専用品に関する間接侵害 一眼レフカメラ事件 

(1)専用品に関する間接侵害
一眼レフカメラ事件 東京地判昭和56年2月25日


理   由

 一 原告が本件特許権について昭和四四年一二月二日その設定の登録を受け力ことは当事者冊に争いがなく、これによれば、格別の事由の認められない本件においては、原告は、同日から存続期間満了の日である昭和五五年一二月一五日(出願日が昭和三五年一二月一五日であることは前記のとおり。)までの間、本件特許権特許権者であることが認められる。そして、本件発明についての特許出願の願書に添附した明細書(補正後のもの)の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 右一に確定した本件特許請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)によって認められる本件明細書の記載及び図面を総合すると、本件発明の構成要件は、次の(i)ないし(6)のとおりであることが認められる。
(1) 撮影レンズを透過する光を測定する方式(いわゆるTTL測光方式すなわちThrough the Taking Lens Measuring)の露光計を組込んだレンズ交換式一眼レフレックスカメラであること、
(2) 自動プリセット絞の可能な交換レンズにおける予定絞設定環と係脱泪在な連動部材が右カメラの本体がわに取付けられていること、
(3) 右連動部材は、常時、バネによって、装着する撮影レンズの絞の開放がわに向って移動復帰しようとする習性を持たされていること。
(4) 右連動部材の移動が、撮影レンズがわに設定された予定絞開口に対応して、カメラ本体に組込まれた前記露光計の指示を自動的に制御するようになっていること、
(5) 手動絞交換レンズによる測光にも兼用しうるものであること、
(6) 以上の特徴を有する(撮影レンズの透過光を測定する方式の露光計を組込んだ)自動プリセット絞式一眼レフレックスカメラであること。

 原告は、右構成要件(5)に関し、「撮影レンズの透過光を測定する方式の露光計を組込んだ手動絞交換レンズによる測光にも兼用しうるものであること」と主張する(請求の原因二1(六))が、本件特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に照らせば、本件特許請求の範囲の記載中の右「撮影レンズの透過光を測定する方式の露光計を組込んだ」との部分は、右「手動絞交換レンズ」ではなく、本件特許請求の範囲の記載末尾の「自動プリセット絞式一眼レフレックスカメラ」を修飾するものであり、かつ、構成要件(1)と重複するものであることが明らかであるから、これが「手動絞交換レンズ」を修飾するものであるとの誤解を生じかねない原告の分説のし方は適切でなく、前認定のとおり分説するのが適切である。

 そして、前掲甲第二号証によって認められる本件明細書の記載及び図面並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件発明は、右のような構成要件を具備することにより、TTL測光方式の露光計を組込んだレンズ交換式一眼レフレックスカメラにおいて、自動プリセット絞の可能な交換レンズの絞開放状態のもとで測光を行い(開放測光)、その時の撮影諸条件を求めうるようにしたことを第一の特徴とし、そのカメラ本体に手動絞交換レンズを装着した場合も何ら付加的手段をとることなくそのままTTL絞込測光方式で使用できるようにしたことを第二の特徴とするものであることが認められ、なお、右構成要件(2)にいう「自動プリセット絞」とは、手動のプリセット絞機構(予定絞設定環)と手動のレンズ絞込機構(絞環等)とを有する方式である(手動)プリセット絞に対し、手動のプリセット絞機構と自動のレンズ絞込機構とを有し、レンズの絞込みが自動的になされる(予定絞設定環を回動してもレンズ絞は全開のままであり、シャッターボタンを押すまでファインダー内に明るい視野を確保でき、シャッターボタンを押すと、予定絞設定環により設定された予定絞値までレンズが自動的に絞込まれる)方式のものをいい、右のようにして自動的に絞込まれたレンズ絞込機構を復帰させてレンズを全開状態にするために特別の操作((1)巻上げレバーの巻上げ、(2)手動の開放レバーの操作、(3)押していたシャッターボタンから手を離し、これを復帰させる操作)を要するものと、このような特別の操作を要しないもの(シャッターボタンを押せば、レンズの全開状態への復帰も自動的に行われる。)の双方を含むことは当事者間に争いがない。

