民法94条2項 第三者にあたる事例

民法94条2項 第三者にあたる事例

民法94条1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できない。

■ 1項
*虚偽表示とは、表意者と相手方と通じてする真意でない意思表示
 虚偽表示の要件
① 表示内容に対応する効果意思が表意者になかったこと
② 両当事者がその意思があるように装う合意をしていたこと(当事者の通謀)
根拠
*真意でない意思表示なので、意思表示の効果を認める必要性がないために無効

■ 2項
*しかし、虚偽表示の外観を信じて取引に入った者の取引の安全を保護するために、「善意」の「第三者」には、「対抗できない」とされる。
*「対抗できない」とは、存在する効果や事実を主張することができないことをいう。
*94条2項であれば、意思表示の無効というそれ自体としては存在する効果を善意の第三者に対抗できないという意味。

*「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者をいう。
包括承継人とは、ある者の法律上の地位を一括して引き継ぐ者のこと(たとえば相続人・合併後の会社)
*虚偽表示でいえば、虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者であって、虚偽表示に基づいて新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者(最判昭和42年6月29日)
*「善意」とは、効果不発生の合意を知らなかったこと
判例は、「善意」に加え無過失を要件とはしていない(大判昭和12年8月10日)
判例は、対抗要件としての登記・権利保護資格要件としての登記を必要としていない(最判昭和44年5月27日)
*第三者からの転得者も94条2項で保護される(最判昭和45年7月24日)
*善意の第三者からの悪意の転得者は法律関係の早期安定の観点から絶対的構成説をとれば、保護される。

1 第三者にあたる例
① 不動産の仮装譲受人からの譲受人(最判昭和28円10月1日)
 原審は、本件家屋とその敷地がいずれも被上告人の所有に属すること、昭和二二年七月一四日被上告人は訴外Aに本件家屋につき売買による所有権移転の登記をなし、上告人は同年七月二九日訴外Aから本件家屋を買受け、同月三一日その旨の登記をしたものであること、被上告人と訴外人との間の本件家屋の売買が仮装になされたものであること並びに上告人は被上告人と訴外人との間の本件家屋の売買が仮装になされたものであることを知らない善意の第三者であることを認定しているのである。そこで、被上告人は上告人の該敷地の不法占有を理由として家屋収去、土地明渡を訴求しているのであるが、被上告人は善意の第三者たる上告人に対しては被上告人と前記訴外人との間の仮装売買の無効を対抗するを得ないわけであり、しかも本件では、右売買が取毀家屋としてなされたものであるから、前記訴外人から建物を買受けた上告人の所有は被上告人において承認しなければならぬ法律関係にある。それ故、被上告人が上告人の前記家屋所有のために土地賃貸借を設定することを承諾せざる場合には上告人は借地法一〇条により建物買取請求権を有するものといわなければならぬ。なぜならば、かゝる場合においても建物を収去破壊するよりは建物をその儘の状態において経済的価値を保持することは社会のために必要であるからである。そして上告人は本件家屋の買取を請求する旨主張していることは原判決に示すとおりであるから、原審は上告人のこの請求につき審理すべきであるのにかかわらず、判断を遺脱した違法がある。されば本件上告はこの点においてその理由があり原判決は破棄を免れない。

② 仮装譲渡された不動産の上に抵当権を取得した者(大判大4年12月17日)

③ 仮装の抵当権者からの転抵当権者(最判昭和55年9月11日)
1.甲と乙との通謀により甲から乙に対し抵当権を設定したものと仮装した抵当権設定登記が経由されたのち、乙が善意の丙に対し転抵当権を設定し、丙を権利者とする転抵当権設定登記が経由された場合において、丙は、いまだ民法376条所定の対抗要件を具備しないときであっても、原抵当権の設定の無効を理由とする原抵当権設定登記の抹消について、甲に対し承諾の義務を負うものではない。
2.民法94条2項所定の第三者の善意の存否は、同条項の適用の対象となるべき法律関係ごとに当該法律関係につき第三者が利害関係を有するに至った時期を基準として決すべきである。
3.通謀虚偽表示により設定された抵当権につき善意で転抵当権の設定を受け、その登記を経た者に対しては、その者が民法376条の対抗要件を具備していなくとも、原抵当権設定登記抹消についての同意を求めることはできない。
4.通謀による仮装の抵当権設定登記の後、善意の第三者に対する転抵当権設定登記が経由された場合には、右第三者民法376条所定の対抗要件を具備していないときであっても、原抵当権の無効を理由とする原抵当権設定登記の抹消につき承諾の義務を負うものではない。(旧不動産登記法関係)

④ 虚偽表示の目的物の差押債権者(最判昭和48年6月21日)
以上の事実関係のもとにおいては、上告人Bは、本件土地につきA名義でなされた前記所有権取得登記が、通謀虚偽表示によるもので無効であることを、善意の第三者である被上告人に対抗することはできないものであるから、被上告人は本件土地の所有権を取得するに至つたものであるというべきである。このことは上告人Bと訴外Aとの間の前記確定判決の存在によつて左右されない。そして、被上告人は同訴外人の上告人Bに対する本件土地所有権移転登記義務を承継するものではないから、同上告人が、右確定判決につき、同訴外人の承継人として被上告人に対する承継執行文の付与を受けて執行することは許されないといわなければならない。

⑤ 仮装債権の譲受人(最判昭和13年12月17日)