最判平成23年2月15日 管理組合の給付訴訟における原告適格

権利能力なき社団であるマンションの管理組合が、規定で定められた現状回復義務にもとづく工作物の撤去、規約所定の違約金の支払いまたはこれと同額の不法行為に基づく損害賠償請求、看板等の設置に係る共用部分の使用量相当損害金支払いを求めた事案について、給付を請求する権利を有すると主張する者に、原告適格が認められるとして、権利能力なき社団である管理組合に、原告適格を認めた。

事件番号
 平成21(受)627
事件名
 損害賠償等請求事件
裁判年月日
平成23年02月15日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
裁判種別
 判決
結果
 破棄差戻し
判例集等巻・号・頁
 集民 第236号45頁
原審裁判所名
東京高等裁判所
原審事件番号
 平成20(ネ)3835
原審裁判年月日
 平成20年12月10日
判示事項
 給付の訴えにおける原告適格
裁判要旨
 給付の訴えにおいては,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格がある。
参照法条
 民訴法第1編第3章 当事者,民訴法第2編第1章 訴え

判旨

  • 1 -

主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人丸山英氣の上告受理申立て理由第1について
1 本件は,マンションの管理組合である上告人が,当該マンションの区分所有者である被上告人Y1を含む被上告人らに対し,当該マンションの管理規約に定められた金員の支払,不法行為に基づく損害賠償等を求める事案である。
2 記録によって認められる事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,11階建てのマンションであるA(以下「本件マンション」という。)の管理組合であり,本件マンションの区分所有者全員で構成される団体(建物の区分所有等に関する法律3条)であって,権利能力のない社団である。
(2) 上告人が定めた本件マンションの管理規約(以下「本件規約」という。)には,要旨次のような定めがある。
ア 区分所有者は,本人又はその専有部分の占有者が共用部分に看板の設置をするとき又は共用部分に改造,造作等の変更工事(以下「改造工事等」という。)を行おうとするときは,理事会に申請しなければならない(14条1項)。
イ 理事会は,アの改造工事等を承認しようとするときは,総会の承認決議を得
なければならない(14条2項)。
ウ アの改造工事等が総会で承認されたときは,当該区分所有者は,上告人に承
諾料を支払い(14条3項),当該改造工事等が1階出入口を変更する工事である
場合には,そのほか,上告人に出入口使用料を支払う(同条4項)。
エ 区分所有者が上告人の承諾を得ることなく共用部分に改造工事等を行ったときは,当該区分所有者は,上告人に違約金を支払い,自らの費用で速やかに原状に復帰しなければならない(66条2項)。
オ 区分所有者等がこの規約に違反したとき又は共用部分等において不法行為を行ったときは,理事長は,理事会の決議を経て,原状回復のための必要な措置等の請求に関し,管理組合を代表して,訴訟その他法的措置を追行することができる(67条3項1号)。
カ オの訴えを提起する場合,理事長は,請求の相手方に対し,違約金としての弁護士費用等を請求することができる(67条4項)。
(3) 上告人は,被上告人らが本件マンションの1階出入口を含む共用部分につき,上告人の承諾を得ることなく改造工事等を行ったなどと主張して,次のアないしウの各請求をするとともに,被上告人Y1が上告人との間で締結した本件マンションの共用部分に看板等を設置してこれを使用することを内容とする契約(以下「本件使用契約」という。)の終了後も権原なくその使用を継続していると主張して,次のエの請求をしている(以下,これらの請求を併せて「本件各請求」という。)。
ア(ア) (主位的請求)
被上告人Y1に対する本件規約66条2項に基づく原状回復請求としての上記改造工事等によって設置された工作物の撤去請求
(イ) (予備的請求)
被上告人Y1に対する本件規約14条3項に基づく承諾料及び同条4項に基づく1階出入口使用料の請求
イ 被上告人らに対する本件規約66条2項に基づく違約金又はこれと同額の不法行為に基づく損害賠償の請求
ウ 被上告人らに対する本件規約67条4項に基づく弁護士費用相当額の違約金又はこれと同額の不法行為に基づく損害賠償の請求
エ 被上告人Y1に対する本件使用契約終了後の上記看板等の設置に係る使用料
相当損害金の請求
3 原審は,本件マンションの共用部分は区分所有者の共有に属するものであるから,本件各請求は区分所有者においてすべきものであると判断して,上告人の原告適格を否定し,上告人の請求を一部認容した第1審判決を取り消して,本件訴えをいずれも却下した。


4 しかしながら,上告人の原告適格を否定した原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
給付の訴えにおいては,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格があるというべきである。本件各請求は,上告人が,被上告人らに対し,上告人自らが本件各請求に係る工作物の撤去又は金員の支払を求める権利を有すると主張して,その給付を求めるものであり,上告人が,本件各請求に係る訴えについて,原告適格を有することは明らかである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件各請求の全てにつき,上告人の代表者が本件訴訟を追行する権限を有するか否かを含め,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官
大谷剛彦)