条
 商法231条,商法254条1項,商法258条1項,商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)252条

判旨
         主    文

    一 原判決中被上告人が上告人の代表取締役の地位にあることの確認及びDが上告人の代表取締役の地位にないことの確認を求める請求に係る部分を破棄し、右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
    二 原判決中被上告人が上告人の取締役の地位にあることの確認を求める請求に係る部分に関する本件上告を棄却する。
    三 その余の本件上告を却下する。
    四 前二項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由

 一 上告代理人斎藤勉の上告理由第一点及び第二点について

 1 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。


  (一) 上告人の発行済株式総数は四〇〇〇株であり、これを被上告人とDが各二〇〇〇株保有している。


  (二) 昭和四九年六月三〇日当時、上告人の取締役には被上告人、D、E及びFの四名が、代表取締役には被上告人が、それぞれ就任していた。


  (三) 被上告人が昭和四九年七月一日取締役を辞任した旨の辞任届及び上告人の同日付け臨時株主総会においてGをその後任取締役に選任する旨の決議がされ、上告人の同日付け取締役会においてDを代表取締役に選任する旨の決議がされたとする各議事録が存し、同月五日、上告人の商業登記簿に「同月一日付けをもって、被上告人が取締役及び代表取締役を辞任し、Gが取締役に就任し、Dが代表取締役に就任した」旨の登記がされているが、実際には、被上告人が取締役を辞任した事実はなく、また、右株主総会及び取締役会は開催されておらず、右各決議が存在するものということはできない。

  (四) 上告人の商業登記簿には、昭和五九年一月三一日D、F及びGの三名が取締役に就任し、Dが代表取締役に就任した旨の登記がされている。


  (五) D及びFは、被上告人が昭和四九年七月一日に上告人の取締役を辞任した事実はなく、同日付けの臨時株主総会及び取締役会における前記各決議も存在しないとする被上告人の主張が本件訴訟において認められた場合に備え、同年六月三〇日当時上告人の取締役に選任されていた者により改めて取締役会を開催した上、被上告人を代表取締役から解任して新たに代表取締役を選任すべく、これを議題とする取締役会の招集を被上告人に請求したところ、被上告人は、これに応じ、昭和六〇年一月二四日D及びFに対し取締役会招集通知を発した。

  (六) 右通知に基づき、同月三〇日、D、F及び被上告人が参集して上告人の取締役会が開催され、被上告人を上告人の代表取締役から解任し、Dを代表取締役に選任する旨の決議がされた。


 2 上告人は、被上告人が上告人の取締役を辞任した事実がなく、前記昭和四九年七月一日付けの各決議が存在しないとしても、昭和六〇年一月三〇日に開催された取締役会において、被上告人を代表取締役から解任し、Dを代表取締役に選任する旨の決議がされたから、被上告人の本件請求のうち、被上告人が上告人の代表取締役の地位にあることの確認及びDが上告人の代表取締役の地位にないことの確認を求める請求は理由がないと主張した。


 3 原審は、前記事実関係のもとにおいて、昭和六〇年一月三〇日当時における上告人の取締役は、商業登記簿に記載されたD、F及びGの三名であることを理由に、同日に開催されたとする上告人主張の取締役会は、上告人の取締役会ということはできず、右取締役会の決議は存在しないと解すべきであると判断して、上告人の右主張を排斥し、被上告人の右請求を認容した。


 4 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。

  すなわち、記録中の上告人の定款によると、上告人の取締役の任期は二年、員数は五人以内と定められていることが、また、同じくその商業登記簿によると、昭和四九年六月三〇日当時上告人の取締役又は代表取締役に就任していた者は、いずれも、昭和四七年一二月二五日に選任(重任)されたものであることが窺われるところ、前記事実関係によれば、被上告人が上告人の取締役を辞任した事実はないというのであるから、被上告人はその任期が満了する昭和四九年一二月二五日まで上告人の取締役たる地位を有していたものというべきところ、同日の経過をもって、被上告人のみならず、D、E及びFの三名の任期も満了するから、上告人は商法二五五条に定める取締役の員数を欠くことになり、したがって、同法二五八条一項に基づき、右四名は、新たに選任された取締役が就職するまで、引き続き上告人の取締役としての権利義務を有するものといわなければならず、また、同法二六一条三項、二五八条一項に基づき、被上告人は、同様に、引き続き代表取締役としての権利義務を有するものといわなければならない。


