会社法120条「株主の権利の行使に関し」・関係判例

会社法120条「株主の権利の行使に関し」・関係判例

株主の権利の行使に関する利益の供与

1項
株式会社は、何人に対しても、「株主の権利の行使に関し」、「財産上の利益の供与」(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る)をしてはならない。

「株主の権利の行使に関し」とは、株主として行使するすべての権利を含み、株主の権利行使に密接する行為を含む。

□ 第一勧銀利益供与事件 東京地判平成11年9月8日

 三 以上の認定事実を前提に各論点を検討する。
  1 本件融資はAの株主としての権利の行使に関するものか否かについて
(一) 前記認定した諸事情によれば、Aと第一勧業銀行との関係について、Aは、昭和五九年以降、第一勧業銀行に株付けしている総会屋であり、しかも、昭和六三年の同銀行の株主総会において、敵対的な総会屋の発言を制するなどして、その進行に具体的な協力をして以来、第一勧業銀行の総務部関係者からは、Bの愛弟子である大物与党総会屋として扱われるようになったこと、Aが同年以降の同銀行の株主総会に毎回出席して議事進行に協力していたほか、総務部からの依頼を受けて、敵対的な総会屋の出席を阻止するなどしていたこと等が指摘できる。
(二) 次に、本件融資に先立ってなされた第一勧業銀行の小甚ビル又はa名義宛の各直接融資等については、次のような点が指摘できる。
 (1) 昭和六〇年以降、第一勧業銀行からa、小甚及び小甚ビル名義宛の直接融資がなされているが、いずれもBの口添えを得て、かつ、大部分はA自身が直接第一勧業銀行の総務部関係者に融資の申込みを行っており、総務部もAが当該融資資金を運用することを認識した上で、決裁権者の了解を得るなどして、各融資が実行されている。
 実際に、Aは、右各資金を自らの有価証券取引、各企業の株付け資金、証券会社がAのために一任勘定取引で運用するための資金又は証券会社における株式購入資金として運用した。
 (2) 四大証券株式各三〇万株の購入資金の融資については、総務部長のLらにおいて、貸出金額も多額で、かつ、株式の持込み担保の形式によるものであって、当初から一〇億円近くの担保割れとなるリスクの高い融資であることはもとより、小甚ビルが営業実績や資産等がなく、Aのダミー会社であると知っており、総会屋であるAが、株主提案権の存在を背景として四大証券会社に対し違法な要求を行うのではないかと危惧の念を持ちながらも、あえて融資に応ずることにしたものである。
