平成24年 重要判例要旨(民事系)

平成24年 重要判例要旨

民法
最判平成24年5月29日
自動車保険契約の人身傷害補償条項の被保険者である被害者に過失がある場合において上記条項に基づき保険金を支払った保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲

要旨 保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害補償条項の被保険者である被害者に過失がある場合において、上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回るときに限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。

阪高裁決定平成24年2月27日
不作為を目的とする債務の間接強制の決定において、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあるとされた事例

最判平成24年2月20日
1 自動車保険契約の人身傷害条項に基づき保険金を支払った保険会社による損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権の代位取得の有無
2 自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において上記条項に基づき保険金を支払った保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲

要旨
1 被害者が被る損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない自動車保険契約の人身傷害条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は、上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって、損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではない。
2 保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において、上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。



会社法
最判 平成24年10月12日
株式会社を設立する新設分割と詐害行為取消権

株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。

東高裁決 平成24年7月12日
いわゆる主要目的ルールに依拠して、新株発行が不公正な方法によるものといえないとされた事例

新株発行が、会社の経営支配権に争いのある状況のもとで、株主の持株比率に一定の不利益を与えるものの、その影響力を低下させることを主要な目的として行われたことの疎明がないとされた事例。

最判平成24年4月24日
1 商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ21第1項に基づく株主総会決議による委任を受けた取締役会が定めた新株予約権の行使条件をその発行後に変更する取締役会決議の効力
2 非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法によってされた募集株式発行の効力
3 非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権の行使条件に反した当該新株予約権の行使による株式発行に無効原因がある場合

要旨
1 取締役会が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ21第1項に基づく株主総会決議による委任を受けて新株予約権の行使条件を定めた場合において,新株予約権の発行後に上記行使条件を変更することができる旨の明示の委任がないときは,当該新株予約権の発行後に上記行使条件を変更する取締役会決議は,上記行使条件の細目的な変更をするにとどまるものであるときを除き,無効である。
2 非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,当該特別決議を欠く瑕疵は上記株式発行の無効原因になる。
3 非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権株主総会によって行使条件が付された場合に,この行使条件が当該新株予約権を発行した趣旨に照らして当該新株予約権の重要な内容を構成しているときは,上記行使条件に反した新株予約権の行使による株式の発行には,無効原因がある。

最判平成24年2月29日
1 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」の意義
2 株式移転における株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率が公正なものとされる場合
3 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」を算定するに当たって参照すべき市場株価として,株式買取請求がされた日における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることが,裁判所の裁量の範囲内にあるとされる場合


要旨
1 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は、原則として、株式移転により組織再編による相乗効果その他の企業価値の増加が生じない場合には、当該株式買取請求がされた日における、株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうが、それ以外の場合には、株式移転計画において定められていた株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいう。
2 相互に特別の資本関係がない会社間において、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には、当該株主総会における株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り、当該株式移転における株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率は公正なものである。
3 株式移転計画に定められた株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率が公正なものと認められる場合には、株式移転により企業価値の増加が生じないときを除き、株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」を算定するにあたって参照すべき市場株価として、株式買取請求がされた日における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることは、裁判所の合理的な裁量の範囲内にある。


名古屋高判決平成24年2月7日
会社の分割が詐害行為に当たるとして,その取消しが認められた事例

要旨
新設分割が詐害行為に当たるとして新設分割会社の債権者が新設分割設立会社に対して当該会社分割の取消しと価額賠償とを求めた請求は、当該会社分割自体に詐害性が認められるほか、新設分割設立会社の代表取締役となった新設分割会社の代表取締役に詐害の意思も認められる上、新設分割会社から新設分割設立会社に承継された資産および負債が可分であるとはいえ、新設分割設立会社から新設分割会社に返還する資産を特定してその返還を命ずることが著しく困難であると認められる原判示の事実関係の下において、会社分割の取消しと、その被保全債権の限度で価額賠償とを求める範囲で、これを認容することができるとした第1審判決は、原判決と特に異ならない本判示の事実関係の下においても、これを是認することができる。


東京地裁決定平成24年1月17日
全株式譲渡制限会社における第三者割当ての方法による新株発行が無効である場合と同社の株主ないし取締役が会社に対して当該新株に基づく議決権行使の禁止を求める仮処分命令の申立ての理由の有無(積極)

要旨
全株式譲渡制限会社における第三者割当ての方法による新株発行が募集事項を決定する株主総会決議が不存在であるために無効である場合には、被保全権利の疎明があるといえるほか、その旨の本案訴訟の判決の確定を待っていては、その間に当該新株発行に係る株式の議決権の行使がされることにより生ずる著しい損害を避けるため、保全の必要性の疎明もあるといえる以上、同社の株主ないし取締役が会社に対して当該新株に基づく議決権行使の禁止を求める仮処分命令の申立ては理由がある。