三 被告が、交換レンズ一 (ただし、別紙目録一の説明文三行目に「装着する交換レンズ」とあるのを「装着するための部材を固着した交換レンズ」とすべきであると被告が主張する点を除く。)を少なくとも昭和五○年三月点日から昭和五二年一○月三一日までの間、アダプター二の1(ただし、別紙目録二の1の説明文三、四行目に「装着するための部材」とあるのを「装着するため用いうる部材」とすべきであると被告が主張する点を除く。)を少なくとも昭和四七年八月一日から昭和五○年四月三O日までの間、アダプター二の2(ただし、別紙目録二の2の説明文三、四行目に「装着するための部材」とあるのを「装着するため用いうる部材」とすべきであると被告が主張する点を除く。)を少なくとも昭和五○年五月一日から昭和五二年一○月三一日までの間、コンバージョンレンズ三を少なくとも昭和四五年一○月一日から昭和五三年一一月三○日までの間、アダプター五(ただし、別紙目録五の説明文一云四行目に「装着するための部材」とあるのを「装着するため用いうる部材」とすべきであると被告が主張する点を除く。)を少なくとも昭和四七年一月から昭和五○年一月三一日までの間、コンバージョンレンズ六を少なくとも昭和四七年一月から昭和四九年九月三○日までの間、それぞれ製造、販売したことは当事者間に争いがなく、被告が交換レンズ四をかつて製造、販売した、あるいは現在製造、販売しているとの事実は、本件全証拠によるも認められない。

 したがって、本訴請求中、交換レンズ四に関する部分は、被告がこれをかつて製造、販売した、あるいは現在製造、販売しているとの前提を欠くから、その余の点について判断するまでもなく、理由のないこと明らかである。

四 しかして、仮に、本件発明の対象が、一眼レフレックスカメラ本体のみではなく、自動プリセット絞の可能な交換レンズとこれに対応する特定の構成を有するカメラ本体とから成る一眼レフレックスカメラ全体であり、本件ミノルタカメラ及び本件キャノンカメラが本件発明の技術的範囲に属するものであって、かつ、被告製品(ただし、交換レンズ四を除く。以下同じ。)を本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラのカメラ本体に装着することが本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラの「生産」に該当するとしても、被告製品は、本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラの生産に「のみ]使用する物(特許法第一○一条第一号)とはいえないから、被告製品を製造、販売することは、本件特許権のいわゆる間接侵害を構成しないとの被告の主張に鑑み、被告製品が本件発明に係るカメラの生産に「のみ」使用する物といえるかぞかの点について判断する。

1 特許権に対する侵害とは、本来、正当な権原なくして特許発明の構成全体を実施することであり、したがって、その一部のみの実施は特許権に対する侵害とはならないのであって、これを特許が物の発明についてされている場合についていえば、原則として(均等論等の適用ある場合は別として)、特許発明の構成要件をすべて具備する物の生産譲渡等が特許権に対する侵害となるのであって、その構成要件を一部でも欠如する物の生産譲渡等は特許権に対する侵害とはならないところ、かくては、数個の構成要件から成る特許発明に係る物が二つ以上の部品に分けて生産、譲渡され、譲渡を受けた者によって組立てられ右構成要件のすべてを具備する物が完成される場合において、部品を組立てて完成する業者が多数にのぼり、これに対して権利行使をすることが著しく困難なときや、右組立て、完成が最終の需要者によって個人的、家庭的に行われるためこれに対して権利行使をすることが許されないときなどのように、特許権の効力が著しく減殺されることがあることに鑑み、特許法第一○一条第一号は、特許発明に係る「物の生産にのみ使用する物」を業として生産、譲渡する等の行為に限り、特許権を侵害するものとみなし(いわゆる間接侵害)、特許権の効力を拡張して本来特許権の侵害とならない行為に対してまでもその権利行使を認めたものと解される。



右のように同条(同号)の規定は対世的、絶対的な独占権である特許権の効力を拡張するものであり、そして、旧特許法(大正一○年法律第九六号)改正のための工業所有権制度改正審議会の答申(一般部会関係)においては「特許発明に係る物の組成部分若しくはその物を製作するために使用される材料、機械、装置・・・・・・をその特許権を侵害する目的を以て、又は主としてその特許権の侵害に用いられることを知りながら製作、販売、拡布又は輸入した者は、その特許権を侵害したものとみなす。」(特許庁編、社団法人発明協会昭和三二年二月一日発行「工業所有権制度改正審議会答申説明書」一○八頁)とされていたのが、立法の過程で、「その特許権を侵害する目的を以て、又は主としてその特許権の侵害に用いられることを知りながら」という主観的要件が削除され、代わりに客観的要件において特許発明に係る「物の生産にのみ使用する物」との限定が付されて現行法のような規定となったことに照らすと、右規定にいう特許発明に係る「物の生産にのみ使用する物」の意義は、右規定の適用範囲が不当に広くならないよう、厳格に解釈すべきものといわなければならない。