 (3) ゴルフ場関連融資については、当時、第一勧業銀行から小甚ビル名義宛の融資が貸出残高三二億七〇〇〇万円に対して約二三億円の担保割れを、a名義宛の融資が貸出残高一六億五〇〇〇万円に対して約三億円の担保割れを生じていた上、担保提供されたゴルフ場会員資格保証金証書は、ゴルフ場の完成までは担保価値のないものであったから、担保割れの状態が解消されない限り追加融資は困難であった。しかも、右のような担保割れの状態のままでは、平成二年秋に予想されていたMOF検の際に、検査対象となって、総会屋に対する利益供与が発覚するおそれがあったから、担保割れを解消しておく必要が第一勧業銀行側にあった。その結果、Lらにおいて、第一勧業銀行からライベックス名義宛に二五億円を融資し、右融資資金を同銀行の小甚ビル及びa名義宛各融資の返済に充てさせて、担保割れの状態を改善した上で、Aのゴルフ場開発事業参画資金として、同銀行から一五億七〇〇〇万円をa名義宛に融資するとともに、同銀行から大和信用にバックファイナンスをした上で大和信用から一六億円を小甚ビル名義宛に融資するという仕組みを取りまとめ、営業本部及び業務本部と個別に会議を開いてそれぞれ了承を得た上で、右仕組みどおりに実行されたものである。
(4) 右各事情からすれば、各直接融資等は明らかに同銀行としては通常実行し得ないものであり、それにもかかわらず実行された背景には、結局総会屋であるAないしその背後にいるBの同銀行に対する影響力があったものと推認できる。
(三) また、本件融資の前提となった個別貸出が実現するに至った経緯においては、Aの有価証券取引資金の融資として、A本人から総務部に要請がなされ、総務部において、第一勧業銀行にとって与党総会屋であるAの要請であるから実現せざるを得ないことを前提にその対応について検討が始められたこと、同銀行からAに対する小甚ビル名義宛又はa名義宛の直接融資は、平成四年七月時点で、残高が約九〇億円という巨額にのぼり、かつ、返済が大幅に延滞していた上、担保割れも著しく、相当額が回収不能と見込まれていたため、通常では追加融資をなし得ない状況にあったこと、そのため、審査担当役員の了承が得られず、総務部においてAに対し融資の実行が困難である旨述べたこと、それにもかかわらず、Aが融資の実行をなおも強く要求した上、Aに対して影響力を有し、同銀行に対しても強い影響力を有していたBが、Aの依頼を受けて、「吉兆」における会食の場で、直接同銀行の会長であるEと頭取である被告人に対して口添えをし、両名がAへの右融資を実行する方針を示したため、これを実現せざるを得なくなったこと、ただ、第一勧業銀行からの直接融資は前記理由により実行困難なため、最終的には大和信用及び後楽園ファイナンスを関与させた融資の仕組みを採ることとしたこと、融資に関する重要事項の決定に際しては、総務部において、要所要所でAを直接の相手方として報告し了解を求めたりしていたこと、現にAが融資金を自らの有価証券取引資金として使用していたこと、本件融資はBの死去後も継続されていたこと等の事情が指摘できる。
(四) 以上の諸事情を併せ考えれば、本件融資は、第一勧業銀行の株主で与党総会屋であるAに対し、同銀行の株主総会での議事の進行への協力を求める趣旨としてなされたものと認められる。

