法人格なき団体の当事者能力 と 関連判例(1)

法人格なき団体の当事者能力 と 関連判例

1 基本的概念メモ
(1)当事者概念
形式的当事者概念による当事者=訴え又は訴えられることによって判決の名宛人となる者
かつての通説だった実体的当事者概念による当事者=訴訟物たる権利関係の帰属主体

(2)形式的当事者概念が異論なく採用されている根拠
 実体的当事者概念では説明できない現象(訴訟法上の制度)があるため
①第三者の訴訟担当(訴訟物である実体法上の権利・権限帰属主体以外の第三者が訴訟を追行する当事者となるもの)

② 確認訴訟
確認訴訟というのは対象無限定であり、確認の利益さえあれば、自分が主体でない法律関係・権利についてもその確認を求めることができる。

 
(3)当事者能力の存在を看過して本案判決をすることができるか。
 ① 内容的な効力を生じないという意味で無効判決という見解
 ② 当該案件の限りでは当事者能力者として扱うことになるとする見解

2 関連判例
(1)法人でない団体に当事者能力が認められるための要件
最判昭和39年10月15日
法人格を有しない社団すなわち権利能力のない社団については、民訴四六条がこれについて規定するほか実定法上何ら明文がないけれども、権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならないのである。しかして、このような権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属する。そして権利能力のない社団は「権利能力のない」社団でありながら、その代表者によつてその社団の名において構成員全体のため権利を取得し、義務を負担するのであるが、社団の名において行なわれるのは、一々すべての構成員の氏名を列挙することの煩を避けるために外ならない(従つて登記の場合、権利者自体の名を登記することを要し、権利能力なき社団においては、その実質的権利者たる構成員全部の名を登記できない結果として、その代表者名義をもつて不動産登記簿に登記するよりほかに方法がないのである。)。

⇒①団体としての組織を備え、②多数決の原則が行われ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることが要件と考えられていた。


(2)財産的独立性の要件について
 必要説と不要説の対立
 必要説に対して、伊藤教授は、「団体の債権者が債務の履行を求めて団体を訴える場合以外に意義があるのかという批判を述べ、財産的独立性は、団体が金銭支払請求訴訟の被告となっている場合は当事者能力を認定する際の不可欠の要件であるが、その他の場合には他の要件と相まって能力を認定するための補助的要件として働く」として否定的に解する見解が台頭した。そして、最判平成14年6月7日には不要説を解される判例が出される。
 
最判平成14年6月7日
 民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たるというためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない(最高裁昭和35年(オ)第1029号同39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁参照)。これらのうち、財産的側面についていえば、必ずしも固定資産ないし基本的財産を有することは不可欠の要件ではなく、そのような資産を有していなくても、団体として、内部的に運営され、対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組みが確保され、かつ、その収支を管理する体制が備わっているなど、他の諸事情と併せ、総合的に観察して、同条にいう「法人でない社団」として当事者能力が認められる場合があるというべきである。
 これを本件について見ると、前記1の事実関係によれば、上告人は、預託金会員制の本件ゴルフ場の会員によって組織された団体であり、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、規約により代表の方法、総会の運営等が定められているものと認められる。財産的側面についても、本件協約書の前記(ウ)の定め等によって、団体として内部的に運営され対外的にも活動するのに必要な収入の仕組みが確保され、かつ、規約に基づいて収支を管理する体制も備わっているということができる。さらに、上告人と被上告人との間で本件協約書が調印され、それに伴って規則も改正されているところ、その内容にも照らせば、上告人は、被上告人や会員個人とは別個の独立した存在としての社会的実体を有しているというべきである。以上を総合すれば、上告人は、民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たると認めるべきものであり、論旨は理由がある。

⇒本判決は、財産的側面について、必ずしも固定資産ないし基本的財産を有することは不可欠の要件ではないとして、財産的独立性の有無について不要説を採用することを明らかにしたと考えられる。