 してみれば、対象物件が特許発明に係る物の生産に使用する以外の用途を有するどきは、右規定の適用のないこともちろんでおるが、一方、およそあらゆる物について特定の用途以外の用途に使用される抽象的ないしは試験的な可能性が存しないとはいい難く、かかる可能性さえあれば右規定の適用がないということになれば、右規定が設けられだ趣旨が没却されることになりかねないことに徴すれば、右「特許発明に係る物の生産に使用する以外の用途」は、右のような抽象的ないしは試験な使用の可能性では足らず、社会通念上経済的、商業的ないしは実用的であると認められる用途であることを要するというべきである。ただし、同条の規定のし方及び前記立法趣旨に照らせば、対象物件が特許発明に係る物の生産以外の用途を有するものと認められるときは、右規定の適用を求める特許権者においてその用途が 会通念上経済的、商業的ないしは実用的なものではないことの立証責任を負うというべきである。



 これを要するに、第三者の生産、譲渡等に係る対象物件が、特許発明に係る物の生産に使用する以外の、社会通念上経済的商業的ないしは実用的であると認められる用途を有しないときは、右対象物件は特許発明に係る物の生産にのみ使用する物ということができ右規定の適用があるが、かかる用途を有しないとはいえないときは、吉対象物件は特許発明に係る物の生産にのみ使用する物ということはできず、右規定の適用はないものと解するを相当とする。

2 そこで、本件について検討することとする。

(一) 被告製品中、交換レンズ一、交換レンズ鏡筒に取付けられたアダプター二の1、2、又はそのいずれかとコンバージョンレンズ三とを組合せたものが、いずれも、別表一の「装着できるカメラ」欄記載のミノルタ一眼レフレックスカメラのすべてのカメラ本体に装着することができ、各場合に同表「作動の態様」欄記載の作動をすること、更にコンバージョンレンズ三は、別表三のとおり、ミノルタ製の各レンズと組合せたうえ「装着できるカメラ」欄記載のすべてのミノルタ一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着することができ、各場合に「作動の態様」欄記載の作動をすること、交換レンズ鏡筒に取付けられたアダプター五又はこれとコンバージョンレンズ六とを組合せたものが、いずれも、別表二の「装着できるカメラ」憫記載のキャノン一眼レフレックスカメラのすべてのカメラ本体に装着することができ、各場合に同表「作動の態様」欄記載の作動をすること、更にコンバージョンレンズ六は、別表四のとおり、キャノン製の各レンズと組合せたうえ「装着できるカメラ」欄記載のすべてのキャノン一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着することができ、各場合に「作動の態様」欄記載の作動をすること、そのうち、交換レンズ一、交換レンズ鏡筒に取付けられたアダプター二の1、2、若しくはそのいずれかとコンバージョンレンズ三とを組合せたもの、又は別表三のミノルタ製のQ若しくはDのレンズとコンバージョンレンズ三とを組合せたものが、いずれも、SRT1一○一型のカメラ本体に装着されて、全体として本件ミノルタカメラを構成すること、交換レンズ鏡筒に取付けられたアダプター五、又はこれとコンバージョンレンズ六とを組合せたものが、FTb型及び標準仕様たるアイレベルファインダーを装備したFー一型の各カメラ本体に装着され、また、別表四のキャノン製のQのレンズとコンバージョンレンズ六とを組合せたものが、FTb型及び標準仕様たるアイレベルファインダー又はサーボEEファインダーを装備したFー一型の各カメラ本体に装着されて、いずれも、全体として本件キャノンカメラを構成することは当事者間に争いがない。