□ 東京地判平成19年12月6日

 2 争点2(議決権行使株主に対するQuoカード送付の違法性)について
 (1)株主の権利行使に関する利益供与の要件
 会社法120条1項は,「株式会社は,何人に対しても,株主の権利の行使に関し,財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。…)をしてはならない。」と規定している。同項の趣旨は,取締役は,会社の所有者たる株主の信任に基づいてその運営にあたる執行機関であるところ,その取締役が,会社の負担において,株主の権利の行使に影響を及ぼす趣旨で利益供与を行うことを許容することは,会社法の基本的な仕組に反し,会社財産の浪費をもたらすおそれがあるため,これを防止することにある。
 そうであれば,株主の権利の行使に関して行われる財産上の利益の供与は,原則としてすべて禁止されるのであるが,上記の趣旨に照らし,当該利益が,株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与される場合であって,かつ,個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり,株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときには,例外的に違法性を有しないものとして許容される場合があると解すべきである。
 (2)本件贈呈の利益供与該当性
 本件についてこれをみると,被告が有効な議決権行使を条件として株主1名につきQuoカード1枚(500円分)を交付したことは,前記第2の1(5)及び(10)に認定のとおりであり,これは議決権という株主の権利の行使に関し,被告の計算において財産上の利益を供与するものとして,株主の権利の行使に関する利益供与の禁止の規定に該当するものである。
 そこで,本件贈呈が例外的に違法性を有しないものとして許容される場合に該当するか否かについて検討する。
 ア 本件において株主に対して供与された利益の額について検討すると,個々の株主に対して供与されたQuoカードの金額は500円であり,一応,社会通念上許容される範囲のものとみることができる。また,株主全体に供与されたQuoカードの総額は452万1990円であるところ(前記第2の1(10)),平成19年3月期(第35期)における経常利益が3億5848万8000円,総資産が150億7296万5000円,純資産が76億8043万6000円であること(乙25),第35期の中間配当及び期末配当の総額はそれぞれ6912万3500円(甲2の添付資料11−1)であることと比較すれば,上記の総額は会社の財産的基礎に影響を及ぼすとまではいえない。
 イ そして,被告は,本件贈呈は,被告役員のほぼ全員を入れ替えるか否かという被告の将来の事業方針に大きく影響を及ぼす議題が審議される本件株主総会に,できるだけ広く株主の意思を反映させるために行ったものであると主張する。
 なるほど,前記第2の1(5)によれば,本件において,株主は,本件会社提案又は本件株主提案のいずれに賛成しても,また,議決権の代理行使,議決権行使書面及び株主総会の出席のいずれの形で議決権を行使しても,Quoカード1枚(500円分)の交付を受ける仕組となっていることが認められる。
 ウ しかしながら,前記第2の1(5)イによれば,被告が議決権を有する全株主に送付した本件はがきには,「議決権を行使(委任状による行使を含む)」した株主には,Quoカードを贈呈する旨を記載しつつも,「【重要】」とした上で,「是非とも,会社提案にご賛同のうえ,議決権を行使して頂きたくお願い申し上げます。」と記載し,Quoカードの贈呈の記載と重要事項の記載に,それぞれ下線と傍点を施して,相互の関連を印象付ける記載がされていることが認められる。
 また,弁論の全趣旨によれば,被告は,昨年の定時株主総会まではQuoカードの提供等,議決権の行使を条件とした利益の提供は行っておらず,原告との間で株主の賛成票の獲得を巡って対立関係が生じた本件株主総会において初めて行ったものであることが認められる。
 さらに,株主による議決権行使の状況をみると,本件株主総会における議決権行使比率は81.62%で例年に比較して約30パーセントの増加となっていること(甲2,弁論の全趣旨),白紙で返送された議決権行使書は本件会社提案に賛成したものとして取り扱われるところ,白紙で被告に議決権行使書を返送した株主数は1349名(議決権数1万4545個)に及ぶこと(甲24),被告に返送された議決権行使書の中にはQuoカードを要求する旨の記載のあるものが存在すること(甲7の1から3)の各事実が認められ,Quoカードの提供が株主による議決権行使に少なからぬ影響を及ぼしたことが窺われる。
 そうであれば,Quoカードの提供を伴う議決権行使の勧誘が,一面において,株主による議決権行使を促すことを目的とするものであったことは否定されないとしても,本件は,原告ら及び被告の双方から取締役及び監査役の選任に関する議案が提出され,双方が株主の賛成票の獲得を巡って対立関係にある事案であること及び上記の各事実を考慮すると,本件贈呈は,本件会社提案へ賛成する議決権行使の獲得をも目的としたものであると推認することができ,この推認を覆すに足りる証拠はない。
 (3)小括
 以上によれば,本件贈呈は,その額においては,社会通念上相当な範囲に止まり,また,会社の財産的基礎に影響を及ぼすとまではいえないと一応いうことができるものの,本件会社提案に賛成する議決権行使の獲得をも目的としたものであって,株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的によるものということはできないから,例外的に違法性を有しないものとして許容される場合に該当するとは解し得ず,結論として,本件贈呈は,会社法120条1項の禁止する利益供与に該当するというべきである。
 そうであれば,本件株主総会における本件各決議は,会社法120条1項の禁止する利益供与を受けた議決権行使により可決されたものであって,その方法が法令に違反したものといわざるを得ず,取消しを免れない。また,株主の権利行使に関する利益供与禁止違反の事実は重大であって,本件贈呈が株主による議決権行使に少なからぬ影響を及ぼしたことが窺われることは上記判示のとおりであるから,会社法831条2項により請求を棄却することもできない。