  もっとも、上告人の商業登記簿上は、昭和五九年一月三一日に新たにD、F及びGの三名が取締役に選任された旨の登記がされていることは原審が確定したところであり、また、記録中の上告人の商業登記簿によると、その前の昭和五三年五月二五日、昭和五六年一月三一日にも新たに取締役が選任された旨の登記がされていることが窺われる。しかし、昭和四九年七月一日付けの株主総会におけるGを取締役に選任する旨の決議が存在するものとはいえないことは前記のとおりであるところ、このように取締役を選任する旨の株主総会の決議が存在するものとはいえない場合においては、当該取締役によって構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、かつ、その取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものではなく(ちなみに、本件においては、Dを代表取締役に選任する旨の昭和四九年七月一日付けの上告人の取締役会の決議自体存在しないことは、原審が確定しているところである。)、株主総会召集権限を有しないから、このような取締役会の招集決定に基づき、このような代表取締役が招集した株主総会において新たに取締役を選任する旨の決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り(最高裁昭和五八年の第一五六七号同六〇年一二月二〇日第二小法廷判決・民集三九巻八号一八六九頁参照)、法律上存在しないものといわざるを得ない。したがって、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできないものと解される。そして、本件においては、このような特段の事情についての主張立証はない。


  してみると、昭和六〇年一月三〇日当時、被上告人、D、F及びEの四名は、商法二五八条一項に基づき、上告人の取締役としての権利義務を有していたものであり、このうち被上告人、D及びFの三名によって同日開催された取締役会における、被上告人を上告人の代表取締役から解任し、Dを代表取締役に選任する旨の前記決議は、招集通知を欠いたEが出席してもなお決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情がある場合には有効と解すべきものである(最高裁昭和四三年(オ)第一一四四号同四四年一二月二日第三小法廷判決・民集二三巻一二号二三九六頁参照)から、この場合にあっては、被上告人は、上告人の取締役としての権利義務は依然として有するものの、代表取締役としての権利義務は消滅し、Dが代表取締役たる地位を取得したものといわなければならない。



したがって、昭和六〇年一月三〇日の時点においては被上告人、D、E及びFの四名が上告人の取締役であるとはいえないことを理由に、同日開催された取締役会における前記決議は存在しないものと解し、被上告人が上告人の代表取締役の地位にあることの確認及びDが上告人の代表取締役の地位にないことの確認を求める被上告人の請求を認容すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽の違法があるものというべきであり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中右請求に係る部分は、破棄を免れない。そして、右部分については、昭和六〇年一月三〇日開催の取締役会の決議の効力につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すべきである。


 二 同第三点について


  被上告人は、商法二五八条一項に基づき、任期満了後も引き続き取締役としての権利義務を有するものと解されることは、前示のとおりである。しかして、記録によれば、被上告人は、右任期満了後に、被上告人が上告人の取締役の地位にあることの確認請求を含む本件訴訟を提起したものであることは明らかであるところ、このような場合には、右請求は、同項に基づく取締役の権利義務を有する者としての地位の確認を求める趣旨のものと解するのが相当であるから、被上告人が任期満了により取締役を退任したものであるか否かについて釈明を求めなかった原審の措置に違法はない。論旨は、採用することができない。


 三 なお、上告人は、原判決中その余の請求に係る部分については、上告理由を記載した書面を提出しない。


 四 よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三九九条、三九九条の三、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    園   部   逸   夫-