株式交換無効の訴え

株式交換無効の訴え
1 株式交換 
(1)意義
 株式交換とは、株式交換完全子会社がその発行済株式の全部を他の会社(株式交換完全親会社に取得させることをいう(2条31号)

 会社が株式交換をするには、株式交換契約を締結(767条・768条)
 原則として各当時会社の株主総会の特別決議による承認を受ける(783条・795条1項・804条1項・309条2項12号)。なお、種類株式発行会社においては、種類株主総会の承認を受ける必要がある『322条1項7号等』

 株式交換は、株式交換契約に定めた「効力発生日」(768条1項6号・合意で変更可能・790条1項)にその効力が生じ、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の発行済み株式の全部を取得する(769条1項2項)。

 株式交換完全子会社の株主は、株式交換の対価として株式交換契約に定められた金銭等(768条1項2号・3号)の公布を受ける(769条3項)

+上場子会社の完全子会社化
 子会社の少数派株主の利益をどのように図るか
+二段階買収
 公開買い付けによって被買収会社の支配権を取得できるだけの株式を取得
 その後株式交換により、完全子会社化することがある MBO

(2)組織再編手続
 株主総会の特別決議
+承認決議の要件が加重される場合
 ① 株式交換の対価として、公開会社の株主が譲渡制限株式等(783条3項規則186条)の交付を受けるときは、株主総会の特殊決議(309条3項2号3号)、
 ② 株主が「持分等」(783条2項規則185条)の交付を受けるときは、総株主の同意が必要である(783条2項・804条2項)
 ただし、種類株式発行会社の場合には、ある種の株主が譲渡制限株式等または持分等の交付を受けるときに、当該種類の株式の種類株主総会の特殊の決議による承認または当該種類株主全員の同意が必要となる(783条3項4項・804条3項)

 
 株主総会における開示
 書面投票・電子投票を行う会社では、株主総会参考書類として、組織再編を行う理由や内容の概要、事前開示事項の内容の概要などが開示される(301条・302条規則86条から91条)

 株主総会決議の承認を要しない場合
① 簡易組織再編
② 略式組織再編

□ 組織再編等の差止請求制度の新設(784条の2・796条の2第1項・805条の2)
「吸収合併等」とは、吸収合併・吸収分割・株式交換のこと(782条1項)
「消滅株式会社等」とは、吸収合併消滅株式会社・吸収分割株式会社・株式交換完全子会社のこと(782条1項カッコ書き・各号)
784条の2 次に掲げる場合において、消滅株式会社等の「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」は、消滅株式会社等の株主は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等をやmることを請求することができる
1号 当該吸収合併等が「法令又は定款に違反する場合」
2号 略式型再編の場合「著しく不当」

「存続株式会社等」とは、吸収合併存続会社、吸収分割承継株式会社、株式交換完全親会社株式会社(794条1項)
(吸収合併等をやめることの請求)
796条の2 次に掲げる場合において、存続株式会社等の「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」は、存続株式会社等の株主は、存続株式会社等に対し、吸収合併等をやめることを請求することができる。
ただし 一定の場合
① 「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」
② 「法令又は定款に違反する場合」








□ 反対株主の株式買取請求権
組織再編が当時会社の株主に重大な影響を与えることにかんがみ、反対株主は会社に対し、自己の保有株式を「公正な価格」で買い取ることを請求できる(785条・797条・806条)。

(1)反対株主の範囲
① 当該組織再編のための株主総会の承認を要する場合には、当該総会に先立って組織再編に反対する旨を会社に通知し、かつ総会で実際に反対の議決権を行使した株主(785条2項1号イ・797条2項1号イ・806条2項1号)

 事前に反対の通知を要求する趣旨は、株式買取請求権がどの程度行使されそうなのかを会社が事前に予測し、場合によっては組織再編中止の機会を与えることにある。

② 当該総会で議決権を行使できない株主(785条2項1号ロ・797条2項1号ロ・806条2項2号)・具体的には、議決権制限株式の株主 や 基準日のあとに株主総会の日までに株主になった者

③ 当該組織再編について株主総会の承認を要しない場合、すべて反対株主(785条2項2号・797条2項2号)になる

 略式組織再編など、簡易組織再編などにおける株式買取請求におえる特別支配会社に株式買取請求権を認めないこと(785条第2項第2号・797条第2項第2号・469条第2項第2号)

 簡易組織再編の存続会社等の株主や簡易事業譲渡の譲受会社の株主の株式買取請求権を認めないこと(797条1項但書・469条1項2号)
株式交換の無効については、合併の場合と同様に無効の訴えの制度が設けられている(828条1項11号)。

+基準日後の株主は反対株主か
 基準日以前に株主を取得しながら名義書換えを怠っていた株主名簿上の株主は反対株主にあたらないとした裁判例(東京地決平成21年10月19日)

(2)権利の行使手続


(3)「公正な価格」
趣旨 組織再編がシナジー等をつうじて 企業価値を増加させるときは、反対株主に対して、組織再編がない場合として場合に実現する株式価値だけではなく、組織再編による企業価値増加の公正な分配分も保証する趣旨である。

もっとも、組織再編が企業価値を毀損するときは、反対株主には「ナカリセバ」価格が保障される。

 そこで、「公正な価格」とは、組織再編による企業価値増加分を公正に分配した価格と、ナカリセバ価格のうち、郄い方をいう。

*価格算定の基準時
株式買取請求権により当事者間では売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じる
しかし、反対株主間の観点から基準時を統一し、基準時を選べることによって他の株主の負担での投機行為を避けるため、組織再編の効力発生日とすべきである。


*株式等の買取りの効力発生時、価格決定前の仮払い制度
① 株式買取請求にかかる株式買取の効力が発生する時点を組織再編等の「効力発生日」(117条6項)
② 買取請求を受けた会社は、価格決定前に、反対株主に対して会社自身が公正なか価格と考える額を支払うことできる(786条5項)

*公正な価格の決め方
 裁判所は、①組織再編の当時会社が互いに独立した場合
      ②そのでない場合
①の場合には、独立当事者間の組織再編においては、各当時会社があえて自社の株主に不利な条件で取引をすることは考えにくいため、組織再編の条件が公正でないこと、または組織再編自体が企業価値を毀損したことを強く推認させる特段の事情を反対株主が疎明しない限り、裁判所は、組織再編は公正かつ企業価値を毀損せずに行われたという前提にたって「公正な価格」を決定すべき。そこで、基準時における現実の株式の価値を基準とする。

②の場合には、組織再編の当事者が互いに対等とはいえず不利な組織再編が行われる危険が大きい。そこで、特別委員会や第三者評価機関の措置が実効的に機能したのかを審査し、独立当事者間の取引と同様に公正な手続が行われていたかを判断する。行われていれば①と同じ。行われていない場合には、裁判所が同時に公正な価格を決定する。



*無効判決には対世効が認められている(838条)

*遡求効が否定されている(839条)

*無効判決が確定すると、完全親会社は株式交換で取得した株式を完全子会社の株主に戻すことになる(844条)