□ 最判平成18年4月10日 蛇の目ミシン事件

 イ 株主の権利行使に関する利益供与の禁止規定違反(商法266条1項2号)の責任について
 前記事実関係によれば,本件方策においては形式的には蛇の目ミシンの関連会社が融資の主体として関与するものの,蛇の目ミシン自体やその100%子会社である蛇の目不動産も所有物件に担保を設定するなどしている上,関連会社が支払不能になれば,蛇の目ミシンが最終的に関連会社の債務を引き受けざるを得ないという前提があったというのであるから,本件方策に基づく債務の肩代わり及び担保提供の実質は,蛇の目ミシンが関連会社等を通じてした巨額の利益供与であることを否定することができない。そして,本件方策は,Aが蛇の目ミシン株を住友銀行等に売却するなどと発言している状況の下で,将来Aから株式を取得する者の株主としての権利行使を事前に封じ,併せてAの大株主としての影響力の行使をも封ずるために採用されたものであるから,本件方策に基づく債務の肩代わり及び担保提供が商法294条ノ2第1項にいう「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」されたものであるというべきである。

□ 福井地判昭和60年3月29日

会社及び同社が全額出資する子会社の従業員が、少額資金を継続的に積立てることにより会社の株式を取得し、もって従業員の財産形成をなし、会社との共同体意識の高揚を図る目的で設立された団体である会社持株会の会員らに対し、会社が同会の趣旨に賛同して、同会との取決めにより、従業員の勤労意欲向上等の趣旨も含めて同社の従業員に対する福利厚生の一環として、一定の額及び割合による奨励金を無償で支出することは、商法二九四条ノ二により禁止される利益供与にあたらない。

□ 東京地判平成7年12月27日

二 争点2について
 商法二九四条ノ二第一項は、「何人」に対しても、会社は「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」財産上の利益を供与することができないと規定しているから、供与の相手方は、株主や株主になろうとする者、あるいは、株主から利益供与を受け取ることを指定された者、株主と特別な関係にある者、原告株式の株主に対し影響力を有する者に限られない。これらの者については、「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益が供与されたとの法律上の推定が働き、あるいは、事実上の推定が働きやすいというだけであって、利益供与の相手方が何人であれ、要は、被告らに対する利益供与が「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」て行われたといえるかどうかである。
 本件の場合、被告らに対する依頼の趣旨が、小谷が原告株式を保持することを前提として、その権利行使の妨害等を行うことまで含んでいたかどうかは、証拠上はっきりせず、一応、株式の買取りの限度であったと見るほかない。そして、株式の譲渡それ自体は、商法二九四条の二第一項にいう「株主ノ権利ノ行使」とはいえないから、会社が株式譲渡の対価若しくは株式譲渡を断念する対価として利益を供与する行為又は株式の譲渡等について工作を行う者に利益を供与する行為は、直ちに株主の権利行使に関する利益の供与行為に当たるものではない。しかし、右のような利益供与行為であっても、その意図・目的が、経営陣に敵対的な株主に対し株主総会において議決権の行使をさせないことにある場合には、権利行使を止めさせる究極的手段として行われたものであるから、「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」利益供与を行ったものということができ、商法二九四条ノ二に該当すると解すべきである。
 本件は、明社長を中心とする当時の経営陣が、小谷側株主の株主総会における議決権行使により経営権を奪われることをおそれ、原告株式の防衛買い、さらには小谷側株主の株式の引取りに腐心するなど様々な会社乗取り防止策を講じ、その一環として、甲野及び乙山が被告らに対し、原告株式の買取工作を依頼し、その経費及び報酬として合計一一億七五〇〇万円の利益を供与したものである。したがって、明社長の意を受けた甲野らの利益供与の意図・目的は、小谷側株主の株式を買い取ることにより株主総会における小谷側株主の議決権行使をさせないことにあったと認められるから、甲野らは「株主ノ権利ノ行使ニ関シ」被告らに金員を供与したものというべきである。