 しかしまた、交換レンズ一、交換レンズ競筒に取付付られカアダプター二の1、2、又はそのいずれかとコンバージョンレンズ三とを組合せたものは、別表一のとおり、SR1一型、NEWSR1一型、SR1一S型、SR1七型、NEWSR1七型の各ミノルタ一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着されると外光測光方式のカメラとなり、SR1M型、P、H、Wの各ファインダーを装備したXー一型の各ミノルタ一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着されると測光機能を有しないカメラとなり、更にコンバージョンレンズ三は、別表三のミノルタ製の交換レンズのうちX又は田のレンズと組合された場合は、SRT!一○一型、SRT super型、SR五○五型、SR一○一型、AE1Sファインダー又はMファインダーを装備したX1一型、XE型、XEb型、XG−E型、X1D型の各ミノルタ一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着されたときでも、TTL絞込測光方式のカメラとなって、以上いずれの場合も、本件ミノルタカメラ(TTL開放測光方式)を構成せず、本件ミノルタカメラと機構の異なるカメラを構成すること、ただし、この場合、交換レンズ一及びアダプター二の1、2のプリセット絞レバー1、コンバージョンレンズ三の連結レバー3は使用されることなく遊んでしまう(機能を果たさない)こと、また、交換レンズ鏡筒に取付けられたアダプター五又はこれとコンバージョンレンズ六とを組合せたものは、別表二のとおり、FP型、FX型の各キャノン一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着されると外光測光方式のカメラとなり、ペリックス型、ぺリックスQL型、FTQL型、FT型、ブースターファインダーを装備したF1一型、EF型、AE1一型、A1一型の各キャノン一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着されるとTTL絞込測光方式のカメラとなり、サーボEEファインダーを装備したF1一型のカメラ本体に装着されると特別の方式のカメラとなり、更にコンバージョンレンズ六は、別表四のキャノン製の交換レンズのうちA又はBのレンズと組合された場合は、FTb型及び標準仕様たるアイレベルファインダーを装備したFー一型の各キャノン一眼レフレックスカメラのカメラ本体に装着されたときでも、TTL絞込測光方式のカメラとなって、以上いずれの場合も、本件キャノンカメラ(TTL開放測光方式)を構成せず、本件キャノンカメラと機構の異なるカメラを構成すること、ただし、この場合、アダプター五のプリセット絞レバー1、コンバージョンレンズ六の連結桿3は使用されることなく遊んでしまう(機能を果たさない)ことば当事者間に争いがない。
(二) 右事実によれば、被告製品は、少なくとも右(一)後段の各場合には、本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラと機構の異なるカメラ、すなわち本件発明に係るカメラの構成を有しないカメラ(少なくとも本件発明の構成要件(1)又は(2)を欠如する。)のカメラ本体に装着されて使用される用途を有することが明らかである。
 しかして、被告製品が本件ミノルタカメラ又は本件キセノゾカメラと機構o叉な番カメラのカメラ本体に装着されて使用される右各場合には、交換レンズ一並びにアダプター二の1、2及び五のプリセット絞レバー1、コンバージョンレンズ三の連結レバー3、コンバージョンレンズ六の連結桿3は、使用されることなく遊んでしまう(機能を果たさない)ことは前記のとおりであるところ、原告は、右被告製品のプリセット絞レバー又は連結レバー若しくは連結桿は、本件発明の本来の機能を果たすため以外、他に何の用途も持たず、本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラの機構を有するカメラのカメラ本体と組合せて使用される場合にのみその本来の機能を発揮することができるのであるから、右被告製品をもって本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラの生産に「のみ」使用する物と解してしかるべきであると主張する。
 しかしながら、右各場合において、被告製品の機構の一部であるプリセット絞レバー又は連結レバー若しくは連結桿が使用されることなく遊んでしまいその機能を果たさないというだけのことであって、被告製品は、それぞれ、交換レンズ、アダプター、コンバージョンレンズとしての役目は十分に果たし、全体として外光測光方式のカメラ、測光機能を有しないカメラ、TTL絞込測光方式のカメラ又は特別の方式のカメラとして使用することができるのであり、右各場合に被告製品の装着されるカメラ(本体)がいずれも日本カメラショーで一般配布されるカメラ総合カタログに掲載されたものでおること当事者間に争いがなく、この事実並びに《証拠略》によれば、右各場合に被告製品の装着されるカメラが現に市販され、最終需要者によってそのカメラ本体に被告製品が装着されて使用されている事実が存することが認められ、これを覆すに足る証拠はなく、そして、《証拠略》によれば、そもそも被告製品の如き交換レンズ、アダプター、コンバージョンレンズの類は、各種のカメラ(本体)に装着して使用できることが特徴とされ、できるだけ多くの種類のカメラ(本体)に装着して使用できることを一つのセールスポイントとして販売されていることが認められること、本件発明は、前記二のとおり、そのカメラ本体に、自動プリセット絞交換レンズだけでなく、手動絞交換レンズを装着しても撮影できることを特徴(第二の特徴)とするものである(構成要件(5)からも明らかである。)ところ、前掲甲第二号証によって認められる本件明細書の記載及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、この手動絞交換レンズを装着した場合には、カメラ本体の連動部材はその機能を果たさないことが認められるにもかかわらず、右のようにして本件発明に係るカメラの一使用態様として積極的に予定されていること、また、本件口頭弁論の全趣旨によれば、ミノルタMDロッコールレンズは、シャッター速度優先の自動露光撮影ができる最高級機種であるミノルタXD及びXD1Sに適合するよう連動爪を有するものであるが、右カメラより廉価なミノルタXG「E及びXGーSに装着されると、右ミノルタXG1E及びXGーSが絞優先のカメラであるため、右MDロッコールレンズの右連動爪は遊んでしまうにもかかわらず、MDロッコールレンズは、ミノルタカメラ株式会社により、右ミノルタXGーE及びXGーSの標準レンズとして指定され、宣伝、販売され、また、シャッター速度優先のカメラであるキャノンAEー一用のキャノンFDレンズ七、EEピンを有するものであるが、絞優先自動露光方式の最新のカメラであるキャノンAVー一に装着されると、右EEピンは遊んでしまうにもかかわらず、FDレンズは、キャノン株式会社により、右キャノンAVー一の標準レンズとして指定され、宣伝、販売されていることが認められることを併せ考えると、被告製品が本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラと機構の異なるカメラを構成するべくそのカメラ本体に装着して使用される用途は、社会通念上経済的、商業的ないしは実用的なものであると優に認めることができる。

