最判昭和52年10月14日 表見代表取締役と第三者の過失

最判昭和52年10月14日 表見代表取締役と第三者の過失

事件番号
 昭和52(オ)106
事件名
約束手形
裁判年月日
 昭和52年10月14日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
 判決
結果
 破棄差戻し
判例集等巻・号・頁
民集 第31巻6号825頁
原審裁判所名
大阪高等裁判所
原審事件番号
 昭和48(ネ)251
原審裁判年月日
 昭和51年09月29日
判示事項
 代表権の欠缺を知らないことにつき重大な過失がある第三者と商法二六二条に基づく会社の責任
裁判要旨
 会社は、商法二六二条所定の表見代表取締役の行為につき、重大な過失によりその代表権の欠缺を知らない第三者に対しては、責任を負わない。
参照法条
 商法262条

判旨

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人喜治榮一郎の上告理由一について

 商法二六二条に基づく会社の責任は、善意の第三者に対するものであつて、その第三者が善意である限り、たとえ過失がある場合においても、会社は同条の責任を免れえないものであるが(最高裁昭和四一年(オ)第七七七号同年一一月一〇日第一小法廷判決・民集二〇巻九号一七七一頁参照)、同条は第三者の正当な信頼を保護しようとするものであるから、代表権の欠缺を知らないことにつき第三者に重大な過失があるときは、悪意の場合と同視し、会社はその責任を免れるものと解するのが相当である。


 原判決は、本件手形は、上告会社の取締役であつて同会社専務取締役D営業所長なる名称の使用を承認されていたEが、手形振出の権限がないのに、上告会社D営業所専務取締役営業所長名義をもつて振り出したものであること、被上告人は上告会社の取締役であつたFを介し本件手形の割引を依頼されたので、Eにも上告会社の代表権があるものと信じ、同人の代表権につき特に問いただすことなく右手形を取得したこと、被上告人が本件手形の所持人として満期に支払場所で支払のため右手形を呈示したが支払がなかつたことを認定したうえ、上告会社は善意の第三者である被上告人に対し商法二六二条により本件手形の振出人としての責任を負うと判断した。

 しかしながら、本件記録によれば、上告会社は原審において被上告人に重大な過失があると主張しているのであるから、重大な過失の有無を判断することなく、被上告人が善意であるというだけで直ちに、被上告人の請求を認容した原判決には、法令の解釈を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、更に被上告人の重大な過失の有無につき審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    本   林       讓
            裁判官    服   部   高   顯