生命・身体に関する罪

□ 胎児傷害

最判昭和63年2月29日
病変が人に発生することを要求する立場を仮定した上で、そでもなお本件で業務過失致死財がするとの論証について
母体の一部を傷害したとの判断をしているのか?

① 母体とは別の生命主体にもかかわらず、胎児傷害を母体傷害評価することは不当ではないか
② 病変の発生する人と結果の発生する人とのズレをおそよ「人」とくくることは、抽象的法的付合説でも不可能ではないか

そこで、あくまで刑法は堕胎の罪によって胎児の生命を独立に保護しているから、実行行為の時に胎児であってものについては、堕胎の罪以外は成立しないのではないか
あくまで、母体の一部を傷害したものと判断

□ 保護責任者遺棄罪
218条
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

遺棄罪の保護法益
生命・身体の安全を保護法益
抽象的危険犯

217条の遺棄は、狭義の遺棄として、被遺棄者を他の場所に積極的に移動させることをいうが、218条の遺棄は、218条で不保護を含むことから、移置と置き去りの双方を含むと解される

保護責任者遺棄罪は、保護責任者に対する不真正身分犯である。
不保護罪は、真正不作為犯である

保護施規には、先行行為や引受け行為などがある

最判昭和63年1月19日
① 堕胎行為により母体外に排出された未熟児であるかに、生命保存期間の有無・生存可能性は必要か
② 未熟児は遺棄罪における「幼年者」にあたるとして、保護責任としての先行行為・事実上の引受け・排他的支配
③ 不作為による殺人の違い→「殺意」の有無
 保護責任と作為義務の違い

+ひき逃げに保護責任者遺棄罪は成立するか
 道交法での救護義務を直ちに保護責任とはいえないが、引受け行為があり、排他的支配があるときは、保護責任者遺棄罪を認める余地はある。

遺棄等致死傷罪(219条)
前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により初段する。

217,8条の結果的加重犯
死の結果の認識については、殺意に至らない程度の場合にも、219条は成立すると解する。

□ 暴行罪
刑法208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金または拘留若しくは科料に処する。

暴行罪の保護法益は、人の身体の安全なので、「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行為をいう。
被害者に接触しなかった場合等も、暴行罪は傷害未遂を含む趣旨なので、被害者に接触せずとも、傷害の現実的危険性があれば、認められる。
また、被害者の周辺で太鼓を強打して、脳に不良を生じさせることも含まれる。

□ 暴行によらない傷害
※ 傷害の故意がなければ過失傷害罪(209条)が成立するにとどまるため、両者の区別が必要
最判平成17年3月29日
暴行によらない傷害を認めた事例



□ 逮捕監禁罪・略取誘拐罪
220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
221条
前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

「逮捕」とは、人の身体を直接的に拘束してその身体活動の自由を奪うことをいい、

「監禁」とは、人の身体を間接的に拘束して、その身体活動の自由を奪うこと

客体 身体活動の自由を有する自然人で、事実上意思活動をなし得る能力があれば可能
身体活動潜在的・可動的自由を害していれば、具体的な活動への意思能力は不要
したがって、熟睡中の者等も含まれる。

被害者の認識として、身体活動の自由は潜在的・可能的自由で足りる以上具体的な認識は不要であり、欺罔によりタクシーに乗せた時点で監禁罪を認めることができる。

罪質としては、継続犯である。



略取・誘拐罪の保護法益
被拐取者の自由及び被拐取者が要保護状態にある場合は親権者等の監護権も含まれる。
罪質は継続犯。

「略取・誘拐」とは、人をその生活環境から不法に離脱させて、犯人自身又は第三者の実力支配下に移すことをいう。

「略取」とは、暴行・脅迫を手段として、被拐取者又は監護権者の意思に反して行う場合をいい、「誘拐」とは、欺罔・誘惑を手段として、被拐取者又は監護権者の意思に反して行う場合をいう。

未成年者誘拐罪224条
未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する
親告罪(229条)
被拐取者の自由が第1の保護法的であるが、監護権者が日監護権者の従来の生活環境を不当に変更することも考えられるので、未成年者の監護権者も本罪の主体となりえる

客体が未成年者であっても、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害の目的がある場合には、営利目的等拐取罪が成立し、本罪は吸収される。


営利・わいせつ等目的拐取罪(225条)
営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10根にかの懲役に処する。

身代金目的誘拐罪等(225条の3)
近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期懲役または3年以上の懲役に処する。

「安否を憂慮する者」として、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係」

強姦罪・強制わいせつ罪
176条 
13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対して、わいせつな行為をした者も、同様とする。

わいせつな行為とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的恥辱心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうと解される。

暴行・脅迫は、相手方の反抗を著しく近案にする程度のもの。

わいせつ目的 傾向犯
嫌がらせ目的である場合には、強要罪が成立する(判例
もっとも、条文上にない要件を要求することに疑問もある

被害者の承諾と年齢の錯誤
13歳以上の被害者の承諾がある場合は、被害者の性的自由を害するものではないので本罪は成立しない。しかし、13歳未満の被害者の同意があっても、本罪は成立する。

13歳未満の被害者の承諾があった場合に、わいせつな行為をしても、被害者が13歳以上と誤認していた場合には、事実の錯誤として、故意阻却


177条
暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

暴行又は脅迫 相手方の反抗を著しく困難にする程度のもの
実効の着手時期 法益侵害の現実的危険性があるとき (ダンプカーへの連れ込み等)

□ 住居侵入罪
130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦艇に侵入し、要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去したかったものは、3年以下の懲役または10間年以下の罰金に処する。

「住居」とは、人の日常生活に利用させる場所をいい、囲繞地についても、居住者に通常利用され、住居と不可分なので、住居の一部をいえる。

「人の看守する邸宅」とは、住居以外で、人が事実上管理する建造物等をいう。
共同住宅における共用部分・踊場等

「侵入」とは、住居権者の意思に反する立ち入り。黙示でもよい。