最判平成27年3月5日 公害紛争処理法に基づく調停において,調停委員会が第1回調停期日で調停を打ち切るなどした措置が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとされた事例

最判平成27年3月5日 公害紛争処理法に基づく調停において,調停委員会が第1回調停期日で調停を打ち切るなどした措置が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとされた事例

事件番号
 平成25(受)1436
事件名
 損害賠償請求事件
裁判年月日
平成27年3月5日
法廷名
最高裁判所第一小法廷
裁判種別
 判決
結果
 破棄自判
判例集等巻・号・頁

原審裁判所名
高松高等裁判所
原審事件番号
 平成23(ネ)358
原審裁判年月日
 平成25年4月18日
判示事項
 公害紛争処理法に基づく調停において,調停委員会が第1回調停期日で調停を打ち切るなどした措置が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとされた事例
裁判要旨
 公害紛争処理法26条1項に基づく調停において,調停委員会が,調停期日への出席を求めるに当たり「出席する意志がある場合は,下記の日時・場所へお越しください。」等の記載をした期日通知書を被申請人らに送付し,第1回調停期日において調停を打ち切った措置は,次の⑴〜⑶など判示の事情の下では,その裁量権の範囲を逸脱したものとはいえず,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
⑴ 当該調停に係る紛争は,相当以前に処分された産業廃棄物等に係るもので,それらに対する被申請人らの関与の態様や程度は様々である上,被申請人らはいずれも,調停委員会からの事前の意見聴取に対し,調停に応じない旨の意思を明確にしていた。
⑵ 調停委員会が期日通知書に「出席する意志がある場合は,」との文言を含む記載をしたのは,上記⑴の意思を明確にしていた被申請人らに対し手続への参加を強制されたとの誤解を与えないようにとの配慮に基づくものであった。
⑶ 被申請人らは,いずれも第1回調停期日に出席しなかった。
参照法条
国家賠償法1条1項,公害紛争処理法26条1項,公害紛争処理法36条1項


平成25年(受)第1436号 損害賠償請求事件
平成27年3月5日 第一小法廷判決


主 文
原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人らの控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。


理 由


上告代理人田中達也ほかの上告受理申立て理由第2の3(1)について


1 産業廃棄物の最終処分場の周辺地域に居住する被上告人らは,同最終処分場を管理する会社の実質的経営者,産業廃棄物の処分を委託した業者その他関係者を被申請人として,公害紛争処理法(以下「法」という。)26条1項に基づく調停(以下「公害調停」という。)の申請をした。本件は,被上告人らが,同申請を受けて設けられた徳島県公害紛争調停委員会(以下「本件委員会」という。)がその裁量権の範囲を逸脱して違法に,被申請人の呼出手続を行った上,調停を打ち切るなどの措置をしたと主張して,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を求める事案である。


2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。


(1) Aは,少なくとも平成3年4月から5月まで及び平成6年8月から平成7年3月まで,徳島市上八万町に設置した産業廃棄物の安定型最終処分場(以下「本件処分場」という。)に,他の事業者から処分の委託を受けた産業廃棄物を埋め立てるなどし,また,Bは,遅くとも平成11年頃から,本件処分場に残土を投棄した。


(2) 被上告人らを含む本件処分場の周辺地域の住民468名(以下「申請人ら」という。)は,本件処分場を調査した結果,ダイオキシン類や水銀,鉛等の有害な重金属類等が検出されたなどとして,平成19年11月8日,A又はBの実質的経営者,代表者等のほかAに産業廃棄物の処分を委託した業者らの合計18名(以下「被申請人ら」という。)を被申請人として,徳島県知事に対し,被申請人らにおいて本件処分場におけるボーリング調査及び違法に処分された産業廃棄物の撤去を行うことを求める公害調停(以下「本件調停」という。)の申請をした。


(3) 徳島県知事の指名による3名の調停委員から構成された本件委員会は,平成19年12月27日頃,被申請人らに対し,申請人らとの調停に応じるか否かの意見を聴取する書面を送付し,被申請人らは,平成20年2月中旬頃までに,いずれも調停に応じない旨の回答をした。


(4) 本件委員会は,上記回答も踏まえ,本件調停の進行方針等を協議し,平成20年3月18日,本件調停の当事者双方に対し,第1回調停期日を同年4月11日と定める旨の期日通知書を送付して,上記調停期日への出席を求めた。


本件委員会は,調停に応じない姿勢を明確にしている被申請人らに対して出頭を強制しているとの誤解を与えてはいけないとの配慮に基づき,被申請人らに送付した期日通知書には,「調停期日を下記のとおり定めたので,出席する意志がある場合は,下記の日時・場所へお越しください。なお,時間厳守とし,下記時間より30分以上遅れた場合,出席する意志がないものとして扱わさせていただきますので,ご留意ください。」との記載(以下,このうち第1文中の「出席する意志がある場合は,」の部分及び第2文を併せて「本件記載」という。)をしたが,本件記載は他の多くの都道府県における公害調停の期日通知書にはないものであった。


(5) 本件委員会は,平成20年4月11日,第1回調停期日を開いたが,申請人側のみが出席し,被申請人らはいずれも出席しなかった。申請人らは,調停の打切りに反対したが,本件委員会は,当事者間に合意が成立する見込みがないものと認め,法36条1項に基づき本件調停を打ち切った。


3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの請求を一部認容した。


本件委員会が本件記載のある期日通知書を被申請人らに送付したこと及び第1回調停期日への被申請人らの欠席を理由に直ちに本件調停を打ち切ったことは,いずれも不相当であって,これらは一連のものとして本件委員会がその任務を著しく怠ったものと評価することができるから,その裁量権の範囲を逸脱したものであり,国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである。


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。


公害調停は,当事者間の合意によって公害に係る紛争を解決する手続であり,当事者に手続への参加を求める方法,合意に向けた各当事者の意向の調整,法36条1項に基づく調停の打切りの選択等の手続の運営ないし進行については,手続を主宰する調停委員会が,当該紛争の性質や内容,調停の経過,当事者の意向等を踏まえ総合的に判断すべきものであって,その判断には調停委員会の広範な裁量が認められるものというべきである。


前記事実関係によれば,本件調停に係る紛争は,平成3年から同7年までに処分された産業廃棄物及び平成11年頃以降に投棄された残土に係るもので,当該産業廃棄物等に対する被申請人らの関与の態様や程度は様々である上,被申請人らはいずれも,本件委員会からの事前の意見聴取に対し,調停に応じない旨の意思を明確にしていたものである。また,本件委員会が被申請人らに送付した期日通知書に本件記載をしたのは,上記意思を明確にしていた被申請人らに対し,手続への参加を強制されたとの誤解を与えないようにとの配慮に基づくものというのである。そして,本件委員会は,上記紛争の性質や内容に加えて,本件調停の第1回調停期日に被申請人らがいずれも出席しなかったことをも踏まえ,上記紛争について当事者間に合意の成立の見込みがないと認めた結果,続行期日を定めたり,被申請人らに対し法32条に基づく出頭の要求をしたりすることなく,法36条1項に基づき本件調停を打ち切ったものである。


このような事情の下においては,本件委員会が,被申請人らに対し本件記載のある期日通知書を送付し,第1回調停期日において本件調停を打ち切った措置は,その裁量権の範囲を逸脱したものとはいえず,国家賠償法1条1項の適用上違法であるということはできない。


5 そうすると,以上と異なる見解の下に,被上告人らの請求を一部認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人らの請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,被上告人らの控訴を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 櫻井龍子 裁判官 白木 勇 裁判官
山浦善樹 裁判官 池上政幸)