(三) したがって、被告製品は、本件ミノルタカメラ又は本件キャノンカメラすなわち本件発明に係るカメラ以外の、社会通念上経済的、商業的ないしは実用的であると認められる用途を有しないとはいえないことが明らかであるから、前記1に説示したところにより、被告製品は本件発明に係るカメラの生産に「のみ」使用する物ということはできず、被告製品製品の製造販売については特許法第一○一条第一号の規定の適用はないといわなければならない。

 なお、原告は、被告製品は、観念的には、(a)レンズの予定絞設定環についてカメラ本体がわの連動部材と係合する部材を有する、本件発明に係るカメラを構成する構造のものと、(b)右のような部材を有しない、本件発明に係るカメラを構成しない構造のものを重畳的に表現するものであって、それぞれの構成の範囲で別個の用途を持っているとみることができ、(a)の構成を持つ側面から把握するとき、被告製品は、本件発明に係るカメラを構成する用途のみを有し、他に用途を有しないものであるから、本件発明に係るカメラの生産にのみ使用する物と観念されるところ、本件において原告が差止等の対象としているのは、この8の構成を有するものとしての被告製品であるから、かかる差止等の請求を認容することは、特許権の保護の範囲を不当に拡張するものではない旨主張するが、仮に原告主張のように被告製品を分けて観念することができるとしても、本件において原告が差止等の対象としているのは、現実に被告が製造、販売する被告製品そのものであり、これは、取引上の存在としてそれぞれ一個のものであり、原告のいう(a)、(b)両方の側面を併せ有するものといわざるをえないから、原告の右主張は採用するをえず、前記判断を何ら左右するものではない。
3 以上によれば、仮に、本件発明の対象が、一眼レフレックスカメラ本体のみではなく、自動プリセット絞の可能な交換レンズとこれに対応する特定の構成を有するカメラ本体とから成る一眼レフレックスカメラ全体であり、本件ミノルタカメラ及び本件キヤノンカメラが本件発明の技術的範囲に属するものであって、かつ、被告製品を本件ミノルタカメラ又は本件キヤノンカメラのカメラ本体に装着することが本件ミノルタカメラ又は本件キヤノンカメラの「生産」に該当するとしても、被告製品は、本件ミノルタカメラ又は本件キヤノンカメラすなわち本件発明に係るカメラの生産に「のみ」使用するものとはいえず、被告製品の製造販売については特許法第一○一条第一号の適用はないから、これが適用のあることを前提とする被告製品についての本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないこと明らかである。
五 よって、本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 秋吉稔弘 裁判官 水野武 設楽隆一)