最決平成23年5月18日 民事訴訟法38条後段の共同訴訟における9条適用について

※原告が複数の共同被告に対して提起している各訴訟の訴額が140万円を超えないものの、これらを合算すると140万円を超える場合(民事訴訟法38条後段)、事物管轄は簡易裁判所か、地方裁判所か。
※本判決以前の最決平成22年3月23日は、地裁から簡易裁判所への移送決定を認めた原審の判断を肯定していた。
※それに対し、本決定は、各共同訴訟人に対する請求が140万円を超えなくても、訴額の合計をした結果140万円を超えたときは、同一地方裁判所に土地管轄が生じている共同訴訟については訴額の合算が認められるとし、地方裁判所に事物管轄が属すると判断した。

事件番号
 平成23(許)4
事件名
 移送決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
裁判年月日
平成23年05月18日
法廷名
最高裁判所第二小法廷
裁判種別
 決定
結果
 破棄自判
判例集等巻・号・頁
民集 第65巻4号1755頁
原審裁判所名
名古屋高等裁判所
原審事件番号
 平成22(ラ)357
原審裁判年月日
 平成22年11月25日
判示事項
 民訴法38条後段の要件を満たす共同訴訟につき同法7条ただし書により同法9条の適用が排除されるか

裁判要旨
 民訴法38条後段の要件を満たす共同訴訟であって,いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて,同法7条ただし書により同法9条の適用が排除されることはない。

参照法条
 民訴法7条,民訴法9条,民訴法16条1項,民訴法38条後段

判旨
主 文
原決定を破棄し,原々決定を取り消す。
相手方の本件移送申立てを却下する。

理 由
抗告代理人秋田光治ほかの抗告理由について
1 記録によれば,本件の経緯の概要は,次のとおりである。
(1) 抗告人は,相手方を含む貸金業者3社との間でいずれも継続的な金銭消費貸借取引を行ったところ,上記各取引のいずれについても,弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,上記3社を被告として,不当利得返還請求権に基づき,それぞれ過払金の返還及び民法704条前段所定の利息等の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を,抗告人の住所地を管轄する名古屋地方裁判所(一宮支部)に併合して提起した。
本件訴訟の各被告に対する請求額は,いずれも140万円を超えないが,これらを合算した額は140万円を超える。
(2) 相手方は,本件訴訟が民事訴訟法(以下「法」という。)38条後段の要件を満たす共同訴訟(以下「法38条後段の共同訴訟」という。)に当たることを自認しながら,法16条1項に基づき,本件訴訟のうち相手方に係る部分(以下「相手方に係る訴訟」という。)を,抗告人の住所地を管轄する犬山簡易裁判所に移送することを求める申立てをした。
2 原審は,法38条後段の共同訴訟については,法7条ただし書により同条本文は適用されず,受訴裁判所に併合請求による管轄が生ずることはなく,併合請求が可能であることを前提とする法9条を適用して各請求の価額を合算して訴訟の目的の価額を算定することができないから,相手方に係る訴訟は簡易裁判所の事物管轄に属すると判断して,法16条1項に基づき,相手方に係る訴訟を犬山簡易裁判所に移送すべきものとした。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。


法38条後段の共同訴訟であって,いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて,法7条ただし書により法9条の適用が排除されることはないというべきである。


なぜなら,法7条は,法4条から法6条の2までを受けている文理及び条文が置かれた位置に照らし,土地管轄について規定するものであって事物管轄について規定するものではないことが明らかであり,また,法7条ただし書の趣旨は,法38条後段の共同訴訟において,一の請求の裁判籍によって他の請求についても土地管轄が認められると遠隔地での応訴を余儀なくされる他の請求の被告の不利益に配慮するものであると解されるのであり,簡易裁判所ではなく当該簡易裁判所を管轄区域内に置く地方裁判所において審理及び裁判を受けることにより被告が不利益を被ることがあり得るとしても,上記と同様の配慮を要するとはいえないからである。


相手方は本件訴訟が法38条後段の共同訴訟に当たることを自認するところ,いずれの被告に係る部分も受訴裁判所である名古屋地方裁判所が土地管轄権を有しているから,相手方に係る訴訟を含む本件訴訟は,訴訟の目的の価額が法9条1項本文により140万円を超えることになり,同裁判所の事物管轄に属するものというべきである。

これと異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。
4 以上によれば,原決定は破棄を免れず,原々決定を取り消して,相手方の本件移送申立てを却下すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官
千葉勝美)