居直り強盗と事後強盗の区別

居直り強盗と事後強盗の区別

事後強盗(刑法238条)
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたちきは、強盗しして論ずる。

居直り強盗とは、窃盗に着手後、家人に発見され居直って暴行・脅迫を加えて、他人の財物を強取するような場合をいい、

事後強盗とは、窃盗が、財物を得たのちに、取り戻されることを防ぎ、逮捕を免れ、罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をした場合をいう。

居直り強盗と事後強盗は、客観的には同じ行為をしており、いずれも成立すると思える。

しかし、居直り強盗は、通常の強盗であるため、暴行・脅迫は、財物奪取の目的でなされる。
これに対し、事後強盗は、逮捕を免れたり、財物の取戻しを防いだりする等の目的が限定される。

したがって、居直り強盗と事後強盗の区別は、暴行・脅迫の目的が、いかなる目的でなされたかによって区別される。

事後強盗罪の判例
最判昭和24年2月15日
暴行脅迫を用いて財物を奪取する犯意のもとに、先ず他人の手にする財物を奪取し、次いで被害者に暴行を加えてその奪取を確保した場合は、強盗罪が成立する。

判旨
暴行脅迫を用いて財物を奪取する犯意の下に先づ財物を奪取し、次いで被害者に暴行を加えてその奪取を確保した場合は強盗罪を構成するのであつて、窃盗がその財物の取還を拒いで暴行をする場合の準強盗ではないのである。

広島高裁昭和32年9月25日
居直り強盗の際居直った後の事後奪取に失敗した場合に強盗既遂罪が成立するとした事例

判旨
被告人等は原判示岩本シゲノ方寝室で、同人所有の現金二百円外一点を窃取し、更に金品物色中右シゲノに感ずかれたので、同女を脅迫し金品を強取しようと考えたが、同女が声を立てると、剣道三段の同家養子孝司が眼を覚し逮捕される虞もあるので、併せてこれを免れるため、その場に居直り、被告人等は交互に刺身包丁等をもつて同女に対し原判示暴行脅迫を加え金品を強奪しようとした際、シゲノの悲鳴を聞きつけて前記孝司が現われたため、同人に逮捕されることを免れるため、同人に対し原判示暴行脅迫を加えた上金品強奪の目的を遂げずして逃走したというのであつて、被告人等の右所為は一面岩本シゲノに対し暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧し金品を強取しようとして遂げなかつた点において強盗未遂罪を構成すると共に、他面窃盗財物を得て逮捕を免れる為右シゲノ及び前記孝司に対し暴行脅迫を加えた点において準強盗既遂の罪を構成するものと解すべきである。してみれば右強盗未遂の罪は右準強盗既遂の罪の中に吸収されて別罪を構成しないものと解すべきである

阪高裁昭和33年11月18日
所謂居直り強盗即ち犯人が財物を窃取した後引続き犯行の現場において強盗の犯意を以つて同一被害者に対し暴行又は脅迫の手段を講じて更に財物を強取しようとしたが、遂げられなかつた場合には、窃盗の既遂罪と強盗の未遂罪とを包括的に観察し、単に重い強盗の未遂罪のみによつて処断すべきである(大正三年二月三日大審院聯合部判決刑録二〇輯一〇一頁参照)。


最判昭和34年3月23日
判旨
同条にいう「逮捕ヲ免レ」というのは、窃盗犯人が一般人によつて現行犯として一応逮捕され、警察官に引き渡されるまでの間、被逮捕状態を脱するため逮捕者に暴行を加えた場合を含むこと当裁判所判例(昭和三一年(あ)八六三号同三三年一〇月三日第二小法廷決定)の趣旨とするところであつてこれを本件について見れば、被告人は昭和三三年六月一日午前一一時二〇分頃京成電鉄津田沼駅より幕張駅に向け進行中の電車内において乗客Aの着用していたズボン左側ポケツト内から同人所有の現金五千円在中の財布を掏り取り現行犯人として乗務車掌に逮捕され、警察官に引渡すべく連行中同日午前一一時二五分頃右幕張駅下り線ホームにおいて右乗務車掌の隙を窺い逃走を企て右車掌に判示暴行を加え因つて同人に判示傷害を与えたというのであるから、被告人の所為は正に窃盗犯人が逮捕を免れるため暴行を為した場合にあたること論をまたない。(所論引用の判例は現行犯として逮捕され留置場に拘禁された後に逃走した場合に関するもので本件に適切でない。)又被告人が右車掌に暴行を加えたのは前記のような状態の下において為されたものである以上、暴行が窃取の時より五分経過して居り電車外のホームで行われたからといつて、右暴行は本件窃盗の現行の機会延長の状態で行われたものというべきであるから被告人の所為がいわゆる事後強盗罪を構成すること明らかである。


最判昭和22年11月29日
事後強盗罪は、窃盗が、財物の取還を拒ぎまたは逮捕を免れもしくは罪跡を湮滅するため、暴行または脅迫を加えた以上成立し、被害者が財物を取還しようとし、または加害者を逮捕しようとする行為をしたかどうかを問わない。

阪高裁昭和26年12月15日
窃盗の現行犯人として被害者に一応逮捕された者が、警察官に引渡されるまでの間に、その逮捕を免れるため、逮捕者に暴行または脅迫をした場合は、事後強盗罪が成立する。