最判平成23年10月18日 無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできないとした事例

最判平成23年10月18日 無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできないとした事例



事件番号
 平成22(受)722
事件名
 売買代金請求事件
裁判年月日
平成23年10月18日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 判決
結果
 破棄自判
判例集等巻・号・頁
民集 第65巻7号2899頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 平成21(ネ)2386
原審裁判年月日
 平成21年12月22日
判示事項
 無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合における当該物の所有者の追認の効果
裁判要旨
 無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。
参照法条
民法116条,民法560条



主 文
1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。


理 由
上告代理人小林正の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について


1 本件は,ブナシメジを所有する被上告人が,無権利者との間で締結した販売委託契約に基づきこれを販売して代金を受領した上告人に対し,同契約を追認したからその販売代金の引渡請求権が自己に帰属すると主張して,その支払を請求する事案である。


なお,上記の請求は,控訴審において追加された被上告人の第2次予備的請求であるところ,原判決中,被上告人の主位的請求及び第1次予備的請求をいずれも棄却すべきものとした部分については,被上告人が不服申立てをしておらず,同部分は当審の審理判断の対象となっていない。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,Aの代表取締役であるBから,その所有する工場を賃借し,平成14年4月以降,同工場でブナシメジを生産していた。

(2) Bは,平成15年8月12日から同年9月17日までの期間,賃貸借契約の解除等をめぐる紛争に関連して同工場を実力で占拠し,その間,Aが,上告人との間でブナシメジの販売委託契約(以下「本件販売委託契約」という。)を締結した上,被上告人の所有する同工場内のブナシメジを上告人に出荷した。上告人は,本件販売委託契約に基づき,上記ブナシメジを第三者に販売し,その代金を受領した。


(3) 被上告人は,平成19年8月27日,上告人に対し,被上告人と上告人との間に本件販売委託契約に基づく債権債務を発生させる趣旨で,本件販売委託契約を追認した。


3 原審は,被上告人が,上記の趣旨で本件販売委託契約を追認したのであるから,民法116条の類推適用により,同契約締結の時に遡って,被上告人が同契約を直接締結したのと同様の効果が生ずるとして,被上告人の第2次予備的請求を認容した。


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。なぜならば,この場合においても,販売委託契約は,無権利者と受託者との間に有効に成立しているのであり,当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても,同契約に基づく契約当事者の地位が所有者に移転し,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由はないからである。仮に,上記の追認により,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解するならば,上記受託者が無権利者に対して有していた抗弁を主張することができなくなるなど,受託者に不測の不利益を与えることになり,相当ではない。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分に関する請求を棄却すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 那須弘平 裁判官 岡部喜代子 裁判官大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)